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精霊祭

一行が村に戻ると、昨日よりも人が多く集まり、村人以外の見物客の姿も増えているようだった。

儀式が行われる祭壇まで新緑色の提灯が取り付けられていた。

屋台では飲食物の他に、木の枝で作られた笛やお面などもあった。

「やあ、お子さんにお一ついかがですかな?」

「お子さんって…俺はもうガキじゃないんだけど!」

「そういうとこじゃよタブルス君。まあ、一つ買ってやるかの」

さっきまで怒っていたはずなのにお面を付けると、タブルスは機嫌を取り直した。

「そういえば、精霊祭というのはどういうお祭りなのじゃ?」

ザミアは屋台の店主に代金を支払いながら聞いた。

「あんたら知らんのかね? 精霊祭っていうのはな、年に一度、この豊かな森と水源を守る精霊様へと感謝し、平穏な一年を迎えられるように祈願するんだよ」

「ほお。盛大な祭儀なのじゃな」

「そうだな。今年はあの少年だったか…」

「ん? 神子さんのことかね?」

「…いや、まあ、楽しんでいきな!」

屋台の店主はそう言うと、忙しそうに呼び込みを続けた。

「何か引っかかる言い方でしたね」

リスイアは腑に落ちない気がした。

「ふむ。何か訳ありみたいじゃのう。二人とも、祭儀が始まるのは陽が落ちてからじゃそうだ。それまで手分けして祭儀のこととイディアペリスのことを探って欲しい。また宿で落ち合おう。では、宜しく頼んだぞ」

「ほーい」

「了解しました」


二人と別れたリスイアは、祭儀が行われるという祭壇の近くに向かった。

村の役人や供え物の準備をする侍女たちが、忙しなく動き回っている。

供物や花々が次々と供えられ、中央には長めの台座があった。

秘密があるとすれば、村の関係者はおそらく他言しないように厳重に警戒しているだろう。

それならば…。


大通りに面した村の酒場にリスイアは向かった。

酒を飲み交わしながら談笑する人たち。

ここなら気の緩んだ人から話が聞けるかもしれない。

辺りをざっと見回すと、一般人の他にホビットなんかも混ざっていて、いろんな種族の人たちが飲み明かしているようだった。

リスイアはなんとか空いてる席を見つけて、飲み物を注文した。

多種族が集まっていて気にする人はいないだろうが、目立たないようにフードは被ったままにした。


たわいもないことで皆、楽しそうに笑いあっている。

その中で、あるグループの会話が耳に飛び込んできた。

「でさー、結局この祭りって何なの?」

「屋台の親父が言ってたろ。豊穣と平和の祈願だってよ」

「だけど実はな、それだけじゃねーんだよ」

「えっ? なになに??」

リスイアも聞き逃さないように注意深く聞き耳を立てている。

「あんまり大きな声じゃ言えないけどな、この村で色素を持って生まれた子を生け贄として捧げるらしいぜ」

「マジで!?」

「夜、湖のほとりに漂う光はな、この世に未練を残したその子たちの魂だって噂だぜ」

「うわー、ホラーじゃん、それ」

そのグループの人たちは笑い合い、リスイアは絶句していた。

この村でも僕らのようなイディアペリスが誕生し、幼くして命を失っている。

それはどれほどの悲しみだろうか。

他と違うと迫害され、やりたいことも叶わず命を奪われる。

精霊様が本当にそれを所望するというのだろうか。

リスイアは何故だか怒りと悔しさが込み上げて震えた。


急いで宿に戻ると、タブルスがベッドに寝っ転がっていた。

「タブルス! ザミアさんは??」

「おう、どうしたリスイア。何か分かったのか?」

タブルスは起き上がり、切迫した様子のリスイアに尋ねた。

「うん! 急いでザミアさんと相談したいことがあるんだ!」

そう話しているうちにザミアも戻ってきた。

「おお、戻っておったか」

「ザミアさん! 大変です!」

「ん??」


リスイアはさっき酒場で聞いた話を二人に話した。

「なんと…やはりのう…」

「ザミアさんも何か聞いたんですか?!」

「まあ、落ち着くんじゃリスイア。この村にもイディアペリスがいるという情報は確かに仕入れておった。だが、見掛けたものを捕まえることができんでのう。なるほど、そういうわけであったか」

「俺たちと同じくらいの子たちが、毎年選ばれて殺されていくなんて、やるせないな」

「うん…ねえ、ザミアさん。その子を救うことは出来ないのかな?」

ザミアは困った顔で悩んでいた。

「そうじゃのう…これは由々しき問題じゃ」

「なんでいつも僕らのような子ばかり、こんな目に合うんだろう…」

「全く、どこも一緒だな」

タブルスもやれやれといった表情だった。

目を瞑り考えていたザミアが、ゆっくりと目を開いた。

「二人ともよく聞くのじゃ。上手く行かない場合は覚悟せねばならぬぞ? それでもその者を救いたいか?」

「うん。僕はやるよ!」

「まあ、リスイアがそう言うんなら俺もやるぜ。救える命があるなら、救わなきゃな」

「ホッホ。よくぞ言ったの。儂の目はまだ耄碌(もうろく)しておらんかったようじゃわい」

「ま、やってみるっきゃないな」

三人は何故か面白くなって笑った。

「んーゴホン。それでは、作戦会議を始めるとするかの」

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