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街角オーディエンスチェンバー

よろしくお願いいたします。

 薄暗く細い路地へ新たに侵入者。


 やはり黒いロングドレスにピナフォア、頭にヘッドドレスをつけているな。どこかの使用人だね。メイドサーバントかな。


「この先は行き止まりです。全く、どこに行ったのでしょう」


 どうやら、私を見失っている様子。本当は目の前に私は居るのにね。


 良かった。主への祈りが聞き遂げられて私の存在を上手いこと隠すことができたみたい。


 でも、後から来た娘、ダメじゃないの、こう言う場面では声を出しちゃいけないんだね。そういうのうっかりって言うんだよ。貴女のことはうっかりメイドさんて読んであげよう。

 なんてほくそ笑んでいると、先に入って来たメイドさんが動いた。

 舌打ちをして片腕を後ろに勢いよく回し、裏拳でうっかりメイドの顎を打ち抜き、意識を刈り取った。更に迂闊な行動をとった未熟なバディに怒ったのか、彼女はロングスカートをたくしあげて、意識を失いふらつくうっかりメイドの腹を蹴り出してしまう。

 抵抗することもできずにうっかりさんは小屋の影に隠れている私に向かって飛んできてしまった。


「えっ⁉︎」


 思わず出る私の悲鳴、そして衝突音。更に


   カラン


 というセリアんの持ってきてくれたバックの中にあるハンドベルが鳴る音。手で口を覆っても,後の祭りである 。

 主への祈りも私の集中力切れで霧散していると思う。

 逃げ出そうにも、当たってきたうっかりさんの体が覆い被さり動けない。その肩越し前衛メイドの冷たい目線。半眼で真っ直ぐに私が声を上げたあたりをじっとをみてるの。

 バレてる。絶対、バレてる。背筋にジリっとしたものが走る。彼女はスカートのスリットの手を入れて何か出そうとしているみたい。

 もしかして、ナイフかな。確か、スチレットって言ったっけ。

 覆い被さる後衛の体を人質の盾にでもしようかとしたけど、彼女の冷たい目を見てやめた。盾ごと刺されます。


フォセレ・ヴェレ

我は乞い願う。


フォルティフィカーレ<ポテスターテ>

 

 そんな事されては堪りません。私は手で印を結び自分に身体強化の付与をします。被さっていうっかりメイドの両脇に手を入れて前衛メイドに向けて投げ飛ばしてや理ました。

 多少は時間稼ぎになるかと思う。そして踵を返すと表通りに向けて走り出します。

 しかし、慌てふためいて足元が疎かになり、外へ出る寸前で蹴つまずいて転んでしまった。止まちゃいけないとそのままごろごろ転がって外へ逃げるのです。

 這々の体で外にまで出ると膝立になって周りを見渡して見ました。通りを歩いている数人が路地から人が飛び出てきたことに驚き、固まっている。

 そして路地の入り口近くには、4馬立ての大型キャリッジが止まっている。装飾のない黒光する車体が、いかにも怪しさ一杯だったりします。 

 体を捻って、自分の服を見ると多少は汚れて入るけど、解れたり破れているところはないように見える。

 良かった。流石に頑丈重視の見習い服だね。

 上等な生地を使った正聖女服なんかじぁあ、こんなことしたら耐えられずに破れると思う。そうなったら、あとは治すのにかかる費用で借金返済の転落人生一直線。

 そうはならずに済みそう。ほっとして頭に手をやり、ベールも大丈夫かと触っていくと、


「あっ」


 つけている鈍色の仮面の止め紐が解けているよう。仮面がずれて傷とかが少し見えているんじゃないの。慌てて直していく。

 治し終わったタイミングで後ろから、布袋をズルズルと引き摺る音が聞こえてきた。振り返りみると、メイドサーバントがいた。黒いロングドレスに汚れが目立たない濃いグレーのピナフォア。

 さっき私を追いかけて、路地へ入ってきた一人だ。

 よく見ると、気を失ったうっかりメイドの襟首を掴んでひきづっている。なんか痛そう。


 私は膝を上げて立ち上り、その場を立ち去ろうとした矢先、大型キャリッジの観音扉のドアの片方が開き、中から1人出てきて大声を出して号令してきた。


「御前が居られる。控えよ」


 声からして女性。しかも,プロテクターの付いたドレスアーマーに申し訳程度のエプロンをつけている。主人の側つき護衛ののヴァレットメイドっていうんだっけ。

 路地から出てきたメイドは片膝をつき、首を垂れている。でも控えよって言われたって,


「すいません。御前って,どなたなんですか。私,ここに来て日が短いんで,検討つかないんです」


  ピキッ


 ヴァレットメイドの顳顬に血管が浮き出る音が聞こえるような気がした。それぐらい、辺りに緊張感がはりつめる。


「う・つ・け・も・の」


 耳を劈く大音量で怒られた。


「うぬが暮らす国の王族の名ぐらい覚えていなくてどうする。仮にも聖教会の聖女だろが」

「ヒィ〜。御免なさい。無知ですみません。勉強不足でした。愚かもんにごっ、ご慈悲を〜」


 あまりの剣幕に跪いて、平伏してしまいました。


「こちらのお方はインペラーム帝國、皇帝ジブリール様の妹君、ウリエル・エタ・カエルム。インぺラーム様なるぞ。夢夢忘れるでない。魂に刻み込め。分かったか!」


「はい〜」


 耳に大音声が入り込み、私は地面に頭を擦りいつけて謝ります。



「全く、本当にしょうがない。なんでこんな奴が………。聞くが、汝、聖女に相違ないか?」

「へ?」


 ヴァレットメイドの声色が変わり、拍子抜けして、顔を上げると、


「相違ないか聞いておる」

「はい。見ての通り聖教会に属する聖女です。まあ、見習いですけどね。色がアンバーでしょ、この服」

「はい か いいえ だけで良い」


 直様、怒声が帰って来た。しょうがないなぁ。しっかりと答えたはずなのに。


「じゃあ、はいで」

「うぬぅ」


 ヴァレットメイドは顳顬に更に皺を作り、睨みつけてきた。視線が痛いです。どうもお気に召さなったようで。私は仕方なく答えておく、


「はい。左様でございます」

「よろしい、名を名乗ることを許す。うぬが名を名乗れ!」

「トゥーリ」

「姓は?」


 私にとっては嫌なことを聞かれた。実は私、街中に捨てられていて教会に拾われたから、姓がないんだ。便宜上教会の名で名乗るしかないの。


「バラス、トゥーリ・バラス」


 すると、優しい声でキャリッジの奥から私に声がかかる。


「トゥーリとやら」

「御前! 此奴に直接、声を掛けるなど………」

「よいよい、我が聞く」


 観音扉が全開になって、中におわす方がご尊顔を現す。豊満で溢れるような乳房を覆う淡いドレス、盛られ結い上げられた金髪のの下、柔らかな頬にかかる揉み上げ、扇情的赤い唇と冷ややか青色眼差し。

 そうか、噂で聞いたことあったっけ。既に五人の子をもちながら変わらぬ美貌を持ち続けている魔女とも言われている王妹。この辺京都市へ防衛の要として降嫁してきた、軽んじて名を言おうものなら首が飛ぶと言われていたんだっけ。


「其方、トゥーリとやら教えてくれぬか?」


 こんな場末の聖女見習いに何を聞くことがあるのでしょう。首を捻ってしまします。



「先日、ここの壁外であった巨大怪異が暴れたという件、そちが解決したと聞いたが本当か?」


 ああ、さっきまで一緒だったセリアンの件ですね。はい。


「いえ。私ではありません。あれは神なる御方の裁定です」」


 冥府の神様が裁定して、私は願っただけなんだけどね。

王妹の横からヴァレットメイドが詰問してくる。


「嘘を申すな、お前がその場にいたことは明白………」

「よさぬか。ゾフィー」


 王妹がヴァレットメイドを止めた。そうか、このおっかないお姉さん。ゾフィーっていうんだ。

 そして王妹は私を見つめている。多分、額にある痣を。さっき止め紐が外れた時に見られたのかなあ。


「あい、わかった。トゥーリとやら、ご苦労である。以後も勤め励めよ」


 と王妹は持っていた扇を振り、帰るぞとお付きの人たちに指示を飛ばす。

 えっこれだけ? 今までの何? でも一応聞いておかなきゃ。


「あのー」

「気安く声をかけるな」

「よい、話せ。聞こう」


 さっきと似たような会話か飛び交う。


「はい、さっき路地に入ってきた、うっかりメイドは、お咎めとかないですよね?」


 私を追っかけてうっかり声を出したがために意識を落とされた、振り回されて、引きずられた子である。

 なんとなく怒られるんじゃないかと聞いてみた。酷い目ににあってそれじゃあ可哀想すぎる。


「うっかりメイドとは、何のことだ?」

「いえ、あのですね……」

「はっきりと申せ」


 口を濁していうと、ゾフィーさんから直様、怒声が飛んでくる

。苦手だね。この人。


「わたしを追っかけて、あんな薄暗くて細い路地まできた二人のうちの一人です。捕まえにきたのかと思ったら、声を出したせいで、もう一人に殴られていたんですよ」

「ほう、そうなのか。我は、其方を連れて参れと命じたはずなのだが。なあ、ゾフィー」

「はっ、いかにも。御前が此奴を吟味されるかと思いまして、手配しましたが、何か」」

「違うぞ。ゾフィー。我は市井に聖女が降りたと聞いて、どのようなものか知りたかっただけだ」

「そうでありましたか。此奴、仮面などつけて怪しい風体をしておりましたので念を入れて、丁寧にお連れしろと良い私のですが手違いでもあったのでしょうな」


 しれっとゾフィーさんが言う。ちょっ、ちょっと待って手違い⁈ 手違いで済ますって言うのですか。私の顔に痣が有るって分かっててやらせたんですね。それはあまりに酷いんではありませんか。


「兎に角、手違いなら手違いで,うっかりメイドさんには、御咎めなしでお願いしますね。私のことは別にお構いなして構いませんので」

「ハハハ、面白い。自分より、あ奴の心配か、あいわかった。なしじゃなし、ハハハ」


 何かツボにハマったのかな。笑っている。まあ、あの子に何もなければ良いや。 


「ならば、トゥーリィとやら、また改めて会うとしようではないか」

「はい、よろしければ。私のいるパラス教会のミサにでもお越しくださいませ」


 とは、言ったものの、出自の定かでない人や城壁の中に住む人たちが忌み嫌う獣人族が住まう地区にある場末の教会にお越しになるなんてことはないはず、


「あい、分かった。その時を楽しみにしよう」


 まあ、挨拶みたいなものですね。


 そして帰りしな、キャリッジの観音ドアが閉まる時にヴァレットメイドのゾフィーさんに睨まれたけど、別に気にしない。そうそう関わる人たちでなし。そうだと思いたい。


 さあ、お勤め、お勤め。私は肉屋さんへGoです。厄払いのお仕事が待っています。


ありがとうございます。

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