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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ガン=カタ、しようよ……♡ ~~ときめきを、春風にのせて~~

 ある休日・離れた場所にある豪華な一軒家――。





 この日、猟奇的快楽殺人鬼である二人組の青年:ヤッコとプラーテンは、金持ち一家を惨殺していた。


 息絶えた家族を背景に自撮りをしながら、プラーテンが愉しげに声を上げる。


「な、な、仲良しセレブリティ一家を惨殺するの、とっても、とっても!楽しいです~~~♡――俺に刈り取られるためだけに、これまでの人生でた~~~っくさんの幸せを貯めこんで、ドッカン!と盛大に弾け飛ぶとかまさにエンターテイメントの神髄、ここに極まれりッ!!……か、感服いたしたッ!!一流の人々は、自身の命を散華して娯楽に仕上げる事も一級品である!と再認識させられたのと同時に、そんな彼らの意思を引き継いだ上で芸術の域にまで高めたこの俺自身の手腕に!!――激しく戦慄するより他になしッ!!!!」


 その後もハシャギながら自撮りを続けたり、


「坊やが一つに、お嬢ちゃんが二つ♪生首コロコロ、楽しいな♪」


 と、悪趣味な歌を口ずさみながら、この家の住人達の亡骸を弄ぶプラーテンとは対照的に、ヤッコは一息つきながら返り血がこびりついた居間でテレビを観ていた。


 これまでの遊戯ゲーム経験からして、この状態になったプラーテンがテンションを落ち着かせるのはあと20分ほど必要のはず。


 それでプラーテンが落ち着いたら、あとはゆっくりと二人でこの場を後にしよう、とヤッコは思っていたが――この日は、いつもと違っていた。


 突如、ヤッコの背後でプラーテンが「は、はぅあッ!?」と、大きな奇声を上げたのだ。


 これまでになかった反応を前に、思わずヤッコが振り返る。


 見れば、プラーテンが自身のスマホの画面を見つめながら、明らかに尋常とは思えない表情でワナワナと震えていたのだ。


 相棒の様子に戸惑いながら、ヤッコが訊ねる。


「一体、どうしたって言うんだ?……まさか、自撮りをしていた時に『心霊写真でも撮れた!』なんてくだらない与太話を言いだすつもりじゃないだろうな?」


 そんなヤッコの軽口に対して、プラーテンが凄まじい剣幕で噛みつくように否定する。





「それどころじゃねぇッ!!大変だ、ヤッコ!……自撮りが終わって満足していたから、何の気なしにネットを観ていたんだが……な、な、なんと!!『ガン=カタ』っていうのは、実在しない武術だったみてぇなんだぞ!?」





 そんなプラーテンの言葉を聞いて、思わず絶句するヤッコ。


 “ガン=カタ”。


 それは、主に銃を用いて戦う高度な近接格闘術の事である――!!


 銃を撃ってくる相手の銃弾を見切りながら接近し、格闘術で相手の攻撃をいなしたり逆に反撃したりしながら、トドメとばかりに自身の銃弾を近距離から撃ち放つ――。


 まぎれもなくスタイリッシュな戦闘術だが、四方八方から撃ってくる敵の弾道を予測しながら戦うというあまりにも高度な能力を求められるため、これを使いこなせる存在なんか現実にいるはずがない、と言われても確かに無理のない話であった。


 だが、それで納得できるような聞き分けの良い人物なら、そもそも猟奇的快楽殺人鬼になどなっていない。


 プラーテンは犯行現場であるにも関わらず、早々に立ち去る事も忘れてオイオイとみっともなく声を上げて泣き始める。


「マ、マジかよ~~~!?“ガン=カタ”ってのは、おとこのロマンが全て詰まった最高の戦闘術のはずなのに、それが実在しないなんて!――お、俺はこの先、シリアルキラーごっこ以外で、何を愉しみにしながら生きていけば良いんだ~~~ッ!!!!」


 そんな相棒の絶叫を聞きながら、ヤッコは大きなため息を一つ吐いたかと思うと、即座に自身のスマホで検索を始める。


 別に誰かに見つかったり、それがもとで通報されたりする事に関しては、二人とも後先考えない衝動的な性格なのでどうでも良かったのだが、ただ単にこうも近くで大の男が泣きわめくのを聞かされるのは流石にうるさい。


 そう判断したヤッコはある存在を検索していたのだが、お目当てのものを見つけて「おっ」と軽やかに声を上げたかと思うと、悲嘆に暮れている相方へとスマホを見せながら呼びかける。


「オイ、プラーテン!!何でも、二ホンのシンジュクって場所に、“七人みさき”っていうクールな妖怪達がいて、その内の一体がどうやら本物の“ガン=カタ”を使用するらしいぞ?」


 ヤッコからもたらされたあまりにも衝撃的な知らせ。


 それに対して、これまで泣いていたのが嘘のように、身体をガバッ!と上げたプラーテンの顔には、喜色がアリアリと浮かんでいた。


「マジかよ!!だったら、今から速攻で“シンジュク”に行こうぜ!」









 東京都・新宿――。


 “夜の貴族”と称されるホスト達によって、半ば自治領として統治されている聖と魔が入り乱れる街。


 そんな夜の新宿を、ヤッコとプラーテンの二人が自身のスマホを片手に歩き回っていた。


 お目当ては当然、ガン=カタを用いるとされる妖怪集団:“七人みさき”についてである。


 とはいえ、何の事前の知識もないままこの新宿に降り立った二人が、簡単に見つけられるはずなどない。


 自分達の手で見つけ出すことを諦めた二人は、大人しく街の無料案内所で訊ねてみる事にした――。









「すいませーん!四月からここら辺に単身赴任するんで、どういう感じなのかお聞きしたんですけど~……あと、“七人みさき”って怪物モンストゥルムの居場所とか、ご存じじゃないですかね~?」


 そんなヤッコの問いかけに対して、案内人が冷ややかな眼差しとともに返答する。


「下手な『自分おのぼりじゃないんで』アピールな演技をする必要はないッスよ、お二人さん。……案内所に入って早々いきなり“七人みさき”について訊ねてくる外国人って時点で、どうせアンタ等も快楽殺人鬼か何かなんだろ?」


 それを聞いた二人は、狐につままれたような表情を浮かべる。


 だがそれも一瞬の事であり、ヤッコの制止も聞かずにプラーテンが案内人へと詰め寄る。


「そうだけど……アンタ!“七人ミサキ”について、何か知っているのか!?」


 鬼気迫るプラーテンの剣幕だが、それも無理のないことだろう。


 あれほど焦がれた実在するガン=カタの使い手に、ようやく出会えるかもしれないのだ。


 望みが叶うかもしれない喜びで興奮しきっているプラーテンを前にしても、案内人の男は動じることなく視線を二人の背後に向けながら答える。


「知っているも何も……あの七体の怪物がこの街に出現して以降、アンタ等みたいな命知らずな連中が何人も返り討ちに遭って、死体として転がらない夜はないよ。――ちょうど、この案内所を出て左にまっすぐ、歩いて15分ほどの場所に奴等がいる。分かったら、さっさとここを出てってくれ」


「サンキュー、お兄さん!」


「……極上の獲物の情報、感謝する。礼として特別に、アンタの事は見逃してやるよ」


 そのように、二人は自分なりの礼を案内人に述べてから、教えられた場所へと疾走していく――!!









「着いたと同時に、さっそくお目当ての奴等を発見したぜ……!!」


 二人が到着した先にいたのは、山伏らしき格好を当世風にアレンジした衣装をスタイリッシュに着こなした、七体の人為らざる妖気を全身から放つイケメン集団であった。


 七体ともまだこちらを認識していないのか、それともハナから眼中にないのか――。


 全員瞼を閉じた状態で制止しながら、ジッ……と佇んでいた。


「なぁなぁ、プラーテン!ここに来る途中で買った妖怪退治の護符が、全部一瞬で焼き切れちまったぜ~~~~~~~~~~ッ!?」


「マジかよ。聞いていた以上に、邪悪な力がハンパなさすぎるな……ひょっとしたら、アイツ等は“七人みさき”っていう妖怪なんかじゃなくて、人間界に侵攻を企てている上位の魔神――もしくはその眷族か何かなのかもな」


 ヤッコが述べた通り、現に眼前の七体は“七人みさき”という妖怪の特徴である幽霊のような姿からは程遠い――それどころか密度が凝縮したかのような凄まじいプレッシャーを放つ実体を有している。


 ――何より、そのあまりにもスタイリッシュな出で立ちから、夜の街を生きる人々の間で“七人みさき”ではなく、“悲しみ七人衆(セブン・クライツ)”という異名で恐れられている事からも、彼らが人間社会から追いやられるような“妖怪”などではなく、それどころか人間社会の存続を脅かす“魔神”の眷属である可能性は非常に高いとさえ言えるだろう。


 日本に来たばかりでそのような知識などあるはずもないプラーテンとヤッコだったが、彼らは猟奇的快楽殺人鬼(シリアルキラー)としての本能で、自分達が対峙する者達の本質を的確に捉えていた。


 尋常ならざる危険度を感知しているにも関わらず、あろうことかヤッコはそれまでと何ら変わらない調子で、相方のプラーテンへと訊ねる。


「ん~、とりあえずお目当てのガン=カタ使いが見つかったけど、どうする?……多分、挑んだら十中八九俺ら死ぬと思うけど」


 ヤッコが気軽な調子で呟きながら、顎で視線を促した先にいたのは、左手で銃を持ち、腰に日本刀を携えた美形の青年だった。


 本来“ガン=カタ”とは、相手の動きを予測しながら卓越した武術と手にした銃で相手に接近して戦うスタイルなのだが、この人ならざる青年はガン=カタを突き詰めた先に、銃と刀を用いての戦い方へと到達したに違いない。


 他の者達は、同じく日本刀、ブーメランなどを所持している者がいたが、大半が素手であり、銃を手にしているのはこの青年だけのようである。


 それぞれがどのような能力や戦法を使ってくるかは分からないが――流石にこれだけの強敵に阻まれては、銃を使った近接戦闘術としての“ガン=カタ”をプラーテンが目にする事が出来なくなってしまう。


 にも関わらず、プラーテンはあっけらかんとした表情で答える。


「せっかくマジモンの“ガン=カタ”マスターを前にして逃げ帰るようじゃあ、猟奇的快楽殺人鬼(シリアルキラー)の名折れっしょ?――これは、行くしかねぇぜ!!」


「という訳で」と口にしながら、プラーテンはニカッと隣の相棒に満面の笑みで語り掛ける。


「そんじゃ、いっちょ派手に任せますわ!頼れる相棒さん♪」


「ん。りょーかい、っと」


『十中八九、命を落とす』と分析しているにも関わらず、何の気負いもなく気軽にいつも通りのやり取りをするプラーテンとヤッコの二人組。


 現在、七体の魔神眷属達は全くこの二人を意識すらしておらず、逃亡する事は容易に可能である。


 にも関わらず、ヤッコとプラーテンは“悲しみ七人衆(セブン・クライツ)”に向かって、武器を構えながら疾走していく。


 果たして、彼らはこの難敵にどのように立ち向かうつもりなのだろうか……?


 余人には全くその答えが分からぬまま、盛大に闘争の幕が開こうとしていた――。









 “悲しみ七人衆(セブン・クライツ)”に向かって疾走していく中、先にアクションを見せたのはヤッコであった。


 彼はガン=カタ使いを除く六体の魔人達に向かって、盛大に声を張り上げる――!!


「ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!こっちを見やがれ、陰気臭い糞野郎どもッ!!」


 そう言うや否や、ヤッコは勢いよくマシンガンを撃ち放っていく――!!


「死にさらせェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェッ!!」


 秒速で放たれる高威力の弾丸が、六体の魔人へと炸裂する!!


 だが、その程度の攻撃など最初から避けるまでもないという事だったのか、人ならざる者達の肉体には全く傷一つすらついていなかった。


 そうしてゆっくりと瞳を開いた彼らだったが、突然ヤッコの姿から視界が消えたかと思うと、瞬時に彼の眼前に六体全員が姿を現していた。


「あっ」


 ヤッコが何かを呟くよりも早く、腹部に掌底を通じての“気”による内臓破壊、刀による四肢の切断、業火による突撃、見えざる異能による下半身の消失、胸部を貫通した拳による心臓の握りつぶし――。


 これらの猛攻をほぼ同時に受けてすぐに、最後の一人が投擲したブーメランによって、ヤッコの首は盛大に真上へと跳ね飛ばされていた。


 首を跳ね飛ばされたその刹那、ヤッコは脳内で現在自身の中で沸き起こった感情について考えていた。


(……あぁ、流石にあの六体を同時に相手すりゃこうなるか……もっともっと、たくさんの命やら未来を奪いまくりたかったんだがな……)


 そう思案しながらも、ヤッコは自身に振り返ることなくガン=カタ使いのもとへと疾走していく相方に向かって、満足そうな視線を向ける。


(――だけど俺は、それと引き換えに殺される側の感覚ってヤツを体感する事が出来た。……どうだ?羨ましくて仕方ないだろう、プラーテン?)


 そう思案し終えるのと同時に、ヤッコの首は地面へと墜落した――。









 自身の後方で何かが落下する音を聞いた瞬間、プラーテンは何が起きたのかを正確に理解した。


 それと同時に、彼は露骨に悔しがる表情を浮かべて呟く。


「クッソ~~~!!……ヤッコの野郎、俺より先に命を懸けた殺し合いを愉しみやがって!一人でそんな面白そうな事するとか、マジで卑怯と言う他ないぜ!!」


 そのように憤慨していたプラーテンだったが、満面の笑みへと切り替わる。


 何故ならプラーテンの視界の先には、もはや届きそうな位置に彼の狙いであるガン=カタ使いの青年が佇んでいたからである。


「ニシシ!ヤッコには先を越されたけど、別にいっいも~ん!!――俺はお目当ての、ガン=カタマスターを相手に、たっぷりと往生タイムを満喫しちゃうもんねー☆」


 そう言うや否や、プラーテンは瞬時に取り出した二丁拳銃を、眼前の魔人に向かって撃ち放つ――!!


「オラオラッ!!さっさとご自慢のガン=カタを見せなきゃ、ハチの巣になっちまうぜ~~~~~~~~!?」


 ヤッコの戦闘で分かる通り、この“悲しみ七人衆(セブン・クライツ)”という人知を超えた敵には通常攻撃がロクに効かないのは明白であり、銃弾が直撃したところでこの青年にも大したダメージはないだろう。


 だが、ガン=カタ使いはそんなプラーテンの挑発にあえて乗ったかのように、それまで閉じていた瞳を開くと、高速で迫りくる銃弾を前にしながら、堂々とした出で立ちで左手に持った銃の引き金を瞬時に引いていく――!!


 とはいえ、ヤッコが二丁拳銃で放ったのは計12発の銃弾であり、それに対して出遅れた形で魔人が引き金に手をかけたのは、たったの一度――つまり一発しか撃ち出す事が出来ていないという事である。


 このガン=カタ使いの青年が、例えどれほど卓越した射撃能力の持ち主だったとしても、たった一発の銃弾で全てを撃ち落とすことなど不可能に違いない。


 だがそんな彼と対峙しているプラーテンは、次の瞬間、とてつもない光景を目にする――!!



「ッ!?な、何だとッ!!」



 プラーテンがそのように驚愕の声を上げるのも無理はない。


 驚くべきことに、魔人が放った一発の銃弾は、自身に迫る銃弾に全く当たることなく、そのままプラーテンの胸へと直撃していたからである――!!


 確かにこうすれば、プラーテンを倒す事は出来るかもしれないが、代わりに彼が放った12発の弾丸による一斉掃射を浴びることになってしまう。


 だが、前述した通り“悲しみ七人衆(セブン・クライツ)”には通常の武器による攻撃のダメージはほぼ皆無。


 ゆえにガン=カタ使いの青年は、避ける素振りすら見せることなく銃弾全てを受け終わると、ジッ……と無表情のままプラーテンを見据える。


 プラーテンは、撃たれた胸の部分を押さえながら、息も絶え絶えに何かを呟いていた。


「フッ、フッ……流石だなぁ~、魔人って奴は……出来ることなら、もっとアンタと戦っていたかったぜ……」


 命が尽きかけるプラーテンからの、敬愛する強敵への最後の遺言……だろうか。


 だが、対する魔人の青年は、それまで同様に何の感情も移さない瞳と表情で、プラーテンを見据えるのみであった。


 そんな魔人に向かって、なおもプラーテンが言葉を続ける。



「残念だぜ……分かっていた事だが、ここまで全く引っかかってくれないとはよぉ~~~!!」



 刹那、プラーテンがクワッ!と目を見開きながら、装填しなおした銃弾を再度、魔人に向けて撃ち放つ――!!


 今度はそれらを俊敏な動きで躱しながら、魔人が腰から抜き放った日本刀を右手に持ちながら、プラーテンへと斬りかかっていく。


 魔人が放った斬撃は、そのままプラーテンの首へ吸い寄せられるかのように迫り、ヤッコ同様に盛大に斬り飛ばす……はずだった。


「……ッ!?」


 ここに来て魔人は、初めて声にならない驚愕の表情を浮かべる。


 なんと!


 あろうことか、魔人の刀はプラーテンの首を斬り落とす事も出来ずに、そのまま押しとどめられる結果となっていたのだ!!


 何の防具もしていない急所である首への斬撃が、完全に無効化されている。


 見れば、先程魔人に撃ち抜かれたはずの胸の部分にも、全く負傷らしきものは見えない。


 そんな魔人の一瞬の動揺を突いて、プラーテンが再度銃弾の嵐をゼロ距離から盛大に浴びせていく。


 流石にゼロ距離で撃たれたことでいくらか衝撃があったのか、プラーテンから距離を取る魔人に対して、プラーテンが得意げな表情で種明かしを行う。


「へヘッ!人ならざる身でガン=カタを極め抜いた存在を相手に、無策の弱いままで挑む方が逆に失礼ってもんだろ!――俺は、アンタととことんまで楽しみ!アンタにも満足してもらえるように!!……有り金全部はたいて、事前にある準備をしておいたのさぁ!!」


 そう言いながら、プラーテンが魔人に撃たれた胸の部分を自身の右腕でドンッ!と力強く叩く。


「俺は最高級のドーピング剤を自身に注入することによって、常人を超えた動体視力と筋肉操作を身に着ける事に成功した!!これにより、俺はお前の銃弾や剣の軌道を目で追えるようになった上に、攻撃が当たる部位に筋肉を集中させて硬質化させ、ダメージを無効化させる事が出来るようになった……って訳だ!!」


 胸に撃たれた銃弾も、首に振り下ろされた斬撃も。


 プラーテンはドーピングによる身体能力を用いることによって、魔人のガン=カタによる攻撃を凌ぎ切っていた。


 もっともその代償も大きく、このような急激な効果のあるドーピング剤を使用したせいで、プラーテンは例えこの戦いで生き残れたとしても、寿命が大幅に縮むのは確実であった。


 だが、今のプラーテンにとっては、そんなものなど些末な事に過ぎなかった。


「どのみち、ここでアンタに勝たなきゃ俺は死ぬんだ!俺はこれまで好き放題に、殺したいときに殺し、奪いたいときに奪ってきたんだから、今さらこんなところで自分に嘘をついたりなんかしてやらねぇぜ~~~!!……だからテメェも!出し惜しみナシの“ガン=カタ”を見せやがれッ!!!!」


 叫びとともに、プラーテンが再度一斉に銃弾を放っていく。


 だが銃弾は全て、今度は魔人の身体ではなく抜き身の刀へと向かっていた。


 魔人はそれらを器用に右手だけで刀を振るって銃弾を弾くが、プラーテンはなおも執拗に銃撃で追撃する。


「オラオラァッ!!同じ場所に銃弾を浴びせることによって金属疲労を狙い、その刀身をへし折ってやるぜ~~~!!」


 その宣言通り、苛烈な銃弾の嵐が的確に一点集中で刀に直撃していく。


 魔人側もただ耐え忍ぶだけでなく、左手に構えた銃で応戦するが、それらは全て“筋肉操作”によって極限まで収縮したプラーテンの分厚い筋肉によって、完全に阻まれていた。


「無駄無駄ァッ!!……この距離じゃあ、流石に今の俺でも銃弾の軌道を見切っていても回避するのは不可能だが、直撃する場所さえ分かっていれば、こうして直前に筋肉で防御するのは余裕なんだよッ!!」


 そう言っている間にも、魔人の銃弾が自身に直撃し続けるが、プラーテンは全く動じることなく――それどころかさらに猛攻撃を仕掛けていく。


「言っておくが、今の俺はドーピングによる恩恵で痛覚が遮断されているから、痛みで失神!なんて間抜けなオチはねぇから!残念だったな!!」


 魔人に向かって、そのように勝ち誇った表情で宣言するプラーテン。


 両者ともに“ガン=カタ”の使い手でありながら、全く相手の攻撃を躱そうとせずに、近距離で銃弾を打ち合うのみという異様な光景が繰り広げられていく中、プラーテンは内心で密かに考えを張り巡らせる。


(――んでもって、その刀さえへし折っちまえば、お前に残るのは攻撃の軌道が読みやすい拳銃のみ!……そうなりゃあとは、銃弾を躱すなり防御しながら、“筋肉操作”で桁違いに威力が跳ね上がった俺の拳を、お前の無防備な身体にぶち込んでやるぜ~~~~~~~~ッ!!)


 魔人に対して、銃弾が通じないのは既に立証済み。


 だが確かに、単なる銃弾と違って、ドーピングによって極大レベルに強化されたプラーテンの渾身の拳ならば、この人ならざる魔人にも通じる可能性は十分に高いと言えた。


 ゆえにプラーテンは、敵の優位である軌道が読みにくい刀による攻撃の芽を潰そうと画策する。


 現状はプラーテンの目論見通り、魔人の銃撃は全て筋肉で防ぎ、自分の銃弾は一つ残らず相手の刀の同じ箇所に集中して当たっている。


 あとは、刀が折れるにしろ相手が鞘に納めるにしろ、その瞬間に一気にゼロ距離に近づいて殴りまくれば、自身が勝利の栄光を掴むことが出来る――!!


 ……はずだったが、ふとプラーテンは自身の身体に違和感を覚える。


「これは……さっきから、俺の筋肉が同じ場所に留まり続けている……?」


 否、厳密には違うことをすぐさまプラーテンは理解する。


 ――痛みが遮断されていて気付くのが遅れたが、彼の筋肉はとどまっているのではなく、絶え間なく相手の攻撃を受け続けていたために再度分散する暇もなかっただけなのだ。


 ……そしてその部位は、最初にプラーテンが銃弾を受けた胸部であった。


 これは当然偶然などではない、相手の意図を理解してプラーテンが初めて取り繕いようのない驚愕の声を上げる。


「コ、コイツッ!?俺が金属疲労を狙って刀を壊そうとしていたのと同様に、俺の胸に何度も集中砲火を浴びせて筋肉の防御が通じないくらいにダメージを蓄積してやがったのか~~~~~~~~ッ!!」


 そう言いながらなおも、銃弾を撃ち続けるプラーテン。


 もしも、ここで相手の拳銃に対処しようとすれば、代わりに自由になった刀によって自分は斬り伏せられるだろう。


 だが、このまま刀を撃ち続けて何とかへし折る事が出来たとしても、集中攻撃でダメージを負い続けた筋肉操作の守りが既に限界を迎えようとしているため、あと数発で相手の銃弾は筋肉を突き破って、自身の心臓へと到達する事は確実である。


 無論、これだけ接近してしまっている以上、回避や逃走が出来る隙などあるはずもない。


 つまり、現状プラーテンは――。



「……これが、完全な“詰み”ってヤツか……ッ!!」



 自分でもどういう感情なのか分からぬままに、笑みを浮かべながらそう呟くプラーテン。


 刹那、魔人の銃弾が分厚き筋肉の壁を貫きながら心臓を撃ち破っていき、瞬時に弛緩した首元へ迫った刀による斬撃が、プラーテンの首を相方同様に上へと跳ね飛ばしていた。


 血しぶきを飛ばしながら、相棒同様にプラーテンの首が真上に飛んでいく。



 ――ヤッコとプラーテン。



 他者の“命”というものを弄びながら徹底的に軽んじてきた、生粋の猟奇的快楽殺人鬼(シリアルキラー)である二人組。


 そんな彼らは、その生き様通りに自身や相棒の死にすら頓着せずに突き進み、結局何も残さぬままあっけなくその生涯を終えた。


 代わりに望んだ光景を目にする事が出来た“興奮”と、自身が全力を出し切った上での敗北という“納得”を宿した表情を浮かべながら、落下したプラーテンの首が転がっていく。


 奇しくも、プラーテンの生首は、先に絶命したヤッコの生首のもとに転がっていき、上下反対ながらに互いの目線が向き合う形でピタリ、と制止した。





 ――オゥ、プラーテンか。御所望の“ガン=カタ”とやらはどうだった?


 ――……あぁ!もう言葉に出来ないくらいに、とにかくマジでハンパなかったぜ!!ヤッコは?ヤッコの方は、どうだった!?


 ――こっちなんかお前以上にヤバかったけど、凄すぎて何が起きたのか本当に訳が分からなかったぞ!!……六人が目の前から消えたと思ったら、痛みを感じる間もなく視点が変わってるし……結局、俺は何が原因で死んだのか、未だに理解出来てないしな。


 ――クッソ~~~!!そっちもメチャクチャ楽しそうだな~!!次は、俺があの六人とやってみたくなってきた!


 ――……何言ってんだ、プラーテン。『人間なんて、死んだらそこで終わり』なんて、猟奇的快楽殺人鬼(シリアルキラー)にとって常識だろ?……だから、俺達に“次”なんてもんはないよ。


 ――……ハハッ、そうだよな。……んなもんくらい、言われなくても分かってるっての!……まぁ、良いや。こんだけ最高の経験なんて、この先どんなに生きたり生まれ変わろうと味わえるはずもねぇし、間違いなく俺はこの最高の“瞬間”だけがあれば良い。


 ――プラーテン……。


 ――だから!お前の言う通り蛇足でしかない“次”なんて、確かに俺達には必要ないよな……ヤッコ!!





 やがて、ヤッコの瞳からようやく光が失われていく。


 プラーテンより先に絶命していたため、順番で言えば確かにそれが当然なのだが……。


 その様子はさながら、プラーテンへの伝言という役目を終えた事により、安堵して息を引き取ったかのようでもあった。


 それからすぐに、相棒の後を追うようにプラーテンの瞳からも光が消失していく。


 無意味なほどに鮮烈に命を燃やし尽くした二人を象徴するかのように、夜の街の光だけが地面に転がる彼らを優しく照らしていた――。



 







 ――東京都・新宿。


 ヤクザやホスト、キャバ嬢や悲しみ七人衆(セブン・クライツ)といった者達の欲望と愛憎が入り乱れる夜の街。


 ネオンと人々の生の躍動に引き寄せられた者達の命を吸い上げながら、今日もこの街は鮮烈かつ怪しき輝きを放ち続けていく――。

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― 新着の感想 ―
[良い点] これはめっちゃクールでカッコイイですね! ニトロプラス的な雰囲気が痺れました! こういう作品書いてみたいなぁと思いつつも、自分にはとても難しそう>< 才能に嫉妬!
[良い点] うひょ~……キレッキレにイカレた作品でしたね!(褒め言葉) クズ野郎どもが、でも自分なりの信念に基づいてるあたりとか、さすがのアカテン節! 明らかにイカレてやがるクズだからこその散華の…
[一言] やばい2人でしたね。 でも、2人が死んだのがちょっと残念。面白い奴らだった。 にしても、新宿って、やばいところですねー。
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