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里音の不思議な地下  作者: はる
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プロローグ

 高梨里音たかなしりおんは病気で両親が相次いで亡くなり、兄弟もいない1人っ子だった。


 1軒家のローンは無いものの、今は両親の死亡保険で暮らしている。

 家族仲が良かった里音は、心に喪失感を抱えていた。食事も食べられればいいし、風呂もトイレも最低限の生活。たまに両親の部屋に行き、孤独を慰めていた。


 里音は今年23歳だ。大学まで行かせてくれた両親に有り難さを感じると共に、病気で入院するまで親孝行を出来なかった己を悔いていた。


 幸い生活には苦労していない。生きる気力が湧いてこないだけで。





 里音の住む地球は、数十年前から『ダンジョン』が世界中に出来ている。


 ダンジョンが出来た当初は世間が世界が混乱していたらしい。らしいとは、里音が生まれる前の話だからだ。授業と教科書で習った。


 ダンジョンとは、今では無くてはならないものになっている。エネルギーになる魔石や便利なアイテムが沢山ドロップするからだ。


 ダンジョンの怖い所は、一定周期に誰も利用しないダンジョンがあった場合、そこからモンスターが現れる事だ。


 今ではダンジョンがある場所は開発されて、賑わっているので、モンスターが溢れる問題は無い。


 試験を受けて、公的機関に認められれば『探索者』としてダンジョンに潜ることが許されているので、職業・探索者は結構な人数がいる。武器も専用のケースに入れれば持ち運べるし、気をつけて潜れば、死ぬほど難易度が高い階層でない限り、ほどほどに生活出来るからだ。


 ダンジョンでの死者よりも、交通事故で死ぬ人の方が多いのが現状だ。ポーションなどもあるが、値段が高い上に間に合わなければ治療を待つ人は死んでしまう。


 モンスター・魔物が死ぬときにドロップする魔石がエネルギー源となり、今や日本の経済を支えている。


 ここ数十年でエネルギー改革が起こり、暮らしが豊かになったと言う。





 里音の住む町も、そんな理由でダンジョンが近くにあり、開発された土地だ。


 賑やかだが、里音の心は晴れない。恋人でもいれば心の慰めにもなっただろうが、里音の性格は押せ押せな性格では無く、どちらかと言えば草食男子だ。理性的ではあるものの、趣味が家族と過ごす事か勉強だったので、暇な今はどうしてもやる気が出ない。


 両親が死ぬ前にどうしてもポーションが欲しくて、探索者になりダンジョンに潜っていたが、そんな奇跡に恵まれる事はなかった。


 里音は悔しさに泣いた。両親が死ぬまで涙は見せなかったが、ポーションがあれば両親が死ななかったと思うとやるせない気持ちが湧いてくる。


 そんな人達は自分だけじゃ無いとしてもポーションが欲しかった。


 病気を治すポーションにも段階があるが、死ぬ病気に罹った人を治すには最高級の病気ポーションがいる。何億もするのだ。一介の大学生には手が届かない。


 里音は両親を気丈に見送れたと思っている。涙で瞳が濡れていても。


 両親を亡くした後の記憶は曖昧だ。親戚の従兄弟の弁護士が全ての後始末をしてくれたようだ。親戚付き合いの仲は良い。

 自分は真顔で涙を垂れ流していたらしい。正気に戻ったら心底心配された。いくら感謝しても足りないくらいだ。


 家にいて、両親との思い出をなぞる。そういや母さんがこれ好きだったよなとか、父さんと出掛ける約束してたよなとか。思い出が尽きる事は無い。


 自分はこんなに涙脆かっただろうか。


 今日も両親との記憶を辿る。


 両親の部屋を開けた時に日常が変わるとしても。



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