惑わせの霧
一行は目的地へ向かう途中、小さな村を見つけた。
村人は貧しそうな身なりで旅人らしき者は見かけなかった。
「ねえ、この村じゃないんだよね?」
「ああ。だけどもう近いはずなんだけどな」
カナンとタブルスが村の様子を見ながら話している。
村人を発見してザミアが声をかけた。
「ああ、ちょっとお尋ねしたい。ポスオリンという村はこの辺りか?」
「あの村へ行くのか? やめた方がいい」
「なぜじゃ?」
「普通のものなら入ることもできぬだろう」
「ん? どういうことじゃ?」
「忠告はしたからな」
村人は愛想もなくそのまま去って行った。
「一体どういうことなの?」
カナンが尋ねるが誰も解答できる者はいない。
「とにかく行くしかねえな」
タブルスも状況が掴めないようだ。
再び馬車を走らせ一行は北へと向かった。
段々と濃い霧が出て行く手を阻む。
前に進んでいるはずなのだがひたすら同じ道が続き、方向も分からなくなりそうだった。
「なんだろう…この違和感。進んでるはずなのに、何かに遮られているようだ」
「むう…この道は見覚えあるのう」
「タブルス、何か知らないの??」
リスイアやザミアが違和感を口にし始めた時、皆も同様に感じていた。
「うーん…そういや、うちの村には外から来た者は滅多にいなかったな。なんでだろうと不思議に思ってたけど」
「ねえ、それってもしかして、村の中に入れなかったからじゃない?」
リオがそんなことを発言した。
「村の人も言ってたよね。『普通のものなら入ることもできぬ』ってさ」
と、アビイも村人の話を付け加える。
「ということは…もしやこの濃い霧のせいで村の場所が特定できず、皆、辿り着けないのでは?」
皆の発言をまとめて、レヴィオが推測した。
「えー! じゃあ、どうするのよ!」
カナンが叫ぶように誰かに訴えた。
「ふむ…普通のものなら、か…」
「ザミアさん、何か考えでもあるの?」
リスイアが皆を代表して尋ねる。
「では皆に問うが、儂らの存在は普通だと思うかの?」
「…」
皆、黙り込む。
「まあ、どういう訳か儂らは特別な存在ばかりじゃ。何か解決策があるじゃろう」
「うーん…」
一旦、馬車を止めて皆で考えた。
「そういえばタブルスってさ、水を扱えるんだっけ?霧はダメなのかな?」
リスイアが考え込んでいたタブルスに尋ねる。
「うーん…ちょっと無理だろうなあ」
「そっか…んーとなると他には…」
「そういえばさ、レヴィオってどんな特技持ってるの?」
「はっ?」
リオが唐突に尋ねたので、レヴィオも意表を突かれたようだった。
「私ですか? 私は…まだ自分でもよく分かりませんが…」
「お前さ、前にリスイアを攫った時は、どうやって捕まえたんだっけ?」
タブルスが更にレヴィオに問い質す。
「あの時は特には…母上の花を見せていただけですよ」
「そういえば僕、あの時、甘い香りがして気が遠くなるような気がしたんだけど…」
「それじゃないの?」
カナンがポツリと突っ込む。
「えっ?」
「本人が覚えていないなら無意識かもしれないけどさ、何か魅了したり誘惑して誘い込むような能力を発したんじゃない?」
「おお、なるほどのう…」
ザミアも感心して納得する。
「だけどもしその能力を持ってたとしても、霧とは関係ないんじゃないのかな?」
アビイが考えながら異を唱えた。
「そうよね…」
カナンはいい考えだと思ったのにと落胆した。
「いや、ちょっと待て…」
ザミアが突然、何かを思いついたように言葉を発した。
「実はまだ研究段階のことなんじゃがの、イディアペリスの持つ特別な能力には、環境要因も影響を与えているようなのじゃ」
「…ってことはつまり??」
アビイが話の要点を促した。
「つまりじゃ、レヴィオの町は、雨や霧で覆われておった。ということはじゃ、レヴィオにはそれを操る能力がある可能性もあるということじゃな」
「マジか!?」
タブルス含めてその仮説に驚いていた。
「そ、そんなこと急に言われましても…」
「まあ、いきなりは無理じゃろうな。しかし、ここでこうしておっても先に進むことができないのじゃ。まずはレッツチャレンジじゃよっ」
ザミアはお茶目に親指を立て、頑張れと応援した。
「そうだよ、レヴィオ! やってみなよ」
「そうだな。これも自分の能力を引き出す修行だと思えばいいさ」
「応援します! レヴィオさん!」
リスイア、タブルス、アビイはそれぞれレヴィオに声をかけた。
「うむむむ…」
「まあ、そう固くなるでない。まずは深呼吸して、精神統一じゃ」
レヴィオはザミアに言われた通り、呼吸を整えて気持ちを落ち着かせる。
「イメージするのじゃ。この周囲の霧を集めてから、一斉に分散させるように」
「わ、分かりました」
レヴィオは馬車の前に立って集中する。
ザミアはレヴィオの横に立ち様子を見ながら、皆は固唾を吞んで馬車から見守っている。
すると、レヴィオの周りに紫色のオーラが集まってきた。
濃い霧が少しづつ集まり、少しづつ視界が開けてくる。
「もう少しじゃ!」
「むん…ハッ!!」
レヴィオが霧を散らそうとしたようだが、また視界が悪くなって元に戻ってしまった。
「す、すみません…」
「いや、最初にしてはなかなかじゃったぞ、レヴィオ。タブルスより全然筋が良いわい」
「そうですか??」
「フン! 俺だって、毎日修行してるんだからなっ」
タブルスが引き合いに出されて不機嫌になった。
「うーむ。しかし、もうちょっとなのじゃがのう…。あとは…」
ザミアは馬車の仲間たちのほうをチラッと見る。
「そうじゃ! アビイ、ちょっと降りてこい!」
「えっ、僕? あ、はい」
アビイは軽くジャンプして飛び降りてきた。
「お主の住んでいた森や湖で、そよぐ風を思い浮かべてみよ」
「…? はいっ」
アビイはとりあえず、ザミアの言う通りに行った。
アビイが集中すると、緑のオーラが風を巻き起こした。
「よし! そうじゃ、そのままじゃ! レヴィオ、さっきと同じように集中して霧を集めよ!」
「はい!」
二人は自分のオーラを高めていき、霧が見る見るうちにレヴィオの頭上へ吸い込まれていった。
「ようし! 良いか、ここからじゃ! 儂の合図でレヴィオは霧を解き放て! そして同時にアビイの風の力で霧を吹き飛ばすのじゃ!」
「「はい!!」」
二人の返事が重なった。
他の皆も何やら凄いことが起こりそうで、注目して様子を見ている。
「それでは、いいか? 三、二、一…放て!!」
「散りたまえー!!!」
「吹き飛ばせー!!!!」
二人の力が共鳴した。
すると、周囲に満ちていた濃霧が、暴風に巻かれて跡形も無く消失した。
「やった…」
「これが僕の力…」
それぞれが自分の力に驚いているようだった。
「うおー!! 霧がなくなったぞ!!」
「凄い!!」
「やるじゃない、アビイ!」
「二人とも、凄いわねっ」
馬車に残っていた者たちも飛び出して、アビイとレヴィオを祝福した。
「ホッホ。さすが儂。さすがは儂の弟子たちじゃわいっ」
ザミアも目を細めて讃えていた。
「さあ、タブルス、リスイア。いよいよじゃぞ」
「ああ」
「うん」
誰も外から踏み入れたことのない未開の地、ポスオリン。
遠い記憶に閉ざされている故郷は、一体どのような場所なのか。
ここにリスイアの失った記憶を取り戻す手がかりがあるのだろうか。
言い知れぬ不安と期待の中、リスイアたちは霧が晴れた奥へと進み始めた。




