新任教授
「教授、よくいらっしゃいました」
夏の終わりが近づく一方でまだ残暑の厳しい晩夏之月の中頃、王立魔術学院の校門前に2人の人物が立っていた。一人は銀髪碧眼の若く美しいいかにも高貴の令嬢といった雰囲気の女性であり、もう一人は暗色の執務服を着た老紳士である。
容姿だけを見れば教授とは後者の老人を指し、女性はさしずめ迎えの人間ではないかと大抵の人物は思うであろうが、教授とは女性のほうのことだ。
「お出迎えありがとうございます、学院長」
女性の透き通るような声が響いた。
彼女を迎えた老紳士は王国の公爵であり、国王から学院の管理を一任された上級貴族である。彼は自分の身分を盾に偉そうにふるまう人物ではなかったが、その老紳士が自然と物腰が低くなってしまう雰囲気を醸し出す彼女は何者であろうか。
彼女は世界に名をはせる時計塔の管理人の一族に名を連ね、当代の当主の唯一の娘である。当主の息子は彼女と彼女の兄の二人である。時計塔とは王国だけでなくこの世界に名をはせる魔術機関であり、世界の観測と修正を任務としている。その権威はほかのどの魔術研究機関も勝ることはできず、国王ですらもその存在を無視することはできない。その時計塔の管理人一族の当主の娘。彼女がこの学院に教授として赴任したのはとある観測結果により生じた秘密任務のためである。
「中にお入りください」
老紳士が女性に行った。
「はい、参りましょう」
女性は答えて老紳士とともに学園へと入っていく。後に彼女は数多くの魔術や理論を生み出し、「至高の魔女」として魔術史にその名を刻む一方、その暗躍は時計塔や王国のみならず世界の歴史に絶大な影響を与え、後代の人の一部には彼女を「銀髪の狂姫」とも呼ぶ。
その名をアルテミス・フューレン・リーゲン・ディートリッヒといった。