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南の国のはずれ姫1

 開け放した窓から気持ちのいい潮風と波の音。

 視線を外に向ければ。もくもくと高い入道雲とキラキラ光る海面。

 今日もイイ感じに染まったお気に入りのレフアの花柄を私は干しながら、気持ちよく歌い出す。


 ――あなたにあげましょう 綺麗な貝の首飾り

 ――あなたにあげましょう 赤い花の髪飾り

 ――そしたら二人は……


「おならぷっぷぅ~~」

「ぷっぷーー!! きゃははははっ!!」


 このくらいの年頃(8歳児)の男の子と言うのは、どうしてこうなのだろう。

 たとえ自分がロマンティックに浸って気持ちよく歌っていたとしても、恋歌はおなら色に染め変えられてしまうのだ。


「くぉーら! レイにサリっ!! まーた邪魔して。今日こそ海に投げ込んでやるんだから!!」


 せっかくの恋歌をおなら色に変えられた恨みは、大きくて深いんだからね!

 私は双子の弟をむんずと捕まえ、近くにあるテラスから海に投げ込もうとしたとき――。


「あんまり楽しそうな声だから、起きちゃった」

「ユウナ姉ちゃん!」


 弟達は私の手をあっさりすり抜け、子犬みたいに2歳年上の私の姉、ユウナにじゃれつく。

 ユウナは私と違って日に当たらないから真っ白で透き通った肌、綺麗でまっすぐな金色の髪に、明るい海みたいな青い目。

 少し身体が弱いけど、とても優しくって弟達に負けないくらい、私も大好き。


「ユウナ! 起きて大丈夫なの? 今日は日差しが強いから外でちゃダメだからね」


 ユウナはふんわりとお花がほころぶように笑う。


「今日は調子がいいの。ありがとう、リーノ」


「姉ちゃん、本読んで!」とサリがねだれば、

「やだ。騎士ごっこがいい! 姉ちゃんは囚われのお姫様で俺がかっこよく助けるやつ!」

 とレイはいつの間にか木でできた剣を持ってきた。


「だめーっ! ラナとお人形で遊ぶのっ!!」と妹は地団駄を踏んでいる。


 こりゃだめだ。私はパンパンと手を叩いて、

「はいはい。じゃあこうしよう。サリは騎士物語の絵本持ってきて、ユウナが読みながら、レイは本に合わせて騎士演技しつつ、ラナはお人形でユウナを励ます妖精ね」

 と言った。


 即興にしちゃあ、まあまあな配役でしょ。

 私はふふんと得意げに笑う。


「じゃあ、リーノは何役?」


 ユウナはくすくすと笑いながら椅子に腰掛けて、本を広げた。


「フフフフフ。私はねぇ……」


 手近にあったカーテンを引っぺがして頭から身に纏い、

「ユウナ姫を食べちゃう悪ーいドラゴン(人間形態)だぁっ!!!」

と、ユウナの側でドラゴンっぽくカーテンの翼を広げた。


「きゃーっ。怖ーーい」

「姉ちゃん似合いすぎぃぃぃ。ぎゃははは!!」

「かっけぇ……。俺もそっちがいい!!」


 案の定、ラナはニコニコと棒読みで怖がり、サリは爆笑して褒め、レイは憧れの目を向けた時、側仕えが私を呼びにきた。


「リーノ様、母君がお呼びです」


 母さま? どうしたんだろ。

 私はカーテンを側仕えに預け、母さまの執務室に向かった。


 ※ ※ ※


 母さまは珍しく深刻な表情で執務机に向かっていた。

 私の国、ラウ=アイラナ王国は、小さな島が連なる小国。

 一昨年、父さまが亡くなってから、母さまと兄や姉がこの国を守り、他の島には同じように兄や姉たちが治めている。

 賢くて優しい、私達の自慢の母さまだ。


「どうしたの? 母さま」

「ああ、リーノ。ユウナの縁談が破談になったの。このままでは北方との同盟がタメになってしまうかもしれない」


 北のスノーディア国。一年の半分は雪の降る、とても寒い国。

 スノーディア王国はここアイラナと古くから付き合いのある同盟国の一つ。

 とても強い騎士団を持っていて、周辺国に対して睨みを効かせてくれている。

 今回は友情の証としてユウナへの縁談が来ていたのだけど。


「先方はユウナの虚弱さが気になる、そんな身体では厳しい冬の寒さに耐えられないのではと。だから、先方は貴女にどうかって」


「でもっ! 私なんてこんな真っ黒に日焼けして、髪も長くないし、やせっぽちでそばかすもあるし。みんなまだ小さいし……」


 違う。本当は自分に自信がないんだ。だって私に縁談が来たことなんて一度もないんだもの。

 見た目だって年中染め物しているから指先は真っ黒だし、海が大好きでしょっちゅう潜っているから日焼けも傷もたくさんついてるし、髪だって潮でぱさぱさ。

 元気なだけが取り柄の“アイラナのはずれ姫”だ。

 私はここで母さまやほかの兄妹たちの手助けをして、お嫁に行くつもりもなかったから、別に構わないけど。


「だけどラナをお嫁に出す訳にはいかないわ。まだ5歳だもの。リーノはちょうど16歳だし、賢い子。わかってくれるでしょう?」


 母さまはじっと私をのぞき込む。

 分かってる。これを断れば同盟が終わり、あっという間に周辺国に併合させてこの国が消えてなくなる。

 私に選択肢なんてない。たとえ“はずれ姫”でも肩書は王女なのだから。


「……わかった。私が行く。みんなにはギリギリまで黙っておいて。あの子たち泣いちゃうと困るしね!!」


 へへっと笑ったのに、ぽろりと涙がこぼれた。


「おかしいね。貰い手のつかない売れ残りの“はずれ姫”がこんな幸運掴んだのに。どうして泣くのかなぁ……」


 母さまは私を抱きしめ、

「ふた月後に出発よ。思い残すことのないようにね。母さまは貴女を信じてる。大好きよ。辛かったらいつでも戻ってきなさい」

 と言ってくれた。


「ダメだよ。母さま。戻ってきたら同盟が……」

「私達は海の民。海さえあるならどこでも生きていけるから」


 昔ユウナと一緒に読んだ絵本を思い出す。

 陸の王子に焦がれた魚は魔女によって人間になり、結ばれるけど王子を守るために泡になって消えた悲しい話だった。


 ――私、(ここ)から離れて生きていけるのかなぁ。。。


 お相手より、スノーディアの国より、大好きな海や家族から離れる事の方がずっとずっと辛くて悲しかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 家族仲がとてもよくてほっこりしました。 それだけに、離れるのが辛い! 嫁入り先がいいところでありますように。
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