悪魔の力
いつから変わって行ったのだろうか。
幼い頃は男も女も髪色も関係なく、みんなで一緒に遊んでいた。
ある時、誰かが他と違う自分を排除した。
「どうして一緒に遊んじゃダメなの?」
「お前、変な髪の色してるだろ? 俺たちに病気が移るだろ?」
「病気なんかじゃないよ! 最初からこうだったの! ねえ、遊んでよ!」
「嫌だよーだ! みんな、あっちに行こうぜ」
「おお」
「なんで…どうしてよお…」
家に帰ってお母さんに尋ねた。
「お母さん! 私だけなんでこんな髪色なの?」
「また虐められたのかい? あれほどフードを被りなさいって言ったでしょ?」
「だって、私、悪くないもん! なんで隠さなきゃいけないの?」
「みんなと同じようにしないといけないんだよ。普通が一番なのさ」
「なに、普通って! 私にはこれが生まれた時から普通なの! もう、お母さんなんて知らない!」
「リオ!!」
私だってみんなと同じに生まれたかった。
だけどこの髪色を変えてしまったら、私じゃなくなる気がして怖かった。
私は家を出た。
誰もいない場所へ行きたかった。
ずっと歩いて行くと海が見えた。
暖かい風が吹いて、黄金色の髪を慰めるように撫でた。
「良い風ね」
私はこの町に住むことにした。
お花を育て、畑仕事を手伝ったりしてなんとか生計を立てていった。
この小さな町は、若者が少ない分、年配の人たちに可愛がられた。
ある時、町に来た行商人に聞いた。
「ねえ、他の町にも変わった髪色の人っているのかしら?」
「そうさねえ…。いるって噂も聞くことはあるが、悪魔の力を持っているだの治らない病だの言われとるからなあ。俺はそんなの信じねえけんどな」
「ふーん…」
この世界のどこかにいるのなら会ってみたいと思った。
その人も私と同じように、辛い目にあったりしているのかな。
毎日どうやって過ごしているのかな。
満点の星空を見上げながら、そんなことを考えていた。
私は夢を見た。
七色の光が輝く。どこかの神殿のような場所。
顔はハッキリと見えないけど、それぞれが私とは違う色を持つ人たち。
神様のような人が何かを伝える。
そして、皆が呼応するように輝きを放つ。
一瞬眩い光に包まれ、視界が遮られた。
ーーそこで私は目が覚めた。
それから私はそんな不思議な夢を見ることが多くなった。
そして、あの夢を見た。太陽のように燃える炎の色をした子と、あの花畑で出会う夢を。
これがあの行商人が言っていた悪魔の力なのか分からないけれど、私には不思議な力があると知ったのだった。
彼らと出会った翌日の朝、まだ朝靄が立ち込めている。
いつものように花に水をあげようと花畑にやってきた。
すると、誰か人影が見えた。花を荒らしにきたのだろうか。
「ちょっと、誰? 花を荒らさないでくれる?」
その人影が振り向いた。背の高い若者で、どこかで見たような気がした。
「あっ、リオ殿。おはようございます。勝手に入ってすみません」
「…えっと…」
「昨日、リスイアと一緒だったレヴィオです。私も朝目覚めてから花を愛でないと、なにか落ち着かなくて…」
「あ、そうだったの。じゃあ、もしよかったら水撒き、一緒に手伝ってくれないかしら?」
「宜しいのですか? 是非お手伝いさせてください!」
リオとレヴィオは、手分けしながら水撒きをした。
「私の村では雨が多くて、水撒きは殆どしませんでした。リオ殿は毎朝お一人でこのようにされているのですか?」
「そうよ。この町は晴れの日が多くて乾燥しているしね。だけどね、この花たちは強い子たちだから、毎年ちゃんと応えて綺麗な花を咲かせてくれるのよ」
「なるほど。リオ殿の愛をたっぷり注がれているからでしょうね」
「そうかな? フフフッ」
こうして誰かと一緒に過ごすのは、いつぶりだろうか。
この若者も幻想的な美しい薄紫色の長い髪で、お淑やかに咲く花のような雰囲気を持っていた。
花の水遣りが終わり、二人は町を散策する。
「ああ、良い風だ。穏やかでいい町ですね」
「レヴィオ、だっけ? 貴方はどうしてみんなと旅をしているの?」
「私の母上が数年前に亡くなられてから、私は母上の大事にしていた庭園の花を守り育てていました。しかし、数日前に私の村に立ち寄った燃えるように美しい色を持つリスイア殿に出会い、私は彼を留めて置きたくなってしまったのです。ですが彼らの結束は固く、私のわがままにより大変ご迷惑をおかけしてしまいました。私はそんな自分を変えたくて一人旅に出ようとしたところ、彼らの優しさに救われ、今に至るといった感じですね」
「そうなんだ…。貴方も色々あったのね」
「はい。恐縮です…」
「まあ、私も似たようなもんよ。あっ、海が見えて来たわ。ねえ、砂浜の方に行ってみましょ?」
「はい!」
レヴィオはそのまま、リオと一緒に砂浜へと向かった。
天候は晴れ。海鳥が気持ち良さそうに飛んでいる。
遠い波間で漁船が見え、地平線までクッキリと見えた。
砂浜近くにあった木陰のベンチに、リオとレヴィオは腰を下ろした。
「気持ちいい風ねー。私ね、嫌なことや考えごとがあると、こうして海を見に来るんだ」
「なるほど。私は海は初めてです。世界はこんなにも広いのですね」
「ねえ、この向こうってさ、一体どこに続いているのかなー」
「分かりませんが、私も是非知りたいですね」
「この海見てたらさ、考えちゃうんだよね。あの向こう側にも私たちみたいな髪色の子がいたりするのかなーなんてね」
「そうですね。もしかしたら、私たちがまだ見たこともないような花が咲く島や、私たちのような者もいるかも知れませんね」
「ウフフフッ」
「えっ? 私、何か面白いこと言いましたか?」
「んーん。違うの。私ね、ずっとこんな風に誰かと話したいなーって、ずっと思ってたからさ」
「私もリスイア殿や皆に出会えて、毎日が楽しいです!」
「そっかー。…ねえ、私も一緒に行ったらダメかな? その旅にさ」
「勿論! 皆、喜びますよ!! では、急いで伝えに行きましょう!」
「えっ! ちょっと、待ってよー!!」
レヴィオは嬉しそうに立ち上がると、リオの手を引っ張り駆けていく。
理解してくれる人がいることって、なんでこんなに嬉しいんだろう。
リオはまた新しい道へ一歩、足を踏み出していた。




