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墜ちて、落ちて、目の前真っ暗。

よろしくお願いします

 いろんなものと一緒に吐き出されてしまった。

 目の前が明るくなって暗闇の世界から解放されたのはいいのだけれど、浮遊感の後にすぐ落下しだした。


「落ちる、落ちるよぉ〜」


 ワームに喰われて、その闇の中で抱きついた子は、腕のうち、


「母ちゃん」


 力なく、微かな呟きが聞こえる。

命あるものを抱きしめているんだと自分の挫けかけた心をふるい立たせて、


「大丈夫。大丈夫だよ」


 改めて、ぎゅっとしてあげた。


   さあ、


 頭を左右に動かして、状態を確認する。

下を見れば、地面に大穴が空いている。

 その周りの通りや、建物の色が変わっているのは、ワームの吐き出したものの影響かな。

飛び出し方にムラがあったことがよかったのか、真下に落ちて同じ穴には落ちずに、ズレて淵あたりに落ちそうだ。

 あっ赤い毛の子供が見えた。多分、シュリンちゃんだね。良かったよ、無事みたいだ。


『ヴォロ・ディセェレ』


 抱えている子供越しに手を合わせ握り、私は'主'へ乞い願う。


『ギャザー.エル<アプフォルド>』

  

《・》


 どうやら聞き届けられたようで、風が私たちを追い抜き、下へ下へと吹いていく。地面にを見ると、砂煙が集まっているように見えて、かなり強い風が吹いているよう。


  フッ


なんか薄い膜見たいのをたいのを通った。


   フッ、フフッ、ブン


 同じようなものを何枚か通っていく。だんだんと幕が厚くなっていく感じがした。落ちる速度もゆっくりとなっていく。


   ドォン


 地面にがかなり近くになって、ぶ厚い膜を通過して、空中でほぼ止まる。もう少しかな。


   ドシャ


「痛え」


 あとすこしというところで、堪えきれずにお尻から地面に着地をして仰向けに落ちた。

でも抱えていた子は離さなかったよ。


『グラディアス・ドゥミィニイ』


 主への感謝は忘れない。


「痛てて、 もうちょっとだったけどなぁ」


 片手で腕の中の子を抱え、上体を起こした。


「お姉ちゃん」


 おっ、シュリンちゃんが走って近づいて来た。そのまま抱きついくる。


「お姉ちゃん、大丈夫? ドシャって、なんか噴き上がって、そうしたら空から降って来たんだよ」


 グリグリとシュリンちゃんは頭を擦り付けてくる。そのうちに、ハッと身を離して、


「お姉ちゃんくさい!、酸っぱくさい臭いするぅ」


 自分の鼻先を手で押さえてシュリンちゃんは抗議してきた。

 そう言われてもねえ、ワームに喰われて胃液で溶かされ損なったからなあ、仕方ないよ。

 周りにも、それが飛び散っているから、周囲は酸っぱくさい匂いでいっぱいだと思うよ。

すると腕の間で抱えていた子が身じろぎをする。


「母ちゃん」


 シュリンちゃんが、それを聞いて覗いてきた。


「この子、誰?………えっ、クーリエくん。クーリエくんだよね。なんで、お姉ちゃんといるの?」


 そうか、この子クーリエって言うんだ。それもシュリンちゃんの知り合いなんだ。


「クーリエくんっていつも私とお姉ちゃんに挨拶していた子だよ」


 あっあの子かあ。私を'聖女'って言ってくれた子だぁ。


「きゃああああ」


 いきなりシュリンちゃんが叫び声を上げた。


「クーリエくんの、クーリエくんの……」


 シュリンちゃんの視線が彼の下半身に移っていく。終いにガダガタと体が震えだした。


「どうしたの? 何があるの」


 私は、私の上に横たわるクーリエくんを、そっと下ろして地面に横たえた。

彼の体を観察していく。顔から、胸、腹、毛皮がちぢれ爛れて、変色している。下半身に行くに従って、その程度が酷くなっていく。


「こっ、これって」 


 嘔吐きそうになるのを無理矢理、手で押さえた。

彼の膝から下の毛皮がない。溶けてなくなっている。皮膚もない、肉もないんだ。あるのは、赤黒い棒状なもの、骨なんだ。それも、足首から先がない。全てワームの胃液に、溶けて吸収されたんだ。


「こっこれで……」


 もう、言葉にならなかった。

これでよく生きているんだ。


「母ちゃん」


 譫言のように、クーリエが呟く。

その言葉を聞いてシュリンちゃんが私の顔を見てくる。


「お、お姉ちゃん…」


 言葉が出てこない。

うん、わかるよシュリンちゃん。あなたの言いたいこと。

 でも、彼女は、私に請う。


「お姉ちゃん、クーリエくんを助けて! このままじゃ死んじゃう。お願い、助けて」


 シュリンちゃんのお友達。いつも、朝と帰りに挨拶してくれる、クーリエくん。


「お金がいるなら、私の毛皮売っちゃう。目だって。足りないなら、命だって」


 そこから先は、私は彼女の唇を指で止めさせる。

私も助けたいよ。


 ならば、


「シュリンちゃん。あなたは聖教会に入ったのだから」


 彼女の円らな瞳を凝視する。


「主に祈りなさい。啓示受けし大聖女と共に」


 私は、手を組み指で印を結ぶ。


『ヴォロ・ディセェレ』


 主よ、私、トゥーリィは乞い願う。


「ヴォロ、…ディシェイレ」


 拙い言葉でシュリンの願った。


『レスレクティ<リジェレネーション>』


 私は、トゥーリィは言葉を紡ぐ。

シュリンも、ならって繋いでいく。

 私の額のあざがチリチリと炙られているように痛み出す。

どうやら聞き届けられそうだ。

 周りから紫色の光が私の前に横たわる彼の足に集まり注がれる。

 周りを文字のような文様のような光るものが乱舞してきた。

 それら全てが足にまとわりつく。そして弾ける。


彼の足が再生した。


 それに気づいたシュリンが私に抱きついてきた。


「お姉ちゃん、やったね。ありがとう。元に戻ってるよ」


シュリンの目から、涙が溢れる。私も目を細めたよ。


「主へ感謝だよ」


シュリンちゃんにも促した。


『グラディアス・ドゥミィニイ』


 なんとか、一通り終わったようで、ほっとしく安気になって思い出した。

 こう言う、魔法なりで壊したものは自分で弁償すると。目の前に空いた大穴を見ながら、ワームの胃液にを浴びて溶けた街並みを見て慟哭する。

 今回、レディ・コールマンもロード・フィリップも関わっていない。と言うことは援助は見込めない。全部私負担、なの。

 教会なんか消し飛んで、よるべを無くして夜をひさぐ女になるしかないのかなあ。

これは、’主'へも啓示受けし聖女にも聞けないヨォ。


もう、思考も止めてエヘラエヘラと笑うしかなかった。





















ありがとうございます。

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