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魔女と王女の帝王学  作者: カール・アクグスト
第1章 彼女たちの出会い
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王女

 ヴィントラント王国第1王女、その名をセレーネ・フォン・ローゼンベルク・ツー・ヴィントラントといった。アルテミスの王女への第1印象は、学院長から聞いたように理知的で聡明そうな感じであり、穏やかな雰囲気であった。彼女が苛虐の女帝足りえるのか、アルテミスはいささか疑問に思った。


 「おかけになってください、先生」


 物腰も柔らかであり、予想していたような傲慢さはみじんも感じられない。どうやら学院長の言葉は世辞ではなかったようだ。


 「ありがとうございます、殿下」


 少し感心しているアルテミスに王女は話しかけた。


 「時計塔からご足労いただきありがとうございます。時計塔の方、しかも先生のように若く美しい方に教えていただく機会などめったにはありません。今までもいろいろな先生方に教えていただいたのですが、魔術の講義というものはあまり面白くなかったのです。ですから、先生の授業を楽しみにしていたのですよ」


 王女の口調は丁寧なようだが、どこか違和感を感じるものであった。そして、アルテミスは王立学院の上位クラスに入る程度の才能は有している彼女がなぜ魔術をつまらなく感じるのかふと疑問に思ったが、すぐに納得した。彼女からは自分と同じ匂いがしたのだ。どうやらこの王女は自分に似た存在らしい。そう思ったアルテミスは彼女にこう答えた。


 「期待以上のものができると思いますよ。時計塔はもちろんこの世界に私より優れた魔術師などいませんから。私はあなたより数十歩は前を行く人間です。」


 どうやら王女はその優秀さゆえに他人を見下しており、そのうえで王女としての仮面をかぶっており、自分の同類であるらしい。だが、アルテミスは他人を見下しているがゆえに誰かから軽んじられるのを嫌い、現に自らより優れた存在などいないと思っており、鼻についた王女をこれから教えていくためにも、一回自分に屈服させようとした。そして、その魔力を利用して、王女を威圧した。


 最初はそれに対抗していた王女だったが、次第に対抗できなくなり、最終的に対抗をあきらめた。


 「先生は私の思っていた以上に素晴らしい方で、私の師匠たるに最もふさわしい方のようです。これからよろしくお願いいたします。」


 「こちらこそです、殿下」


 王女に自らの偉大さを見せつけたアルテミスはその結果に満足しつつ、その感情を隠して顔に微笑を浮かべた。そんな彼女に王女が話しかけた。


 「殿下、はおよしください。先生にそう呼ばれると何かむずがゆく感じます。セレーネ、と名前で呼んでください」


 「それではセレーネ、改めましてあなたの家庭教師となるアルテミスです。あなたが入学予定の学院でも今年から教授となり、授業を担当します。明日は学院でやらねばならないことがあるので、あなたへの個人授業は明後日からです。」


 思った以上に、というか自分とは異なり素直だったセレーネに彼女は驚いた。


 「ではセレーネ、今日はこれぐらいで失礼したいと思います。旅装を解いて明日の支度をせねばなりませんので。」


 長旅で少し疲れていた彼女はこれからの住みかとなり場に移動しようとした。なお、彼女は王女の家庭教師という立場ゆえに宮殿の部屋を用意され、そこで寝泊まりすることとなる。彼女はあまり人を信用していないのもあって、彼女は使用人のようなものを時計塔から連れてきていなかったが、、それはそもそも連れてくる必要がなかったからでもある。彼女にとって時計塔と宮殿のメイドなどに大した違いを感じない。


 「先生、あさってからよろしくお願いします。ぜひ多くを学ばせていただきます。そして、いつかは先生にも勝る魔術師となり、そして女王となります」


 そういったセレーネに彼女は微笑んだ。負ける気はしなかったが、セレーネのことを好ましく思っていた。また、セレーネを威圧した時に彼女はセレーネの才に気づいていた。自らの威圧に対抗して威圧し返そうとすることができる人間はあまり見たことがなく、彼女は自らの新たな弟子の成長に期待していた。


 また、アルテミスの考えはそれまでと変化していた。セレーネに会う前、彼女は家庭教師として王女を教え、守ることを考えていた。しかし、彼女の人並でないに気づき、自らの弟子として知りうることを伝えて彼女がどのようになるかを見てみたくなったのだ。それは、自らを優れた存在と認識するアルテミスにとって、弟子が優れているということは自らがより優れているということであり、自らの社会に対する優位性を明らかにし、自己肯定感を感じられるものであったからである。


 「セレーネ、ではこれで失礼します」


 そういって彼女は王女の私室から下がり、宮殿のメイドに案内されて自らの部屋へと向かった。

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