新たな家庭教師 (王女視点)
セレーネは新たな家庭教師を見てその若さに驚く一方で、少し侮っていた。今まで数多くの者が魔術を彼女に教えたが、すべて彼女にとって愚物に等しい者たちだった。時計塔の管理人一族とはいえ、自分と歳が大して離れていない女など大したことはないのではないかと思っていた。
しかし、その考えはすぐにアルテミスの手で破壊されることとなった。あろうことにその家庭教師は王女であるセレーネを軽く馬鹿にして、あろうことか威圧してきたのである。自らを優れた人間だと思っているセレーネは威圧し返すことにした。しかし、その目論見は失敗に終わる。
「何こいつ、なんて強い力なの」
心の内でアルテミスが自分とは段違いに優れていることを認めつつも、自尊心と優越感がまだ残っているセレーネは威圧をさらに強めて対抗しようとした。しかし、強めれば強めるほど彼女はさらにその力を強くし、ついにセレーネはアルテミスの力に対抗できなくなった。
その瞬間、セレーネは確信した。
「この人はまさに私の先生にふさわしい人だ。この人からなら多くを学ぶことができる。そして、彼女をいつか超えることができれば、自分がさらに優れた存在となる」
彼女はアルテミスに尊敬と対抗心を持って、アルテミスにこう言った。「先生は私の師匠たるに最もふさわしいお方です」、と。
この瞬間は彼女ら2人だけでなく、歴史の上でも非常に大きな出会いであった。王女セレーネと至高の魔女アルテミス、後に女王とその師にして右腕としての二人の関係はこの時始まった。王国歴900年ちょうどのことであった。アルテミスの手によって王女ユーリは女帝セレーネとなるべくその才を成長させていく。そして、セレーネは技術や知識だけでなく、その思想や精神にもアルテミスの影響を強く受けるようになる。
後の歴史家はアルテミスについて、アルテミスは王女時代のセレーネにとって魔術の師匠以上の偉大な存在であり、魔術以外の勉学や帝王学の師でもあったと述べている。