辻立ちの行?
辻は聖なるものと異なるものの通り道。と聖教会で教えてもらった。それ故に澱みも溜めてはならんと聖女が浄化をしている。まあ外回りなんで、私みたいな見習いを修行と称してさせられているのが実情。
さっきまでいた粉屋の先にある辻へと赴いた。
「お姉ちゃん」
呼び止められた。
「シュリンちゃん」
最近、聖教会の部屋住みの見習いとなった獣人狼族の女の子セリアンの妹。2人して入信したんだ。
しゃがみ込み、目の高さを合わせて聞いてみる。
「どうしたの?こんなところまで」
「あのね、セリアん姉ちゃんがに言われたの。様子見てこいって」
あちゃー、ミュラーさんの粉屋で、時間かかり過ぎたからなあ、心配させちゃたかな。
「それでね、腹減ったから呼んでこいって」
そっちね。あーああ 力が抜ける。
「シュリンちゃん。お姉ちゃんはまだ勤め残っているんだ。待てるかな?」
「うん、待てるもん」
あー、可愛いな。癒やされます。
「ありがと。では始めるね」
私は背嚢から詩篇パサールとハンドベルを取り出して交差点の角の一つに立つ。
さあ、
私、トゥーリィは、鐘をひとつ鳴らす。
んっ、何?
「慎み敬って申上げ奉る。主と、その啓示受けたる聖女へ」
私、トゥーリィは、鐘をひとつ鳴らす。
んつ、感じる小さな違和感?
隣人よ
この詩篇を信じ行うは難し、
隣人よ
この詩篇を信じ行うものなれば
主は歓喜せん。
なれを祝福せん。
なれの信心と勇気を褒め称えるであろう。
なれ戒めをもって、行ずるものなれば無上の道行ならん。
淳善の地に住するなり、
隣人よ
隣人よ
私、トゥーリィは、鐘をひとつ鳴らす。
その時、私は足元が騒つくのを感じた。シュリンも感じたのだろう。脚にしがみついてきた。
「お姉ちゃん、何? 怖いよお」
シュリンが叫ぶ。
そして地面が震えた。私が立つところの地面が微かに凹む。
そして噴き上がる砂煙。
「うわっ」
「キャン」
バランスを崩して、わたしは尻餅をついてしまう。シュリンは手をついて四つん這いになる。
そして地面が漏斗みたいに凹んで底に穴が空いた。空いた穴に周りの土が流れ込んでいく。
それでも、逆に穴は大きくなっている。
「これってわたしら落ちてんの」
なんか、ジリジリと下に落ちていく感じがする。
「おねえ…」
シュリンの声が聞こえた。なんか弱々しい。
声がしている方をみてみると、赤い毛皮が見えた。
もしかして尻尾。ちょっと待って尻尾しか見えないって、土に埋もれたぁ。
土ごと穴に落ちちゃうよ。慌てて尻尾を掴んだ。
なんか身じろぎしてるのがわかった。
そのまま、落ちるに任せていると穴に近づいて行く。穴の縁から中が覗くことができた。
なんかギザギザしたものがが見える。それが淵に沿って並んでいる。
一段見え、二段、三段と見えてくる。
ぎゃー!
あれは歯だよ!並んでる。ということは、穴でなく口なの。私ら食べられてるの!
確か、これってワームっていうんだよね。砂漠にいるはずなんだけと、なんで街中に居るんだ?
穴を登ろうと足で踏ん張ろうとしたけど、土が下に滑り落ちてしまうだけ。
慌てても、なんか落ちる速さが早くなって行くだけだった。
見ると縁に尻尾が近づいている。先に穴に落ちそうだ。シュリンがヤバい。
と思った時には体が動いた。
「ブースト<ヒュール>」
剛力の付与を自分にかけ、尻尾を思いっきり引っ張り上げてる
そのまま、穴の外まで投げた。
見上げた先にシュリンが投げ出され、縁の陰に消えて行く。
ほっとしたのも束の間、
反動で、自分が口に落ちていった。
喰われたよぉ。




