謎の猛獣
フィメンスから川を渡って南西へと下ると、太陽神オリヘスの遺跡群に辿り着いた。
噂ではここにある王家の墓に太陽の剣があるらしい。
ザミアが連れてきた兵士たちはここで待機し、何か問題があれば助けに来るということだった。
「ねえ、中まで兵士さんたち付いてきてくれないの?」
カナンが心細そうにザミアに尋ねる。
「ああ。中はそんなに広くないしのう。儂が入れば大丈夫じゃろうて」
「俺だってザミアさんに修行つけてもらってるし、問題ないって」
「いやー、不安だなー」
「ああ、そうかよ! なんか出ても助けてやらねーぞ?」
「ごめんってタブルス! 私だけは守りなさいよ!」
「あーあ、またやってるよー」
カナンとタブルスの痴話喧嘩はすでに日常茶飯事になっていた。
「すまんが、ちょっと行ってくるから宜しくのう」
「はい! 司令官!」
リスイアたちは王家の墓がある三角形の建物に入って行った。
松明を手に先頭を歩くザミア、そしてタブルス、カナン、アビイ、リスイア、リオ、最後にレヴィオと一列になって狭い通路を進んでいく。
「どんな罠があるか分からんからのう、皆、用心して勝手に物に触れぬようにするのじゃぞ」
「はい!」
一行は薄暗い道を前の人を見失わないように慎重に付いていく。
バサバサッっと羽音がして、暗闇から何かが飛んできた。
「キャー!!」
「ただのコウモリじゃ。皆、大丈夫か?」
「は、はい!」
「よし、では行くぞい」
ザミアは周りに注意を払いながら慎重に歩を進める。
タブルスの背中にはカナンがしっかりとくっ付いている。
アビイは怖がるどころか二人のイチャつき具合が気になってしょうがないようだ。
「カナンさん、こんなとこでイチャつかないでもらえます?」
「だって、怖いんだもん。しょうがないでしょ!」
「おい、こんな狭いとこで暴れんなよ!」
「お主ら、もうちょい緊張感持って歩かんかい!」
「はい…」
そんなこんなしているうちに、リスイアはふと足下に感覚がなくなった。
「え?」
「ちょっと!」
「うわっ、落ちるー!!!」
突然、リスイアから後方の床が開いた。
「え?! リ、リスイアー!!!」
アビイが手を伸ばすも届かなく、リスイア、リオ、レヴィオは闇に落ちて行ってしまった。
「え? 何が起きたの??」
「おい! どうした、アビイ!」
「リスイアたちが…穴に落ちちゃった…」
穴はすでに消えてしまっていた。
「む! 儂としたことが…これでは前に進むしかないのう。とにかく今は無事を祈り進むぞ」
「もう、最悪ー!!」
「クソッ! リスイア…無事でいろよ」
一方、穴に落ちた三人は、滑り台をぐるぐると回るように滑っていき、突如現れた開けた空間に放り出されていた。
「アテテテテッ。なんだったんだ、一体。…ここは?」
「んもう! 服が台無しなんだけど!」
「うっ! なんですか、ここの嫌な空気は…」
リスイアとリオとレヴィオの三人は、とりあえず無事のようだった。
辺りは当然真っ暗で、ここが今どの辺りなのかも検討が付かなかった。
「どうする? リスイア?」
「とりあえず、何か光が欲しいところですね」
「あ、ちょっと待って」
リスイアは松明代わりになりそうな木がないか辺りを探した。
「あ、この木ならいいかな」
リスイアは木を持ち、神経を集中させた。
すると、木の先の方に火が点った。
「すごい! リスイア、いつそんなこと覚えたの?」
「ザミアさんとタブルスに修行つけて貰ったんだ。僕には火の適性があるんだって。まだちょっとしか出来ないけどね」
「素晴らしい能力です!」
「とにかく、周り照らして様子を見てから行こうか」
「うん!」
リスイアは火を照らして辺りを探った。
辺りは広い空洞になっていて、奥の方に何か盛り上がっている物があった。
「ちょっと進んでみよう」
三人は固まってゆっくりと歩いて行く。
段々と盛り上がっている物の正体が現れた。
「!! キャー!!!!」
「ヤバいな、これは…」
「なんて数だ…」
山のようになっていたのは、人や動物の骨のようだった。
「ここに落ちた人は皆、こうなるってこと?」
「冗談じゃないよっ」
「私もここでは死ねません!」
異臭の原因も分かったところで、ここから出る方法を探さねば。
「…あのさ、ちょっと気付いちゃったんだけどさ、誰がこんなに死体を積んだのかしら?」
「これは…アレだね」
「もしかして、ですが…もしかしますかね?」
そんな話をしていると、何やら赤い光が二つ、キランッと光った。
「グオオオオーッ!!」
闇の奥の大きな何かが叫び声をあげた。
「リスイアー!! どうすんのよ!」
「餌にはされたくないね」
「これは戦うしかないようですね」
三人は戦闘体制を整えて身構えた。
細長い体と短い手足、少し鼻が尖っていて、丸い耳とつぶらな瞳が意外にキュートだ。
ゆっくりと近づいてくる大きな獣、その正体はなんと、大イタチだった!
「デ、デカイ!」
「けど、なんかよく見ると可愛いわね」
「私たちを食べようとしてるのでしょうか?」
「うーん…」
リスイアたちの前に現れた猛獣は、確かに大きいがあまりに可愛い顔で小首を傾げてこちらを見ている。
「お手!」
「え? リスイア??」
リスイアがそう叫ぶと、大きな手をちょこんとリスイアの手に乗せた。
「はっ?」
レヴィオもリオも驚いて口をあんぐり開けている。
「あ、そうだ! これあげるよ」
リスイアは鞄の中からがさごそと何やら探して取り出した。
フィメンスで貰ってきた骨つき肉だった。
大イタチは喜んで食べている。
「お腹空いてたみたいだね。食糧持ってきてよかったー」
「ちょっと、大丈夫なの? そんなんじゃ足りないんじゃない?」
リオがペロッと平らげた猛獣を見て心配する。
「まぁね。小さい時にここに来て、大きくなって出られなくなっちゃったみたいだよ」
「なるほど! リスイアさんも動物たちの心が分かるのでしたね!」
「アビイほどじゃないけど、なんとなくね」
「それで、どうするのよ?」
「うーん。とりあえず、みんなで脱出できないか考えてみようよ」
「その子、連れていく気??」
「だってここに居ても可哀想でしょ」
「アンタってホントにお人好しなのね」
「まあ、襲う心配がないならいいのではないですか」
リオはつぶらな瞳の猛獣をじっと見ると、リスイアに撫でられて喜んでいた。
「はいはい。リスイア、ちゃんと大人しくさせなさいよ?」
「うん。大丈夫だよ」
こうして三人と一匹の猛獣は、この迷宮攻略に挑んで行くのだった。




