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プロローグ 『死神』と『狩人』

 5月27日にプロローグとして追加しました。

 初めての戦闘描写ですね。なかなか書くのが難しかった……。上手く書けてるといいんですけどね。

 森の中、黒装束の若く、刀を右手、魔術銃を左手に持った少女が、中年程の、両手剣を持った男と刀と剣を交える。その少女の姿はとても美しいものの、何物をも寄せ付けぬ冷酷な雰囲気を醸し出していた。黒装束は暗殺者の服装としてよくあるものではあったが、彼女は顔を隠していなかった。その紺碧の怜悧な瞳は獲物の男をとらえている。


 男は逃亡者だった。その特異な思想から時計塔に目をつけられ、長く追われていた。これまで幾度か追っ手に襲われてきたが、それを撃退してきた猛者でもあった。だがその逃亡も終わりを告げようとしていた。彼が今先程まで共に逃げ、苦楽を共にし、背中を預けあった彼の仲間たちはすでにこの世にいなかった。『死神』の鎌が彼にも迫ろうとしていた。






 あと一人である。周りにいたほかの男たちは先程撃ち殺した。一方、今私と斬りあっているこの男はそこそこの使い手のようだ。私が何人か撃ち殺した段階で私の気配を察知し、私のほうに全力で斬りかかってきた。どうやら身体強化の魔術の心得があるのは間違いないようであった。試しに斬りかかろうと突っ込んでくる男に一発発砲してみたら、剣で銃弾をはじかれた。剣の技量もだいぶ高いようだ。だが、私の敵ではない。


 男が斬りかかる。だが私は咄嗟に、しかし落ち着いて腰に差した自らの得物を抜いた。斬りかかる剣に合わせてそれに刀が当たるようにして男の剣を逸らすと私は刀を返して男を袈裟がたに斬りつけた。だが寸前のところで男は後ろに跳んでそれから逃れた。


 どうやら男は困惑しているようだ。それもそうだろう。そもそも遠距離から銃で撃ちかけるような暗殺者が近接戦の心得を持っていることはそれほどおかしなことではない。だが、ある程度の腕前で自信を持っているであろうこの男にとって自らの攻撃を正面から受け止められずに逸らされたことへの違和感は多少なりともあるはずだ。おそらく彼を追っていた追っ手の中に私と同様に刀を持ち、類似した剣術を使う人間などいなかっただろう。そもそも、私は師匠以外にあまり似たようなやり方をする人間を見たことがない。


 意を決した男が再び私に向かってくる。今度は自らの速さを最大限に生かし、全速で突きを放つ。私は右斜め後ろへ一歩下がり、男の攻撃を肌を男の剣が掠めるほどで躱すと男の左半身を大きく斬りつけた。


 男の顔には驚愕の表情が浮かんでいた。まさか躱され、挙句の果てに自らが手傷を負うとは思ってもみなかったのだろう。彼の左腕は大きく傷つき、深紅の血が流れていた。我が刀ながら相変わらずの斬れ味である。男の腕は皮膚が大きく避け、肉が露わになっていた。


 だが男はその驚愕をすぐさま消すと、全速力で逃走を始めた。どうやら敵わないと悟ったようだ。その表情には憎悪と無念を浮かべ、唇を噛み締めていた。


 敵ながら素晴らしい判断だと思う。敵わないと理解し咄嗟に逃げに転じる。仲間の死を悼み、敵を憎みつつも、理性を失わずに自分がどうするべきか考えられている。思想や研究は生き残らなければ後代へと伝えられないだろうし、復讐の機会はいずれ訪れるかもしれない。だが、仲間の死を目にしたうえでこの判断をするのは常人にはなかなか難しいだろう。並のものではない。ただ、逃げ切ることができれば、の話である。


 私は刀を一度しまうと左手で持っていた魔術銃を右手で持つ。ただ狙って打つ分には左手一本で十二分だが、ああいう標的の場合にはもう一、二工夫必要である。最初からこうできれば楽なのだが最も情報を持っていそうな首領格のあの男は暫く生かしておく必要があった。そのため、他と同様に簡単に撃ち殺す訳にはいかなかったのだ。だが、これ以上長引くと面倒であり、逃げ切られることもないだろうが、銃を使える状況になって態々使わないほどの物好きでは私はない。




 「時計の針は遅く進む。万物の創生神たる主は絶対にして不可侵の時を遅らせ給う。」




 私が一節だけ小声で唱えると、銃が薄っすらと光った。そして発砲する。男がそれに気付いたとき、すでに弾丸は彼の足を貫通していた。


 バランスを崩した男が倒れた。倒れた男へ足音を殺した走りで駆け寄ると、私は倒れた男の背中を踏みつけて地面に押し付け、もう片足で剣を持った右手を蹴って武器を取り上げると、腕を縛り上げた。魔術を使って男強制的に膝立ちにさせる。下手をすると男が舌をかむか、魔術を用いて自害する可能性がある。それを防ぐため、私は男の口を軽く力を込めて蹴りつけた。


 顎が砕け、歯がなければ舌をかむことも、魔術を唱えることもできない。戦闘中に口内に毒薬を入れることはまずしないだろう。戦闘用の固い長靴を履いた足で蹴られ、顎が砕け、歯を全て失った男は口からも血を流していた。猿轡とする布もなく、そもそも情報を引き出すために喋らせる必要もないので少々手荒な方法を用いてしまった。大の大人が恐怖のあまり涙を流していた。


 私は男の頭の中を読み取った。魂に刻みつけられた記憶を読み取るのは、優れた戦闘員でも苦痛を伴う可能性もあり、困難を極める。しかし、私にとっては何の支障もない。情報をすべて抜き出し、仕事は全て完了した。

 私は再び腰の刀を抜いた。そして、その刃を男の首に当てる。背中側からは男の表情を読み取ることはできなかった。


 「あなたに主の救済がありますように」


 そう言って私は男の首を斬った。男はすぐに絶命する。別に愉しみのためではなく仕事で殺しをしているのだ。効率が最優先であり、残虐に殺す必要はない。神への祈りの言葉を奉げるのは死人の魂の救済を祈るためだ。主はすべての人間に救済を与える。





 

 戦闘で発生した死体を集めて顔を確かめる。漏れがないか確認して魔術で火を放ち、骨まで燃やし尽くす。「燃える」という現象を体現した魔術は火は全てを燃やし尽くした。


 戦闘で刀に付いた血糊を清めると、鞘へと戻す。師匠から貰った愛刀の手入れはいかなる時も怠るわけにはいかない。そのあとに銃の銃身の燃え残りも掃除する。


 それにしても今日の獲物の男はこれまでで一番だったかもしれない。もう少し斬りあっても良かったが、あまり時間を費やすわけにもいかないので銃を用いた。あのやり方は時計塔の人間には秘匿している。記憶の読み取り方を含めばれると少し都合がいい。心を折って自白させるのが通常なのだろうが、それは少し獲物に酷であろう。何事も速やかに済ませるのが一番である。何はともあれ、今日の仕事はこれまでである。






 少女は森の闇に消えた。齢十四の彼女は時計塔で最も優れた殺し屋であった。暗殺者の彼女であるが、彼女は顔を隠すことはしない。それは顔を見られても一切の不都合がないからであった。そもそも彼女は狩り(しごと)は必ず夜に、人目の少ない場所で行う。加えて、顔を見た相手から彼女の情報が漏れることは絶対にない。なぜなら一度狙われた獲物の中で今だ生を得ているものは一つとしてないからである。敵対者たちは唯、狙った獲物を消して逃がさぬこの狩人を『死神』と呼んだ。だが、その姿を知る者は1人としていない。


 若く美しく、家柄も十分な彼女がこのようなことをしているのにはいくつかの理由がある。それは彼女の家系が一つであったが、もう一つは彼女の傑出した技量であった。この『狩人』よりも秀でたものは大陸にはいない。それは神によって証明されていることであるが、証明の存在自体は誰にも知られていない。時計塔の主人たちは彼女を成功者のいない困難な任務に投入したが、彼女が失敗したことは一度としてなかった。この銀髪碧眼の美しき『狩人』の真の姿を知る者は僅かであった。

評価、ブックマーク等お願いします。近日中にもう一話か二話投稿できるかもです。本業もこれくらい進んだらいいんですけど、どうもうまくいきません。小説も含めて、まだまだ未熟な自分を思い知らされています。

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