一話『初恋』
ーーー現実は、時に残酷だーーー
そう、思ったようにはいかない。
「ん?まーた絵描いてんのか、しかも今度は可愛い犬の着ぐるみか」
俺の頭をわしゃわしゃとしてくるコイツは
加賀美 蓮太、俺の幼なじみだ。
筋肉質な体をしており、見るからに筋肉バカだと分かる容姿。
高校生になってから異常なほどごつくなった。
昔っから俺の頭を大きな手で撫で回してくる。
俺は犬じゃねえ。
むしろコイツはゴリラだ。
「いい加減頭を滅茶苦茶にすんのはやめろよ、昔っから性格変わんねぇなほんと」
「んだよ、大人になれってのか?俺様のココは既に大人だぜ」
自らの股間を指差しながら自慢げに話す蓮太には恥じらいというものがないらしい
普通にクラスでそんなことやるか、いいやしない。
陽キャを通り越してド変態極まりない。
俺は呆れていつものようにため息をついた。
「あのなぁ、俺はお前の性格の話してんだ。誰もお前の肉の棒に目むけてねぇんだよばーか」
「俺様の聖剣を見くびるとは…お主、只者ではないな?」
「お前と話してると頭がおかしくなりそうだ」
バタン!と、勢いよく扉を開ける音でみなの視線はそちらに向けられる。
「お前ら席につけ、帰りのHRを始めるぞ」
もう少し静かに来てもらえないかな、マジで心臓に悪い。
ん?なんだあの可愛い子は。
「あぁ、その前に諸事情により朝紹介できなかったが今日からみんなのクラスメイトになる子だ。自己紹介をよろしく」
「はい、北海道の最海高校から転入してきました福乃瀬 四葉です。よろしくお願いします」
透き通るような桃色の髪、可愛らしい顔、そして何よりいい匂いだ。
今日席替えしたばかりで教室を上から見て左上の席、俺は少々気分落ち込み気味だったがここで良かった、といるはずもない神に初めて感謝の気持ちを伝えたくなった。
「アーメン…」
「なんで神様にお祈りしてんだ」
「蓮太、神様は本当にいたよ」
「は?」
放課後、彼女はすぐにクラスの女子と仲良くなっていたらしく笑顔で話している
俺はすっかり彼女に見とれていた
「なぁ生、早く帰ろうぜ」
「おい、頭をわしゃわしゃするなれんこん」
オレンジ色の空、見慣れた風景。
もうすっかり飽きかけてたこの街にも少し楽しみが増えたな、彼女の存在が俺の心から離れない。
「恋…かぁ」
「え、なに、お前まさか恋したの!?俺という存在がありながら…誰に!?」
心の声がうっかり漏れてしまった。
彼女の存在は俺をおかしくするようだ。
「いつからお前みてぇな脳筋と付き合ったことになってんだ、聞かなかったことにしろ」
その後蓮太は俺をおちょくったりしてきたが何とか蓮太との別れ道に着いた。
ようやくこのバカから開放される。
「それじゃ、また明日な恋のバージン!」
「うっせー脳筋れんこん!」
肩の荷がどっさり落ちたような感覚だ。
本当にアイツと話してると疲れるが、毎日が退屈に感じなくて少し感謝もしてる。
はぁ、と深くため息をつきいつもの帰り道を一人歩いていると電信柱の横にいた人に目がいった。
福乃瀬 四葉だ。
目があってしまい俺は咄嗟に恥ずかしさで目を背けた。
馬鹿!失礼だろ俺!あぁ…絶対嫌われた。
「覚えて…ない?」
「…え?どこかでお会いしたこと…」
「せっちゃん」
俺の心がパニックになりそうな程の破壊力の笑顔で昔のあだ名を呼んできた彼女
もしかして…
「よっ…ちゃん…?」