神々の末裔
男女の両性を一つに備えた存在、それが我だ。
生まれながらにして完全体である我が、何故不完全な生き物に虐げられねばならぬのか。
この荒れた大地に増殖した不完全な生き物を、我は裁くために舞い降りたのだ。
ある世界の伝承によると、人には三つの種類があったという。
一つは男と男の結合体、もう一つは女と女の結合体、最後の一つは男と女の結合体である。
人は、四つの目と四つの手足を持ち、充足した存在だった。
彼らは天に歯向い、怒りに触れて真っ二つに切り裂かれてしまったという。
それ以来、失われた片割れを求め続けているという逸話だ。
人間とはなんと愚かな存在だろう。
だからこそ神は火を奪ったのだ。
火は良い使い方をすれば文明や技術を発展させ生活を向上させるが、使い方を誤れば武器を作り戦争の発端となるのだ。
今や我が正さねば、この世界は人間どもに滅ぼされてしまうだろう。
「ニャーオ」
膝の上で寝ていた白銀色の猫が、起き出して鳴いた。
「ああ、そろそろご飯の時間だったな」
考え事をしているとすぐ忘れてしまう。猫に餌を与えると、嬉しそうに黙々と食べ始めた。
この世界には不要な物ばかりだ。我が一掃しよう。そして、楽園を築くのだ。
「なあ、ミシアよ。我と共に理想郷を作ろうぞ」
「ニャー」
ミシアと呼ばれた猫が返事をする。ああ、なんて愛しい子だろうか。
我は決してあの日のことを忘れぬ。そう、あの時に我は誓ったのだ。
もう大切なものたちの血は流させないと…。
また新たな日が昇る。
陽の光の髪色を持つ子が遠くを見つめていた。
「おーい、リスイア! もう起きてたのか」
朝の修行を終えたタブルスが声をかける。
「おはよう、タブルス。なんか目が冴えちゃって」
「そっか。うーん…今日も良い朝だな〜」
「おっはよー! アンタたち朝早いわねー」
カナンも起きてきたようだ。
「おはよう」
「オッス!」
「朝食食べたら出発するってさ!」
「うん。じゃあ、行こっか」
「そだなっ」
「ちょっと、待ちなさいよー」
リスイアとタブルス、そしてカナンは宿に向かって駆け出した。
リスイアたち一行は、リオも加えて総勢七名となって旅立った。
「わー! 綺麗な馬ね。なんて名前なの?」
「ロフィスっていうんだ。僕らの仲間だよ」
「ヨロシクね、ロフィス」
リオに顔を撫でられロフィスも嬉しそうにしている。
「それでは、出発しますよ!」
「はーい!!」
レヴィオが手綱を引き、馬車は動き出した。
「ザミアさん、次はどこへ向かうの?」
リオがザミアに尋ねる。
「ここから遥か北の地にあると言われる村、ポスオリンじゃ」
「ポスオリン? 聞いたことないわね」
「俺とリスイアの故郷だった村さ」
「だった??」
「私は昔、酒場で少し噂を聞いたことがあるんだけど…まさかね」
リオとザミアの会話にタブルスとカナンが口を挟んだ。
「どんな噂なの?」
リオは気軽な口調で尋ねる。
カナンはタブルスとリスイアをチラッと見てから、遠慮がちに口を開いた。
「これはあくまで聞いた話だから真実かどうかは不明なんだけどね、遥か北の村に神々の末裔がひっそりと住んでいるっていう話でね。で、その村で、その…」
皆がその話に聞き耳をたてている。
「それで…?」
カナンが難しい表情をしたが、タブルスもザミアも止めに入らなかったので仕方なく続けた。
「ある時にね、事件が起こったらしいの。その村の住人がある日忽然といなくなったって」
「うええええー!! なにそれ!? 神隠しってやつ??」
「ホントに噂だからね! そんな村があるなんてことも怪しいし」
「…」
タブルスは何も語らなかった。そしてザミアもまた、話に加わらなかった。
リスイアもそんな話を聞いても、他人事のような感覚でしかいられなかった。
一行はレヴィオと交代して手綱を引きながら北へと向かう。
段々と気候が変わり、肌寒くなってくる。
休憩を挟む回数も増え、火と毛布で暖を取っていた。
「この辺まで来ると、獣や動物たちも少ないな」
「木が生える場所も少ないようじゃし、いろいろ節約せねばならんのう」
「私、寒いとこ苦手…」
リオがもう弱音を吐く。他の皆も気が沈みがちのようだった。
「人も生き物じゃからのう。寒いのは嫌じゃろうて。ほら、皆で固まってど突き合いでもするか。温まるぞ?」
「いいね。それー」
アビイがタブルスにぶつかっていく。
「やったなー?」
逆に今度はタブルスがアビイに反撃した。
そしてアビイの隣にいたカナンまでも勢いで倒れた。
「ちょっと! なにすんのよ、もう!」
それから皆が枕投げ状態になり、誰かれ構わずぶつかっていった。
「ホッホ。若者はこれくらい元気がないとのう。…って、誰じゃ! ぶつかってきたのは!! 儂が成敗してくれる!」
「ザミアさんが本気になったらやべえぞ? みんなー、逃げろー!!」
タブルスの声でみんな楽しそうに逃げて行った。
今は楽しくバカをやって忘れよう。
そんなタブルスの気持ちを汲んだかのように、目的を忘れてひと時の間、みんなは仲良くはしゃいでいた。




