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色を持たぬ者

神官は迷いを吹っ切って皆へと語り始める。

「昔、この人里離れた教会には様々な人が訪れていました。罪を犯して懺悔しに来る者、神を崇拝して恩恵に預かろうとする者、また、事情があって子どもを置いていく者など…。そんな子どもたちの中にタブルスやリスイア、そしてあの子もいました」

「あの子…?」

「まずは最後まで聞こうぞ」

カナンが口を挟もうとしたが、ザミアが制した。神官はまた話を続ける。

「子どもたちには罪はありません。皆、仲間思いで大変素直な優しい子ばかりでした」

そこで神官は一呼吸置く。


「ただその中で周りに馴染めず、人と距離を置く子もいました。子どもたちで唯一タブルスとリスイアはその子に気付き、気にかけて親しくしていました。それはきっと、同じ悩みを持っていたからでしょう」

「…悩みって、もしかして…」

リオが何かを思いついたように言った。

「そうです。その三人は貴方方と同じ、イディアペリスでした」

「! なんと!!」

これはザミアも予想外のことだった。

「イディアペリスはその子の特質が色濃く反映されますが、彼は白い髪を持って生まれ、無垢で大変珍しい存在でした。それゆえ、周りの影響があの子を変えることとなってしまった…」

「生まれながらに色を持たぬ者とは…」

「その子は人には馴染めなかったが、小さな動物には心を開いていたようでした。ですがある時、事件が起きてしまったのです…」

皆の目がさらに真剣になり緊張が走る。

「その子が大事に面倒を見ていた子猫が、村の者に襲われてしまったのです…」

「!! なんでそんなことを…」

アビイが声を漏らした。

「それに最初に気付いたのは、リスイアとタブルスでした。二人は悲しみ、怒りをどこへぶつけていいのか堪えていたところ、あの子がやって来て、その状況に愕然としていました」

「許せないよね、そんなの…罪のない子猫をさ…」

カナンも共感して辛く感じているようだった。

「異質だったイディアペリスの子どもたちは、村人たちから忌み嫌われる存在でした。その嫌がらせがエスカレートした結果だったようです」

「弱き者を虐めるなんて、卑怯な…」

レヴィオも怒りが込み上げているようだ。

「その怒りがあの子を覚醒させたのです。あの子は目覚めた能力を村人への復讐の為に使いました」

「まさか、村人が消えたって言う噂って…」

カナンが想像していることは、皆も同じだった。

「…そうです。あの子の力でした。怒りに染まったあの子の髪は、村人たちへの憎しみによって闇に染まったそうです。それ以来、あの子はどこかへと消えてしまいました。もしかすると、タブルスやリスイアなら何か知っているかもしれませんが…」

「…」

皆、予想以上の悲劇に言葉を失っていた。

「私が知るのはここまでです。…すまない、リスイア。辛い話を聞かせてしまったね…」

神官も辛い表情のまま、リスイアを抱きしめた。

「いえ…話してくれて、ありがとうございました」

「今日は皆さんお疲れでしょう。狭いところですが、あちらの小屋でお休みください」

(かたじけ)い」

ザミアと皆は一礼し、外へと出て行った。


外に出るとタブルスが丸太の上に座り、一人で佇んでいた。

リスイアはタブルスの方へ向かい、ザミアや他の者たちは小屋へと移動した。

「タブルス…」

「話は終わったのか?」

「うん…」

「そうか、じゃあアイツのことも聞いたんだな」

「僕はまだはっきりと思い出せないからあんまり実感がないけど、前に夢で見た時、凄く辛くて悲しかったことだけは覚えてる」

「そうか…」

タブルスは赤く暮れゆく空を見ながら、ぼんやりと呟いた。


ザミアたちは一晩小屋に泊まらせてもらうこととなった。

タブルスやリスイアを中心に焚火を囲み、今日聞いた話をしていた。

「俺たちはアイツのこと、ノアって呼んでた」

タブルスが昔を思い返すように話し出す。

「ノアは真っ白な髪の大人しい奴でさ、いつも一人でみんなから離れてたんだ。まあ、みんなも分かると思うけど、俺やリスイアも他の子どもたちや村人から病気だの悪魔だの言われてたよ」

みんなは黙って聞いている。

「ノアって奴はさ、誰よりも思いやりがあって優しかったんだ。だけどアイツがキレた時、抑えきれないほどの怒りの力が暴発して誰にも止められなかった」

みんなは真剣な表情で、タブルスの話を黙って聞き続けている。

「それから俺とリスイアは、アイツを探す旅に出たんだ。そしてやっと見つけた。あのアダルナピスでな」

みんなは更に険しい表情になって耳を傾けている。

「アイツの憎悪は今、人間全てに向いている。もしかしたらこの世界全てを壊し尽くすかもしれない。俺とリスイアはなんとかアイツに会って止めようとしたが、途中で見つかって捕まったって訳さ」

「ふむ…それであの街にいたんじゃな?」

ザミアが確認するようにタブルスに言う。

「ああ。俺たちの力ではもうアイツを止めることは出来ないと思って、逃げ出そうとしたんだけど、リスイアと逸れちゃって…」

「そうだったんだね…」

リスイアは、やっと今までの自分の形跡を辿れて状況を理解した。

「俺はもっと強くなる。そしてアイツを止めてやりたいんだ! 俺たちはアイツの仲間だからな…」

皆もそれぞれ考えている。これから自分たちがどうするべきなのかと。

「僕もさ、その人の気持ちよく分かる気がするよ。でもだからこそ、止めてあげなくちゃ!」

アビイが立ち上がって皆に言う。

「そうですね。私たちは仲間ですものね!」

レヴィオも立ち上がって賛同する。

「うーん…正直さー、命賭けてまで戦うって言えないんだけど…。けどねー、なんかヤバい状況みたいだし、世界滅亡なんて、私の楽しい人生台無しにされたくないしなー。まーみんなでやれば、なんとかなるっしょ!」

カナンもなんだかんだと言いながら立ち上がった。

「私がここに来たのも皆に出会ったのも神様のお導きだしね。私も協力するわ!」

リオも立ち上がる。そして、ザミアは一度目を閉じてから口を開く。

「タブルスよ。其奴の名を教えてはくれぬか?」

「アイツの名は…ギュロンドノアス。アダルナピス国の支配者だ」

「やはりな…ならば、儂も行かねばならんのう」

「ザミアさん…」

「儂の故郷はの、水が枯れ、作物が育たなくなり、そしてアダルナピスの機械人間兵が争いを仕掛けてきて滅んだのじゃ。戦いは今尚続いているが、儂はこれ以上人々が苦しむ姿を見たくないのじゃ。それで儂は、この世界の腐敗と破滅を止める為、同士を集めてこの世界を変えようと行動しておった。その中でイディアペリスたちの噂を聞き、こうして皆と出会ったのじゃ」

「そう、だったんですね…」

リスイアは、ザミアと出会えた奇跡に感謝した。

「一人一人の力では、到底叶うはずないじゃろう。しかし、儂らにはまだ未知なる力があるはずじゃ。どうか、力を貸して欲しい。この淀んだ世界を儂らの手で、行動で、変えて行こうではないか!!」

「おおー!!!」

みんなは拳を突き上げて声を上げた。

なんと心強いことか。一人では出来ないことも、みんながいれば出来る気がしてくる。

「タブルス、やろうよ! きっと僕らなら出来るよ!!」

「…おう。そうだなっ。グスッ…。やってやるか!!」

「もうっ! 何泣いてんのよ、元気出しなさいよ!」

「泣いてなんかねえよっ! 汗が目に入っただけだ!」

「フフッ」

カナンに突っ込まれたタブルスが平静を保とうとしている姿は微笑ましく映った。

こうしてみんなの気持ちが一つになり、明るい笑い声が夜の空に響き渡った。

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