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幻影の歌声

危険な船旅には色々な準備が必要となる。

腕の立ちそうな海賊を雇うために、ザミアは海賊船を回っていた。

「あの海に出るって? おい、バカのこと言うなよ!」

「そうか。宝を見つけたら、報酬として五割は出そうと思っとったがのう。残念じゃ。では、他を当たるとしようかのう…」

「ちょっと待てよ、じいさん! まあ、危険手当含めて六割くれるってんだったら、行ってやってもいいぜ?」

「んーどうしようかのう…」

「俺たちはよ、大波や大嵐の中、何度も乗り越えてきた屈強な海の戦士だぜ? ま、大船に乗ったつもりで任せてくれよ!」

「そうか? そこまで言うなら安心して任せようかの」

「ようし、決まりだ!」

(思ったより安く済んだわい)

三日後に出航すると告げ、ザミアは海賊の船長と交渉成立させた。


リスイアたちは船旅に必要な食料や酔い止めの薬などを買いに行った。

「僕、船に乗るの初めてなんだよね」

「海なんて行ったことねえもんな」

「これだけで大丈夫かしら?」

「まあ、なにかあってもザミアさんがいるしね」

「ちょっと、なにもいないってば!!」

リスイアとタブルス、アビイとカナンは荷物を持ちながら並んで歩いている。

「あ、ちょっと私、買いたいものがあったの! 先に行ってて」

「えっ、カナンさん??」

カナンはそう言うと町外れの方へと走って行った。

「まったく、単独行動するなって言われたのに…お前ら、先に行っててくれ」

タブルスはカナンを仕方なく追いかけて行った。

「カナンもタブルスも、どうしちゃったんだろうね」

「さあ。リスイア、先に行こうよ」

「うん」


いよいよ出航の当日となった。

なにが起こるか分からない船旅の為、準備を各自で十分に整え最終確認を行う。

天候は曇り。これから晴れるかどうかは運次第というところだ。

「おめえら、準備はいいかー!」

「オオー!!」

「碇を上げろ! 出航だー!!」

海賊たちはキビキビと船長に従って動いている。

「凄いね!」

「いよいよじゃな」

ザミアたちは甲板の上で出航の様子を見ていた。

ゆっくりと港から離れ出していく。海鳥たちが何羽か一緒についてくる。

気をつけて、と言ってるようにリスイアは感じた。

不安と期待が入り交じったような不思議な感覚で、リスイアは船の先を見つめていた。


昼過ぎに港を出てから日没になり、航海は順調に進んでいた。

「今夜は満月だな」

「本当にあんのかねー、宝の島なんてよー」

海賊たちの中には出発したはいいものの、未だに信じられない者がいた。

「なんじゃお前さんら。信じておらんのか?」

「俺はよう、目の前に見えるものしか信じられないタチなんでな」

「そうだぜ、なあ?」

「そうか。では今日は、伝説の怪物を拝めるかもしれんのう。ホッホッホ」

「そ、そんなもんなんか、いねえよっ!」

ザミアは海賊相手に余裕で楽しんでいた。


「ねえ、タブルス見てよー! 水平線に陽が落ちるの綺麗じゃない?」

「ああ。そうだな」

「なに、その生返事は」

「これから何が起こるか分からないんだぞ? 緊張感ってもんがねーのかよっ」

「えー。せっかくこんなとこまできたんだからさ、楽しんだっていいじゃない。ねー、リスイア?」

武器の準備をしていたタブルスの横でカナンが海を見ながら、またいつものように口喧嘩をしていた。

ちょうど近くにいたリスイアにカナンが話しかけてきた。

「そうだね。こんな景色、ここじゃないと見られないしね」

「おい、リスイア、お前まで呑気にしてていいのかよ?」

「わっ! ねえ、リスイア! 今、あそこで魚が飛んだよ!」

「えっ?! どこどこ??」

「あっ、あそこよ! えー、すごい、すごいっ」

アビイが魚を指差すと、リスイアとカナンは一緒になって(はしゃ)いでいる。

「まったく、お前らは…」

タブルスは一人で呆れ顔だった。


すっかり辺りが暗くなると、雲の隙間から薄っすらと光る満月が昇っていくところだった。

「さあて、いよいよじゃな…」

海賊船の物見櫓(ものみやぐら)にはリオが立って周囲を観察していた。

進路は西で、もうすぐ噂の海域に入っていく。

満月が水面に美しく映り、幻想的で静かな夜だった。


ザミアと船長は、船長の部屋で作戦会議を行っていた。

「噂によるとじゃな、この海域のどこかで霧に囲まれ、不思議な歌声が聞こえてくると言うことじゃった。そこから引き返さねば、海が荒れたり怪物が出たり、襲われたりなどと言うておったが…」

「つまりは、その先が臭えってわけなんだな?」

「宝の島があるとすればそうじゃろうと、儂らは考えておる」

「なるほどな…。念の為、腕の立つ野郎どもを準備しているから、まあ心配すんなって」

「うむ。あの子らなら大丈夫だと思うが、命の危険を感じたなら、すぐに退却命令を出して頂きたい」

「わかった。宝も欲しいが、命あってのものだしな」

「ああ。宜しく頼む」

ザミアたちが打ち合わせを終えると、甲板の方が騒がしくなってきた。

「おい、どうした!」

「船長! 霧が出てきました!!」

「これは…噂通りじゃな」

船長とザミアが甲板に出ると、霧が立ち込めてきて、船員たちが忙しなく動いていた。

「野郎ども! ここからが本番だぞ! 気合い入れて準備しろ!!」

「おおー!」


リスイアたちも不穏な雰囲気を感じ、甲板の中央に集まってきていた。

「さっきまでは、あんなに晴れていたのにね」

「だけどこれ、町の人の言った通りじゃない?」

「そうすると、そろそろ…だよね?」

「ちょっと! アビイったら、脅かさないでよっ!」

みんなはジワジワと迫り来る恐怖に身を固まらせて、周囲を警戒している。

「…おい」

カナンの肩に手が置かれ、ボソッと人の声が聞こえた。

「キャー!!!! 来ないでー!! 悪霊、退散っ!!」

カナンはどこから取り出したのか、お祓いグッズを振り回していた。

「ちげーって!! 今なんか、聞こえなかったか??」

カナンに声をかけたタブルスが、辺りをキョロキョロと見回しながら尋ねた。

「なんだ、タブルスかー…ちょっと、驚かさないでよ、もうっ」

「そんなお祓いグッズ、どっから出してきたんだよ?」

「あのー、それより…」

「なんだ、レヴィオ? 今、こいつと話してんだよ」

「いや、この声は…なんでしょうか?」

「ん?」


どこからか聞いたことのない音色が聞こえる。

そして、女性の歌声と重なりあい、穏やかで悲しげな歌となって響き渡る。

「…立ち去りなさい。立ち去らねば、海の藻屑となるでしょう」

女性の笑い声と流れるような音色に混ざって、確かに立ち去れと聞こえた。

「おい、なんか立ち去れって言われてるみたいだけど」

「宣戦布告ってやつじゃないか?」

「ねえ、どうすんのよ、これ」

リスイアたちと海賊たちもみんな戸惑っていた。

「進むぞ、野郎ども! 宝の島はこの先にある!!」

「皆、儂の側から離れるでないぞ!」

「はい!」

海賊船は、そのままゆっくりと進んで行った。

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