小動物のダンジョン 1
翌朝、朝食を食べたらダンジョンに行く準備をする。
アイテムボックスに妖精の森?で採取した植物を入れる。
武器の入ったケースと防具の入ったリュックを背負って、妖精達とダンジョンに出かける。
妖精達がおしゃべりしていて退屈しない道のりを歩く。
妖精は食べ物は食べられるみたいだけど、排泄しない。僕が見てないだけかもしれないけど。
それに、食べ物は人間用に作られているから柔らかい物しか食べられない。一生懸命、クッキーを食べようとしていたのは可愛いかったけど。妖精的には硬かったらしい。
マシュマロは喜んで食べていた。見ていてほんわかした。
基本的には妖精の生活は心配しなくていいようだ。好き勝手に生きている。
今も僕の頭の上でお話ししている。ちょっとうるさいけど。僕の頭は座る所じゃないんだぞ。
20分程、歩くと探索者支援協会が見えて来た。隣の建物に探索者カードをかざして中に入る。
ここは貸しロッカーと更衣室がある建物だ。探索者がたくさん利用してるから建物の中は広い。
武器を持っている人はケースを持って魔物と戦うわけにはいかないし、防具をつけたり丈夫な服に着替える為には利用しないといけない。1回500円だ。両替機もある。魔石を5つドロップさせれば元は取れる。
魔石1個で100円。分かりやすいよね。深層で取れた魔石の値段は、また違うらしいけど。僕はそこまで潜ってません。
探索者支援協会の2階のお店で購入した服を着る。頭にもヘルメットみたいな防具を被る。安かったから、ちょっと暑いんだよね。防御力はあるけど。
靴も履き替える。ちゃんと踏ん張れる靴だ。戦闘中に滑ったら危ないからね。
初心者用のセットを購入して、武器防具、全部で30万ちょっとした。僕にとっては高い値段だ。武器はショートソード。予備武器に短剣。
初心者セットだから、この値段だけど普通はもっと高い。軽く100万超えちゃう。僕には買えないなぁ。深層に行くと買わないといけなくなるのかな?憂鬱。
リュックを背負って、建物から出る。この時に探索者カードとダンジョンウォッチを持ってないといけない。ダンジョンに入る前にチェックがあるからだ。
こっそりダンジョンに入る人は夜中に入るらしい。警備が薄いんだとか。
久しぶりだから、身体が鈍っている。筋肉も落ちちゃったし。地下1階から行こうかな?明日は筋肉痛だ。
僕と色違いの装備を着けている人がいる。僕の色は黒だよ。全身黒色。ちょっとだけ恥ずかしい。
列に並ぶ。平日だけど人がいるものだなぁ。列は短い方だけど。
「ウォッチとカードを見せてね。はい、大丈夫。次の人ー」
入るのはすぐだ。地下1階だから歩いて行く。
1階はちょっとだけ心が痛いんだ。ハムスターが出て来るんだもの。普通、魔物のザコと言えばスライムだよね?このダンジョンは違うんだなぁ。ハムなんだよ。ハムスター。ちょっと大きいけど。手乗りサイズじゃなくって、鍋サイズとでも言えばいいのか、ちょっと大きい。素早さはそこまで無い。普通に見れば飼い主にハムスターが飛びかかっている図みたいなんだけどね。噛まれると結構痛い。死にはしないが。さすが1階、初心者向け。1階で負ける人は探索者、辞めた方がいいと思う。動物好きな人とか。
石の通路に入った。ここからダンジョンだ。
ハムが出た。サクッと行こう。飛びかかってきたところを、はい、サクッと。魔石が転がる。身体が鈍っててもこのくらいはいけるな。魔石を拾ってリュックに入れる。
1階で出会うのは必ず1匹ずつ。5階までハムスターが出てくる。2階に行くと2匹、3階に行くと3匹てな具合で。5階は5匹出るからソロだとちょっと辛い。ちょっとだけね。仲間がいないんじゃなくてね。ソロで行ってるんですよ。けっして、仲間が出来ないんじゃなくてね。今は妖精がいるからパーティーだね。
それから2階へ続く階段まで、1人でハムスターを倒し続けた。驚くほど身体が軽い。明日、筋肉痛にならなくてもいいかもしれない。
2階で2匹のハムスターが出てくるも、1撃でハムを倒せてしまう。
あれ?こんな感じだったかな?前は両親の命がかかってたから、手強く感じただけかな?
あっけない戦闘に首を傾げてしまう。妖精達が何かの遊びだと思ったのか、マネをしてくる。首を傾げた1人と3匹が出来上がった。
まあ、いいかと魔石を拾う。妖精も拾おうとしてくれるが、妖精より魔石が大きくて持てない。可愛い。
ホワイトが魔法?を使って魔石を拾ってくれた。お礼を言って受け取る。ホワイト魔法使ったな。凄いな。
2匹のハムが近づいてくる。レッドとイエローが前に出た!何かするか!?
レッドが火を出した!ハムに投げつける。ハムは火だるまだ!
イエローが自分の周りを放電させて向かってくるハムに電撃を喰らわせた!ハムはピクピクしている!
じきに魔石になった。レッドとイエローはドヤ顔だ!一応、褒めておいた。満足そうだ。ホワイトと3人でキャッキャしている。魔石を2個拾って里音は歩き出した。
その後も妖精達が活躍した。ホワイトは回復要員だった。疲れたレッドとイエローを癒していた。そしてレッドとイエローはすぐに復活していた。ポージングも決めていた。
ダンジョンを遊びだと思ってるな。
他の探索者に出会ったら、挨拶して通り過ぎる。探索者のマナーだ。無言で通り過ぎると気分も悪いから、探索者支援協会が挨拶を推奨している。守っている人は多分98%くらい。結構みんな挨拶してくれる。良い人達だ。
3階に下りると、ハムが3匹で走って来た。レッドとイエローは、はわわっと慌てているが、里音が1撃ずつ3匹に当てて倒した。やっぱり身体が軽い。剣も軽い。
妖精達が「すごいー!」と頭にまとわりついてくる。はわわしてたもんな。つついてやる。きゃーきゃー逃げて行った。
3階は探索者に人気だ。ちょうど良い数のハムが出て来るからパーティーを組んでる人達は倒しやすい。同じ理由で4階も人気だ。
出くわしたハムだけ倒して、5階まで急ぐ。妖精達は見るだけにしたようだ。いや、ごっこ遊びをしている。魔物役と探索者役か。いつも元気だな。
5階に着いた。5階はソロには強敵だぞ。数の暴力だ。前の僕、よく頑張ったよな。両親の命がかかってたものな。ちょっとしんみり。今日は慎重に行こう。
5匹のハムが走って来た。前に出ているハム2匹を先に倒して走り抜ける。振り返るとハムもこっちを向いて走り出すところだった。僕は走りより、ハムのスピードが早くなる前に倒す。魔石が5つ転がった。魔石を拾ってリュックに入れる。
妖精達が興奮している。どうどうと妖精達をつつくと、きゃっと逃げる。可愛いな。妖精に愛着が湧いてきた。
危険は感じなかったし、この階も余裕を持って進めるかもしれない。
ハムを5匹倒しながら進んでいくと、レッドとイエローも1匹ずつ倒してくれるようになり、効率的に魔物を倒せるようになって進行速度が上がった。
パーティーはいいね。ぼっちじゃないからね。
僕達は6階に下りた。
このダンジョンは別名『小動物のダンジョン』
数多の動物好きが、攻略を断念したといういわくを持つダンジョンだ。
魔物が2匹で向かって来た。
薄黄色のほわほわした羽毛に鋭い嘴。走る速度は意外に速い。かわいい顔をしたヒヨコだ。親はいない。大きさはハムと同じくらいだが、嘴で突かれるとナイフのようにプスっと刺さり、思っているより凶悪だ。
それが2匹!飛ばないのが救いだ。
切りかかるが、嘴で弾かれた!後ろのもう1匹に剣で切り付ける。魔石になった。振り返り、また向かってくるヒヨコの嘴を避けて胴体を切る。魔石になった。
嘴で弾かれた時は焦ったな。ちょっと嘗めてかかったかもしれない。見た目がかわいいから。
探索者支援協会の2階でレアドロップのぬいぐるみも売ってるんだよなぁ。ここのダンジョン可愛い魔物ばっかし出るから。
探索者からしたら嵩張るからハズレドロップだけど、買い取り金額は魔石より高いから当たりドロップでもあるかもしれない。
妖精達が「のりたいー」て騒いでいる。ヒヨコに乗るのか?見た目は可愛いが凶暴だぞ。
またヒヨコが2匹で来た。叫ぶのはやめてほしい。気が抜けるから。「ピヨー!」なんてハモると吹き出しそうになる。7・8・9階に行くとうるさくなるけどな。
順調に6〜9階を進む。ドロップは魔石とレアのぬいぐるみだ。たまにポーションが出るらしいが僕はお目にかかっていない。
それにしても身体が軽い。何故だろうか?調子が良い。
10階はハムスターとヒヨコの混合だ。3匹ずつ出て来て全部で6匹だ。少し戦闘し辛い。
レッドとイエローが1匹ずつ倒してくれるから、僕は4匹の相手をしたらいい。
焦らず1匹ずつ倒していく。4匹倒せばノルマ達成だ。
なんだかスムーズに倒せたな。妖精達のおかげもあるが、剣の使い方が上手くなった気がする。手に馴染むって言うか、身体の使い方が分かるようになっている。
ダンジョンでの戦闘に、ずいぶんとブランクがあるんだけどな。
妖精達と倒した魔物の魔石を拾って、ボス部屋に行く。
ダンジョンは10階層ごとにボス部屋がある。そこでは戦闘時間によりドロップが変化するらしい。
一瞬で魔物を倒せば、良いドロップ品が出るらしいが、そこまでの戦闘力は僕には無い。以前は何回も何回も挑んだなぁ。あの時は両親が生きていて。あ、涙が滲んで来た。
手で目を擦ると妖精達が心配して覗き込んできた。僕はから元気で笑う。妖精達がぽっぺを撫でてくれる。お見通しかな?レッドが鼻に抱きついて来た。鼻はやめてくれ、鼻は。
妖精達に元気づけられてボス部屋まで行く。
ボス部屋の前で探索者が何人か並んでいたので最後尾に並ぶ。
みんなボス部屋に挑む人達だ。
ボス部屋は中に人がいると扉の色が赤に変わり扉がが開かない。中にいる人達が10階に戻ってくるか、先に進むかしないとボスもリポップしない。
ボス部屋に人がいなくなれば扉の色が元の色に戻る。もしもボス部屋にいる全員が死んでしまった時も探索者の死体が消えて扉の色が元に戻るらしい。10階のボス部屋で死ぬ方がレアかもしれないが。ボス部屋まで来る実力があれば時間をかけてもボスは倒せるはずだからだ。大怪我を負う可能性はあるけどね。
妖精達をつつきながら順番を待っていると、ボス部屋が開いて人が出て来て、並んでいる僕ら全員に声を掛けてきた。
「誰か!怪我を治す能力を持った人はいませんか!?仲間がヒヨコの嘴で突かれて重体です!助けてください!」
油断したのか大変だな。でも僕は怪我を治す能力は使えない。いや、本当に使えないのか?強盗に腹を刺された時は治ったぞ。なんでだ?
『賢者の力で怪我を治しました』
うお!びっくりした!賢者の石か。忘れていた。それなら僕は他人の怪我も治せる?
『治せます』
どうやって治せばいいの?能力の使い方がわからない。
『貴方の意思の力で治せます。賢者の力で治れと念じるだけで能力が使えます』
重体の探索者がいるなら出たとこ勝負だな。
「すみません!僕が治療できます!」
「!ありがとうございます!早くこちらへ!」
ボス部屋に入るとヒヨコに胸を突かれたのだろう。血だらけの男の人がいた。顔色もかなり悪い。仲間が男を壁にもたれかけさせて、傷口が下にならないように支えている。
僕はあまりの出血量にビビってしまったが、声を掛けてきた探索者に促されて怪我人の前まで行った。
どうするんだっけ?怪我を治すんだ。賢者の力よ僕に怪我を治す力をくれ!
ぽあっと手が温かくなった。傷口に手を近づけると怪我をした傷口が治ってきた。もっとだ!賢者の石、力を貸してくれ!
『了解しました』
傷が治るスピードが上がった!
しばらくして傷口が治ったみたいだ。血の色で分かりづらいが。
「ありがとうございます!ここまで手に入れたドロップ品で治療のお礼にさせてください。それとも、地上に戻って謝礼金を渡した方がいいでしょうか?」
「いや、僕は怪我を治しただけだし、日本人は怪我人や病人がいたら出来るだけ助ける努力をするって言う決まりがあるし」
「いいえ!貴方は私の仲間を救ってくれました。お礼をしないなんて考えられません!」
「それじゃあ、魔石を1つ貰うよ。それでいいから僕の能力を秘密にしておいて」
「能力は秘密にすると約束します!魔石1つでは治療の対価になりません!全部差し上げます!」
「僕、1人だから、沢山の魔石は持てないよ。本当に1つでいいからね」
しぶしぶという感じだったが、魔石を1つ貰って治療の対価にした。他のメンバーにもとても感謝された。このまま帰還ゲートで帰るようだ。
僕がボス部屋から出ると、好奇心いっぱいの目で見られた。僕は自分が並んでいた場所に戻る。
前の人から話しかけられた。
「あの、本当に怪我を治せるんですか?」
「治せるけど、秘密にしてくださいね。緊急だから名乗りでましたが、本当なら能力は秘密にするものですから」
「え、ああ、わかりました」
ちょっと納得いかない感じで引き下がってくれた。探索者の能力は秘密にしたい人には聞かないマナーだ。そうしないと勧誘とかで困る人が出てくるからね。
賢者の石、どうして途中から治療のスピードが上がったの?
『私が力を貸したからです。貴方は賢者の力を使い慣れていないので、本来の力の半分も出せていませんでした。今後は賢者の力を使うことを推奨します』
賢者の力ってどうやって使うの?技名とか叫ばないとダメ?
『技名は叫ぶ必要はありません。心の中で使いたい力をイメージして具現化させるだけです。ダンジョンの中では魔物を倒す時に使うといいでしょう』
どんな力を使うの?僕には分からないよ。
『全ての魔法が使えると思ってもらって構いません。全てはイメージです。風の刃を作り魔物を倒してもいいですし、炎を出して敵を倒してもいいです』
全ての魔法を使えるなんて凄いじゃないか!賢者の石のおかげなの?
『答えは是であり否でもあります。貴方が精霊石を摂取したことにより、貴方の願いで賢者の石が生まれ、貴方は賢者になりました』
あの変な飴は精霊石って名前なんだ。僕、石を食べちゃったよ。
次のボス戦で賢者の力で魔物を倒そうかな?上手く使えるといいけど。