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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

もしも世界がステータスを閲覧できて、人間管理社会になったら

作者: 天兎クロス

 ――この子は……ダメだ。才能も将来性もない。


 ――じゃあ、どうするの?


 ――決まっているだろう……“廃棄”だ。





 この世界は、“ステータス”と呼ばれる、個人の能力、隠れた才能……そして向いている職種などが判明できるようになっている。

 この技術が発達し、世界には無駄が徹底的に省かれていった。

 そして、それは同時に……才能のない、俺みたいな人間もいるということの証明となるのだった。


「…………」


 “ステータス”には、身体能力から、才能、社会への影響力など様々なパラメータが存在する。

 そこで、国のお偉方は考えた――「初めから、優秀な人材を募れば、この国はもっと豊かになるのでは?」と。

 そうして産まれたばかりの赤子の“ステータス”を閲覧し、“仕分け”を行う。


 “仕分け”された人間は、“労働区画最下層”――通称“廃棄場”と呼ばれる場所で“管理”されることになる。


「――さあ! きびきび動け!!」


 そして、俺はそんな“廃棄場”の歯車の一つで……そして、割といい所の家の生まれだったりする。

 まあ、“仕分け”でこんなところまで落ちていったわけだけども。


 今は発電所を動かすために、たくさんの燃料を同僚と手分けして運んでいるのだが……正直、こんな作業は機械にでも任せればいいと思う。

 科学が発達しているのだから、手作業よりも効率がいいはずなのに……こんな国の隅も隅な場所の発電所なんかに機械を導入してもコストの無駄だと押し付けられてしまう。


「昨日は、採掘現場……今日は発電所、か」


 国に要らない俺たちでも、なにかの役には立てるだろうという下らない意見によって、ありがたいことに働かせてもらっている立場にあるらしい。

 だから、積極的に危険な場所や単純に人手が必要な労働を任されている。


 ――俺たちがいなくても、対応可能なものばかりで……本当に生まれてきた意味とか、存在意義を見失いそうになる。


 でも、死にたくない俺たちは必死に働いて……今日を生きていくのだ。


「おいっ、D-963!! 手を止めるな!」


「……っ、す、すみませ――」


「口答えするな! お前の餌はなしとするッ!!」


 考え事をしていたせいか、手が止まってしまった。それを運悪く見られてしまったらしく……罰が与えられてしまった。

 餌――ただ栄養の詰まったブロックと水を食事一回分で一日を過ごさなければいけない、俺たちにとって、餌抜きとは耐え難い罰なのだ。


 やってらんねーよ、とここで労働者放棄すれば、一週間は餌抜きだろう。

 もしくは、反抗的な態度を取ったと、処分されるかもしれない。


「はあ……」


 俺は渋々、そうやって燃料を運ぶ作業を再開するのだった。





 ――労働が終われば、今日の餌を受け取り、収容所に戻る。

 だいたい、四人が入れるくらいの小部屋がいくつもあるぼろぼろの施設なのだが……みんな死んだ顔つきで餌を食べているり


 俺はと言うと、腹を空かしながら、必死に明日に備えて眠りにつこうとしている。


「……くそったれ」


 小さくそう呟いた。

 暇つぶしに見ていた“ステータス”なのだが……あまりの数値の低さに、苛立ちを隠せていなかった。いろいろなパラメータを見れるため、情報を絞らないと頭がパンクしそうになるので、身体能力だけを表示していたのだけど……栄養失調と才能不足で一年前となんら変わっていなかった。


 俺は「ちっ」と舌打ちして、ステータスを消して、ボロ布を頭から被るのだった。


 明日の仕事はマシなものになるようにと、いもしない神に祈りながら。


 少なくとも、そんなもの(仕事)はほとんどないと知りながらも、祈らずにはいられなかった。


 ◆


 ――この“廃棄場”での労働は、主に劣悪で汚いものばかりだが……まれに当たりな労働がある。


 例えば、見目がましで生殖能力を取り除かれた女による大多数の廃棄された男の性処理担当。

 まあ、ほとんど誰も利用していない(というか、労働がキツすぎてそんな余裕が無い)が、まれにご褒美として利用できるようにはなっている。


 そして、上層階の人間――特に貴族辺りに目をつけられること。

 お忍びで、戯れに貴族の令嬢などが現れることがあるため、必死にアピールして気に入れられれば、召使いとして貰い受けられることもあるとかないとか。


 あとは……精神を削られる、地道な家畜の処分や、出荷作業だったりする。


「うぐっ、おえええっ」


 横でまた一人吐いて、しばかれるものが出てしまった。

 まあ、無理もない……なにせ、家畜――鶏、豚、牛。その処分ということは、自らと同じ境遇のいわば仲間を殺すことに他ならないのだから。


 ――こいつらだって、食べられたいから産まれてきたわけじゃないのに。こうして、数が多いって理由で殺される……


 人間に飼い殺されて、安全に生きることができるから? 外に出れば弱肉強食。それならば、この間今日の方がマシ?

 ふざけるな。

 負けて食われるのは自然の摂理――仕方ないと割りきれるかもしれないが、そこに人間のエゴ、欲が混ざった時点で吐き気がしてくるんだよ。


「うっ……」


 今流されていく豚の目を見てしまった。

 つぶらな瞳で、これから何が起こるのかまるで理解していない。

 そんな無垢な生き物をこの手にかける……それも、自分が生き残りたいから。


 ……ああ、それもまた、人間の身勝手なエゴなんだよな。


 そうして、俺は何度も何度も廃棄されるものから、食用のために……動物たちを殺していく。



 ――その作業を完遂できたのは、100人いた中で俺しかいなかった。





 午後になり、機械を見守り仕分け作業を眺めるだけの楽な労働を与えられて、俺は午前で疲れきった精神で再び削られていくことを自覚する。


 目の前には、産まれて間もないヒヨコ。

 ベルトコンベアやコンテナに乱雑に詰められていく、産まれたての命をただ機会を操作して眺めるというのは……あまりにも辛かった。


 弱り目に祟り目というのもあるのだろうが……あまりにかわいらしく、庇護欲をそそられる見た目をしているせいか、雑に扱うことに罪悪感を感じ……思わず手を止めそうになってしまう。


「ぴよぴよ……」


「……っ。ごめん、ごめんな……」


 きっと、こいつらも用済みになれば肉になるか、殺処分なのだろう。

 それまでの間、メスは卵を産む機械に。

 オスは……どうなのだろう? そのまま殺されるのだろうか? そのための仕分け作業だし。



 なんてやっていると、ヒヨコが一匹脱走してしまった。

 俺は慌てて機械を止めて、そのヒヨコを追いかける。


「ま、待てっ」


「ぴよぴよ!」


 ヒヨコは元気に駆け回り、生まれて初めての自由を謳歌している。

 ああ、羨ましい。

 でも、その自由はきっと長く続かない。


「あら? なにかしらこれは?」


「お嬢様。そちらはヒヨコ、でございます」


「あら、これが? 写真で見るよりも可愛くないわね」


「“廃棄場”のヒヨコです。きっと、仕分け作業中に脱走したものでしょう。対して価値もない、いわばそこらの雑草です」


「ふうん……」


 脱走したヒヨコは、なぜかここら辺に遊びにきているいい所のお嬢様に拾われて観察されていた。

 ピンクと赤の混じった髪に同色の瞳。

 身なりと、そばに居る老人の格好から、貴族ではないかと辺りを付けて……ヒヨコを回収しようと、近づくのだが、


「止まれ。薄汚い」


 老人に食い止められてしまう。

 俺は反射的に這いつくばってしまい、まるで奴隷かのように振る舞う。


「こいつは?」


「“廃棄”された能無しの役立たずです。国の恩赦によって生かされ、働いているのです」


「そうなの?」


「…………」


 勝手に口を開いていいものか、悩み……チラリと老人の様子を伺うと、険しい顔をしている。

 ここは、黙っていることが賢明だと判断したのだが……


「――あぐっ!?」


「私が訊いているのよ、さっさと答えなさい」


 頭部に強い衝撃が加わり、その鋭い感触から靴で踏みつけられているな、と理解する。

 おまけにぐりぐりと捻られてもいるのか、不覚突き刺さってくる。


「っ、そ、その通りでごさいます……わたくしども、は、国の情けによった生かされている身でありますゆえ」


「そう、そうなんだ。ふーん」


 口うるさい管理人がへりくだるときの口調を思い出して、必死に言葉を並べていく。

 さして、興味もなさそうに返答して、手のひらのヒヨコを弄り倒している。


「…………」


 俺はここから、どうしたらよいのだろう?

 皆目見当もつかない。とりあえず、無抵抗にこのまま去って行くことを願ばかりなのだが――ッ!?


「あ、がッ、グァ!」


「あなた、面白そうね。……ねえ、じい。確か、私、気に入ったのがあったら好きなものを買えるのよね?」


「ええ。誕生日ですし、『なんでも』と旦那様が――ま、まさか!?」


「ええ、そのまさかよ。あいつと、ついでにこの雛も」


「さ、左様でございますか……し、しかし」


「なによ? この私に指図する気?」


「め、滅相もごさいません!」


「なら、さっさと手続きすることね」



 そう言って、その人――愛理・ラクラヴィスに俺は拾われることになり……そして、そこから始まる受難に気づくことができなかった。



「さ、立ちなさい。……さもないと、そのまま踏みつけるわよ」


 なにせ――このワガママお嬢様の相手をすることになってしまったのだから。

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