小動物ダンジョン 2
ダンジョンの10階ボス部屋に挑む順番になった。
ボス部屋は探索者が一定の場所まで部屋に入らないとボスが出現しない。
僕は入り口の扉を開けて中に入って、ボスが出現する場所まで歩く。何回も来た場所だ。何処に行けばボス相手に有利になる場所かは覚えている。
扉が開かなくなり、ボスと取り巻きが出現する。
ボスは人ほどの大きさのハムスターとヒヨコだ。この大きさに噛まれたり、突かれれば体がちぎれるだろう。取り巻きは4匹。腰ほどの大きさのハムスターとヒヨコだ。
先程治療した人はボスに胸を突かれてたのだろう。ちょうどそのぐらいの高さだ。
僕は賢者の力で風の刃を魔物と同じ数を作り、魔物の首をめがけて飛ばす。
ボスと取り巻きは出て来たばかりだったからか、攻撃に対応出来ずに首が飛んだ。最短時間での魔物攻略だ。
宝箱には何が入っているだろう?楽しみだ。でも宝箱の罠がたまにあるから剣で横から蓋を開けないといけないんだよな。どうにか罠がわかるようにならないものか。
ピコン。
『罠感知を得ました』
ラッキー!精霊石でもなんでも、ありがとう!僕に力を授けてくれて!
魔物の魔石をリュックにしまってから、出現した宝箱まで行く。罠があるようだ。罠を無効に出来ないかな?
ピコン。
『罠無効を得ました』
都合良すぎじゃない?僕はうれしいけど。口に何粒放り込まれたっけ?もうすぐ打ち止めだと思うけど。
罠無効の力の使い方は分かる。貰って自覚したらなんとなく賢者の力の使い方も分かったし、罠感知の能力の使い方も分かる。
僕は罠無効を使って罠を解除して、宝箱を開ける。
小さい宝箱だけど、綺麗な布の上に小さい瓶が3つ並んでいる。
何の瓶かな?持ち上げて見てみる。わからん。買い取り受付で鑑定してもらったらいいか。
蓋を閉めて、宝箱ごと持ち上げる。持ち上げれる宝箱だと、これもお金になる。ダンジョンの金属は大事だからね。
ボスに挑んだし、今日は帰ろうかな?
帰還のゲートに向かって1階の出口に出る。太陽が眩しいや。もう、お昼か。自覚したらお腹が空いて来たぞ。早く換金しよう。
出口で探索者のチェックをしている人達に挨拶して探索者支援協会に行く。
出口に協会の人がいるのは緊急で怪我をした人なんかを保護して、すぐに救急車などの手配をする為だ。
夜間にもいるらしいが、人数は少ないらしい。普通は夜間まで潜る探索者はいないからね。警備も兼ねているらしい。ということは、あの人達はダンジョンで鍛えた強い人達だってことだ。交代制だろうけどお疲れ様です。
初めは妖精の森?で手に入れた物をダンジョンの宝箱から出たと言って鑑定してもらおうと思ってたけど、嘘はつきたく無いし、僕は嘘が苦手だ。大抵すぐにバレるから、個人的な鑑定として有料鑑定をしてもらおう。お金は取られるけど、気持ち的には楽だ。
探索者支援協会に入り、涼しい風に吹かれて中に入る。今は夏真っ盛りだ。ちょっと外にいるだけでも日中は汗が出る。
探索者は18歳以上じゃないとなれないので、探索者支援協会の中は余計に役所に似ている気がする。大人の雰囲気って言うのかな?
お昼は空いているけれど、一応整理券の番号紙を無人機械で印刷してもらう。買い取り受付の人の準備もあるからね。
待合室に座っていると僕の番号が呼ばれた。ドロップ品を持って窓口に行く。
「いらっしゃいませ。本日は買い取りでよろしかったですか?」
「分からないアイテムもあるので、鑑定してもらってから決めたい物もあるんですけど。あと、個人的な鑑定もお願いしたいです」
「分かりました。個人的な鑑定は別室に行き、有料での鑑定となり、1品千円いただきますが、よろしいですか?」
「はい、それでお願いします」
「それでは鑑定していきますね。ダンジョンウォッチをこちらに翳して下さい。鑑定が終われば、また、番号をお呼びしますので待合室にてお待ち下さい」
僕は待合室に戻って椅子に座った。宝箱の中のあの瓶は何かな?怪我を治すポーションが多いから、小回復ポーションかもしれない。それだと引き取った方が良いな。自分が危険な場面で使える。あ、でも僕、魔法が使えるから自分の怪我は治せるはずだ。他人を治せたんだから。必要な人に買い取ってもらった方が良いかな?
僕が考え事をしていると、鑑定が終わったようだ。買い取り受付に行く。
「高梨様、鑑定が終わりました。魔石が102個で1万600円内2つがボスの魔石でしたので、1つ200円となります。宝箱は3千円、中に入っていたポーションは、怪我回復ポーションの中と病気回復ポーションの中、マジックポーションの中です。どれも1本10万の価値があります。下に履かれていた布は200円となりますお売りになりますか?」
「え!10階層で中のポーションが出たんですか?」
「ごく稀にありますね。よほど良い戦闘をされたのでしょう。たまに持ち込まれます」
悩むぞ。マジックポーションはキープだ。僕の魔力が分からないからな。家に帰ってからステータスを見よう。怪我と病気はどうする?待っている人がいるかもしれない。売りに出そう。
「マジックポーションだけ引き取ります。後は売りで」
「承りました。21万3千800円となります。お確かめ下さい。個人鑑定は奥の部屋で行いますので、102号室でお待ち下さい」
個人ルームに入るの初めてなんだよな。手前から2つ目の部屋か。お邪魔しまーす。
ソファと机、奥に扉があるな。あそこから協会員の人が来るのか。じゃあ僕は近くのソファに座ろう。
あ、今のうちにアイテムボックスから素材を出そう。
個室なので監視カメラが付いていることに里音は気が付かなかった。アイテムボックスから素材を出した所をバッチリとカメラに撮られていた。
アイテムボックスや次元空間収納などを持つ者は一定数いるが、深層に潜っている探索者かオーブを購入して使えるようになった者に限る。持っていてもおかしくはないが、一般人が手に入れられるのは稀だ。
ダンジョンウォッチで調べても里音は12階までしか潜っていないので自力で手に入れることは出来ない。
そんなことは知らずに里音は「まだ来ないかなー」と鑑定師さんを待っていた。
実は里音が助けた探索者が血まみれで帰って来たのも問題になっていたのだが、里音は知らない。
血だらけの探索者は病院に緊急搬送され、仲間は当時の状況を話していた。すぐ隣の部屋で警察も一緒に。
探索者支援協会の隣には有料だが、立体駐車場も場所を大きくとっている。車でダンジョンに来る人の為だ。
この街はダンジョンがあるから大きくなった。ダンジョンのある場所の敷地は狭くはない。広めにとられている。全て国の政策だ。
今日まで無駄になっていないのは当時の官僚の成果だろう。
奥の扉が開き、2人男性と女性が入って来た。
「本日鑑定を担当します。長谷部と堀と申します。よろしくお願いします。鑑定品は机の上の物でよろしかったでしょうか?」
「はい、高梨です。よろしくお願いします。机の上ので全部です」
「それでは失礼して、鑑定に移らせてもらいますね」
2人はテキパキと段ボールに入った素材を取り出して鑑定していく。
鑑定するたびに2人の顔色が悪くなっていく。里音が妖精達に貰ったガラス玉と抜け殻を見ると顔が白くなっていた。
「高梨様にお聞きしたいのですが、この素材を何処で手に入れましたか?」
「何か問題がありましたか?」
「も!んんっ、問題だらけでございます。こちらの品など『妖精の幼体の殻』と鑑定結果で出ており、今現在ではダンジョンで妖精を見つけたという知らせは入っておりません。それに、素材として1級品です。これで作られた薬は万病を治すと言う物です。素材もここにある物で生産可能です。他にはこの水晶に似た素材は『精霊石』と言う素材で、このまま使用しても使えます。効果は使用者の能力を増やすと言う物です。とてもレアです。今確認されているオーブより価値が高い物になり、数十億の値段が付けられると思います。それとこちらの素材は宝石としても価値がありますが、それ以上に『身代わりの石』と鑑定結果で出ております。装備者の負った怪我などをその名のとおり身代わりにしてくれるのでしょう。それと、こちらの」
「ちょっと待って下さい!少し時間を下さい。トイレに行って来ます」
「あ、はい、どうぞ。素材はお守り致します」
里音は妖精達とトイレに行った。個室に入り、妖精に問いかける。
「レッド、イエロー、ホワイト。あの素材でお前たちは薬を作れるか?」
「むりー」
「わたしもー」
「つくれるー」
「ホワイトが作れるんだな?効果も分かるか?」
「かんてーでわかるー」
「鑑定が使えるのか!?」
「つかえるー」
「よしっ!素材を返して貰って撤収するぞ」
里音は102号室に戻った。
「素材は全て持ち帰ります。鑑定の値段はいくらでしょうか?」
「本当に全て持ち帰られますか?何かお売りにはなりませんか?」
「売りません。鑑定結果の紙を下さい。あと鑑定はいくらですか?」
長谷部さんは、ガッカリしたように鑑定の値段を告げる。里音はお金を払い、段ボールを持って足速に部屋を去り、コインロッカーに向かった。こっそりと素材をアイテムボックスにしまって、着替えて荷物を持ち家に帰る。もちろん妖精達も一緒だ。途中でスーパーに寄り、買い物をしてから帰る。お昼の食事が無かったので弁当とその他を購入した。
ちょっと頭がフィーバーしていたが、落ち着いたらお腹が空いたのだ。アイテムボックスの中身は誰も取らないし。
自宅に帰ってまずは飯。弁当は自分に妖精達にはゼリーを購入した。妖精達は集まってきゃっきゃしている。
ホワイトが薬を作れるなんてなぁ。万病を治す。考えても時間は戻っては来ないのに、父さんと母さんが生きている時にあればと考えてしまう。
弁当を食べながら涙がポロポロと出てきてしまった。止まらない。こんなのは両親が亡くなって以来だ。
きゃっきゃしていた妖精達が近づいてきて頭に顔にとまる。何か温かいものが妖精達から流れてくる。
いつのまにか涙は止まり、心の寂しさも無くなっていた。
妖精達を掌に乗せる。
「お前達のおかげか?」
「かなしいのだめー」
「さびしいのだめー」
「すきなのー」
3匹の頭を優しく撫でてやる。妖精達はきゃっきゃしだした。お前達は不思議だな。元気を貰っているみたいだ。
里音は妖精達を家族と思い初めていた。新しい家族。亡くしたと思っていたが、新たに出来るもんだな。
里音は今だけは喪失感を忘れて、温かさに浸っていた。