満月に浮かぶ島
陽が落ちてから数時間、深い霧を払い、渦潮と岩礁の海流を抜け、リスイアたちを乗せた海賊船は、人魚インセーレの案内で宝が眠る島を目指して進んでいた。
「ちょっと、ここで待っててー」
人魚は手を振って声を掛けると、深く潜って行った。
「なんか、拍子抜けしちゃうくらいフランクね」
「ああ、いざ現実にあんなの見ると、意外と受け入れちゃうもんだな」
「しかし、満月に浮上してくる島とはどんな島なんでしょうか」
「楽しみだねー」
カナン、タブルス、レヴィオ、アビイがそれぞれ思いを口にする。
「ん? あれ、なんか海が盛り上がってきてない?」
リスイアが不思議そうに船首のほうの海面を見ている。
「え…ホントだわ!」
リオも口を抑えながら驚いていた。
そのせり上がりが徐々に高くなっていき、山のようになったところで急に島が現れた。
「お、おい!! し…島だー!!」
「おいおい、マジかよっ!!」
「なんで島が浮いてくるの…って、えー!!!!!」
「か…亀?!!!!」
なんと、その島の下には、亀らしき頭が付いていて、大きな垂れ目の瞳でこちらを見ていた。
「はーい! ご紹介しまーす! こちらが海亀の長ケロンドピアスのケロちゃんよ」
水面から出てきた人魚は、明るく紹介してくれた。
「う、海亀ー!!!」
「ってか、ケロちゃんって…」
一同はいろんな情報が同時に入り、混乱していた。
「そう。このケロちゃんはねー、トランティアスの島の一部を背に乗せて数千年? 生きてるらしいよー」
「数千年!!!」
皆、驚くばかりだ。
「そうか…それなら納得が行ったわい。ところで、その島で探索して宝など頂いてもいいのかのう」
「この島の神殿の宝は、神に仕える者に託されたものなのよー。だから私たちは、欲深い人間たちから守ってきたの。なんだけど、そこの神の子にならあげてもいいってケロちゃんが言ってるよ」
「おお、それは誠か!!」
「ありがとうございます、えっと、ケロンドピアス様」
「グオオーーーン!!」
「よかったね、リスイア! 海亀さんも認めてくれたみたいだよ!」
アビイがそういうと、みんなは喜び、早速上陸の準備を始めた。
リスイアたち一行は、海賊たち数人を含めて小舟を出して上陸した。
数千年前の遺跡があちこちに残っており、海に沈んだためか海藻や藻が付いていた。
逃げ遅れた魚やヒトデや貝なんかも石畳に付いている。
「これは…歴史的な大発見かもしれんのう」
「本来なら海底に沈んで調査できないものだしな」
一行は神殿があったとされる島の頂上へと向かう。
石段を登って行くと、段々と島の全貌が明らかになってきた。
海亀の丸い甲羅の上に、この神殿を中心とした遺跡が残っている。
推測すると、トランティアスの島の中心部のようだった。
この神殿に眠る伝説の盾を、この海亀が守ってきたのだろう。
「ふう、結構登ったなあ」
「おい、お宝はまだかよ??」
「む…あれを見るのじゃ!」
石段の頂上に門のような建造物が見えた。
その奥には、重厚な作りの建物がある。
「これが神殿…」
一行は足を止めて見上げてから、奥へと進んで行った。
建物の中に入ると、少し生臭い匂いがする。海水が少し溜まっているところもあった。
そして、奥へと進んでいくと、大きな扉が現れた。
「もしかして、この奥にあるのかな?」
「だけどさ、この扉、どうやって開けるんだろ?」
「とりあえず押してみるか」
皆は力を合わせて押し開こうとした。
「もう一回だ! せーの…」
十数人で何度押しても扉はビクともしなかった。
「他に部屋とかは見当たらないしな…」
「クソッ! ここまで来てお手上げかよ!」
「…ねえ、この窪みの形、どっかで見たことない?」
「ん?」
海賊たちが項垂れていた時、カナンが扉の中央にある窪みに気が付いた。
「これは、おい! リスイア、首飾り!!」
タブルスが何かに気付いたようだ。リスイアは首飾りを取り出す。
「ここに嵌めてみろよ!」
「うん…」
リスイアは言われた通りに首飾りを扉の窪みに嵌めた。
すると、扉が光を放ち、重々しい石造りの扉が観音開きに開き始めた。
「おおっ! やったぞ!!」
天井から差し込む光が、部屋の奥の台座に在るものを照らしていた。
そこにあったのは、円形の盾、そして宝箱からはみ出るほどの金銀財宝だった。
「あれが、伝説のキレアスの盾か」
「スゲーな! ウッヒョー!! 宝の山だぜ!!」
海賊たちは宝の山に一目散で突っ込み、手に取って喜び叫んだ。
「リスイア、ほれ」
「はい!」
リスイアが盾を手にする。
数千年の時を感じさせない程の光沢と光を放っていた。
「やっと手に入れられたわね」
「やったな、リスイア!」
「皆の力のおかげだよ」
リスイアたちはみんなで喜び讃え合っていた。
「さあてと、ここまで道案内、ご苦労さん」
海賊の船長の表情が一変した。
「なんじゃお主ら…もしや…最初から宝を横取りするつもりじゃったのか」
「だってよう、こんなスゲー宝の山だぜ! 海賊だったら奪って当然だろ!」
「戯けたことを…」
「じゃあ、宝は遠慮なく貰ってくぜ!」
海賊たちは剣をこちらに構えながら、持てるだけの宝を袋に詰めて出て行った。
「クソッ! あいつらめ…」
「まあ、予想はしておったがのう」
「どうするの? ザミアさん。あいつら船で逃げて行っちゃうよ?」
悔しがるタブルス、アビイが不安そうにザミアに尋ねる。
「まあ、罪深き者には天罰が下るじゃろう」
ザミアは海賊たちが出て行った方角を厳しい目で睨んだ。
海賊たちは喜び笑い合いながら、宝石を抱えて船に戻っていた。
「こりゃ、スゲーぜ! 当分の間、遊んで暮らせるな!」
「ヤッホーい!」
「よし! 野郎ども、宝は頂いたからズラかるぜ!」
「おおー!!!」
海賊たちは碇を上げて出航した。
ザミアたちは島の先端の海が見える場所に立っていた。
「ねえ、あいつら船出して行っちゃったわよ?」
人魚インセーレが心配そうにザミアたちに言う。
「少しお灸を据えてやらんといかんのう…」
ザミアは何やら意識を集中し始めた。
辺りが急に暗くなって雲に覆われ始めた。
「どうしたの?? なんか急に暗くなってきたわよ?」
インセーレが不思議そうに尋ねる。そしてすぐに真っ黒な雷雲が海賊船を覆った。
「船長ー! いきなり怪しい雲が出てきやしたぜ?」
「あん? 雲だって??」
すると、ゴロゴロと音がしていた雲から稲光が走った。
ズドーーーーーン!!!!
「うわあああっ!!!」
重たい刃が刺さったような音がして、海賊船に稲光が突き刺さった。
そして海賊船から炎が上がって燃え始め、海賊たちは慌てて小舟を出して逃げて行った。
「ちょっと、なにそれ! 今の、アンタがやったの??」
インセーレが海賊船とザミアのほうを見て驚いていた。
「ホッホ。これで少しは懲りたじゃろう」
「さすがだな、師匠!!」
「だけどさ、船がないとみんな戻れないよ?」
「そうだね、この島に船なんてないよな…」
みんなはどうしようかと相談し始めた。
「あのさ、私たち別に暇だし連れて行ってあげようか? どっか行きたいところ」
みんなはインセーレのほうをじーっと見つめた。
「え? いいの?」
「うん。ケロちゃんもみんなの力になりたいってさ」
「マジかよ?!」
「それは助かるわい」
人魚の意外な提案に一同は大喜びし、是非お願いすることにしたのだった。




