受け継がれる意志
あの壮絶な戦いが終わってから五年の月日が流れ、世界には平和が訪れていた。
乾燥地帯だった場所にも草原が広がり、少しずつ緑の息吹が感じられていた。
長い旅を終えたリスイアは、山間の小さな町に移り住んでいた。
一匹の猫が顔を出した箱を持った少女が、町外れの一軒家に入っていく。
「お父さーん、見て! この子お外にいたの」
「おや? 拾ってきたのかい、リアノ」
「ねえ、飼ってもいいでしょ? お父さん!」
「んー、そうだなあ。お母さんが良いって言ったらね」
「ねえねえ、お母さん。良いでしょ?」
「もう、しょうがないわねー。ちゃんと貴女が世話してあげるのよ?」
「やったー!! 今日からこの子も私たちの家族よ!」
リアノと呼ばれた少女は、嬉しそうに飛び跳ねながら、猫を連れて自分の部屋に向かった。
「嬉しそうだね、リアノ」
「まあ、一人っ子だしね。良いんじゃない? 賑やかになって」
「リオ。明日はみんな来れるかな?」
「さあ、どうかしらね? リスイアも夜更かししないで早く寝ないと、遅れちゃうわよ?」
「ああ…」
リスイアとリオはみんなと別れた後、一緒に暮らすことになった。
その後すぐに教会に預けられた赤ん坊を、二人は引き取って育てることにした。
その子がリアノと呼ばれた少女だ。
リスイアがリアノの部屋をノックすると返事はなく、リアノは猫と一緒にスヤスヤと眠っていた。
「フフッ。なんだかもう姉妹みたいだな」
リアノの頭を少し撫で、リスイアは起こさないようにそっと部屋を出た。
少し霧がかった朝、リスイアとリオ、そしてリアノは一緒に外へと出掛けた。
リアノを真ん中にして手を繋いで歩くと、まるで本当の家族のようだった。
リスイアは嬉しい反面、リオに対して申し訳なく感じることもあった。
自分は誰かとこうして一緒に、家族になれるなんて思っていなかった。
リスイアの体は、生殖器が無く子どもが作れない体だったのだ。
一緒に暮らす話をした時、言いづらかったがリオに告白した。
「あ、そうだったの? 私は別に気にしないわよ。リスイアはリスイアでしょ?」
「うん、まあ、それはそうなんだけどさ。…だけど本当にいいの? 普通の男性と結婚して、子ども産みたいとかないの?」
「あのね、リスイア。私の幸せを勝手に決め付けないでくれる? 私はね、リスイアがいいの! リスイアといるのが私の幸せなのよ!」
「…リオ」
そんなこんなでリオと暮らし始め、家族が増えていった。
「なんだか幸せだな…」
「どうしたのよ、急に?」
「お父さん、誰に会うの?」
感慨に耽っていると、リオに怪訝な顔をされ、不意にリアノに話しかけられた。
「ん? ああ。お父さんとお母さんが昔、一緒に旅をした仲間たちだよ」
「お父さんとお母さんが? いいなー。私も旅したいなー」
「良い子にしてたらね。そういえば、猫ちゃんに名前をつけたの?」
「んー、まだ考え中」
「リアノがお母さんなんだから、良い名前つけてあげてね」
「分かってるわよー。ねえ、お父さんも一緒に考えて!」
「はいはい。おっ、ここだ。着いたぞ」
リスイアたち親子は、あの教会の前に立っていた。
リアノを引き取り、そしてリスイアが預けられた場所だ。
ここにいた神官様はもういない。
役目は終わったと告げ、リオに後を任せたのだった。
「ここ?」
「そうだよ。さあ、入ろうか」
リスイアは教会の扉を開けた。中にはまだ誰も来ていないようだった。
「綺麗な場所ね!」
リアノは辺りを眺めながら、奥の十字架の前まで行った。
「さあリアノ、ここでお祈りしましょう」
「うん!」
リオの真似をするように、リアノもリスイアも目を瞑って祈りを捧げた。
「よお、リスイア! 元気だったか?」
そう声を掛けて入ってきたのはタブルスだった。身長が伸びて男らしくなっていた。
「タブルス! 元気そうだね!」
リスイアとタブルスは、久しぶりに会えた友と抱擁した。
「ちょっと! 置いてかないでって言ったでしょ! もうっ」
「カナン!」
後から入ってきたのはカナンだ。少し大人になったように見えたが、中身は相変わらずだった。
そして、カナンの後ろには小さな男の子がいた。
「元気だった? カナン。…あら、その子は?」
「リオー! やだ、何年ぶりかしらね? さあ、ご挨拶なさい。ミアザ」
「こんにちは!」
「あら、こんにちは! ねえ、なかなかのイケメン君じゃない?」
「そうでしょ? なんせ私の子だからねっ」
「俺の息子だからだな! な、リスイア。俺にそっくりだろ?」
タブルスは息子の藍色の髪をグシャグシャにしながら、自慢気に言った。
「止めろよ親父! セットが乱れる!」
「なんだと、父親に向かって! ちょっと表へ出ろ!」
「もう、タブルス! 止めなさいよー」
「今のうちに厳しく教育してやらなきゃな! 来い!」
「望むところだ!」
タブルスとミアザ少年は、そう言うと外へと出て行った。
「大丈夫なの? あれ」
「まあ、いつものことよ。中身は全然成長してないんだから…」
「あの子の名前、もしかして…」
「そう。師匠から頂いたの。それに、どことなく似てる気がしない?」
「そうかな?」
「まあ私たちの子だからかもしれないけど、あの髪、ザミアさんも若い頃は綺麗な藍色だったって言ってたでしょ?」
「ああ…」
「もうそろそろ、終わったかしら?」
リスイアたちは様子を伺いに教会の外へと出た。
「フハハハハッ! どうだ! 父の強さを思い知ったか?」
「くそー! 子ども相手に、もっと手加減しろよな!」
タブルスとミアザ少年は、木の枝で戦っていたようだが、ミアザの方が汚れが目立っていた。
「バカだな! どんな時も相手に対して敬意を払い、全力を尽くすのが礼儀ってもんだろうが!」
「そんなこと、誰に教わったんだよ!」
「父さんの師匠だ!」
「あっそ。じゃあ、油断するなって教わらなかった?」
「あん?」
ミアザは話しながらタブルスに近付き、どこからか静電気を起こしてタブルスに触れた。
「ッうわ! 痛たたたっ」
タブルスの体に一瞬、電流が走ったようだ。
「ほらね、似てるでしょ?」
「そう…かもね」
その様子を見ていたカナンは、今度は自分が雷を落として父と息子を反省させていた。
「おーい! リスイアー!!」
「皆さん、遅くなって申し訳ありません!」
そして最後に、アビイとレヴィオもやってきて仲間が全員揃った。
みんなは教会に入り、この平和が永遠に続くようにと祈りを捧げた。
「さあ、行きましょうか」
「うん!」
陽が落ちてきた頃、リスイア親子は再会を約束し、別れの挨拶をした。
家に着くと、リアノは猫を抱き締めながら嬉しそうに眠った。
リスイアとリオは、その姿を見守っていた。
「ふー。やっと寝てくれたか」
「よっぽど嬉しかったのね、この子」
リスイアがリアノの髪に触れる。
「ねえ、リオ。この子は、もしかしてさ…」
「フフッ。この子はね、私たちの子どもよ」
「そうだね。ありがとう、リオ。僕とこの子を、受け入れてくれて」
「いいのよ。私が貴方とこの子を選んだんだもの。あの人の代わりに、たくさん愛してあげて」
「ああ」
リスイアとリオは口付けを交わした。
そして、真っ白な雪のように美しい髪を持つ少女の額にも。
先人たちのお陰でこの幸せな日々が成り立っている。それを忘れずに、いつも祈ろう。
そして、生まれてくる子どもたちに意志を継いで、永く永く平和な日々が続くように。




