怒りと痛み
人間とは同じものを仲間と呼び、違うものを排除する生き物だ。
我は何故生まれたのか。
望んでこのような体で生まれた訳ではなかった。
母親は我を産んでからすぐに別の男と去った。
我は教会の前に捨て置かれていたそうだ。
勝手に産んでおいて勝手に捨てる。血の繋がりなど無意味だ。
教会には我と似た境遇の子どもたちがいた。
戦争で親を無くした者、親に虐待を受けた者、周りから嫌われ出てきた者など、皆どこか孤独で何かを求めていた。
この世は弱肉強食だ。
知恵のある人間もまた、ただの動物だ。弱い者はいつでも標的にされ虐げられる。
我は強さだけを求めた。自分を守る術として。そして、弱き者を救う為に。
ある日、箱に捨てられていた子猫を拾った。
自分の食事を半分分けてやった。その子猫は我の守るべき子だった。
そしていつも通り、その子猫に食事を持って行こうとした時、血まみれの子猫を抱く子がいた。
その子は蹲って泣いている。
「おい! どうしたんだ?!」
「僕は…止めようとしたんだ! なのに、こんな酷いことを…」
「おいっ! 誰だ!! 誰がやった!!」
「町の大人たちだよ…僕らが嫌われるのはいいけど、この子にはなんの罪もないのに…ううっ」
「ふざけやがって…」
「ダメだよ、ノア!! 憎しみを持ってもこの子はもう、戻らないから…」
ぐったりとした子猫は、ボロボロになって眠っていた。
我は爪が食い込むほど拳を握り締め、怒りと憎しみで血が滴っているのも気付かなかった。
「許さん! 絶対に…」
「ダメだよ、ノア! やめて!! 行かないでー!!」
ベッドに寝かされていたリオは、ハッと目を見開き目を覚ました。
「あっ! 気が付いた? 大丈夫??」
夕陽色の髪の女性が心配そうに顔を覗き込んでいる。
「貴女は…」
「私、カナンよ。ホントに大丈夫?? みんなも心配してたのよ。ごめんなさいね。無理に占いなんてお願いしちゃったから…」
「あ、そっか…私、占いしてたんだったわよね」
「ちょっと待ってね。リオが起きたってみんなに知らせてくるから」
そう言うと、カナンは部屋を出て行った。
そうだ。夕食に招待されて恋占いするって言って、みんなの占いしてる途中だったんだ。
占い自体はそんなに力使わないはずなのに…。意識を失ったのは初めてだった。
「リオ!! 気が付いたんだな!」
「大丈夫ですか? リオさん」
タブルスとアビイが先頭に立って顔を見せにきた。
「具合はどうじゃの?」
「ああ、もう大丈夫よ。ごめんなさいね、驚かせちゃって」
「誠に申し訳なかった。無理に占いなどをお願いしてしまい…」
ザミアとレヴィオも部屋に来てリオに声をかける。
「ううん。今までこんなことなかったんだけどね」
「ごめんね、リオ。遅くなっちゃったけど、僕が家まで送って行くよ」
リスイアも責任を感じているのか、申し訳なさそうに言った。
「そうじゃのう。リスイア、頼んだぞ」
「はい」
リスイアとリオは、町外れにあるリオの家に向かって歩いていた。
「ごめんね、送ってもらっちゃって」
「いや、僕こそ無理させちゃったみたいでごめん」
「…ねえ、貴方ってさ、小さい頃はどこで過ごしてたの?」
「うーん。実はよく覚えていないんだ。アダルナピスって街で倒れてた時に記憶を失ったみたいでさ」
「そうだったのね…。なんか、ごめんね」
「ううん。いいよ。思い出せないってことは、あんまりいい思い出じゃないのかもしれないしさ」
「だけどさ、貴方の生まれ故郷には行ってみたいんじゃないの?」
「まあ、そうだね。機会があればでいいよ。タブルスも同郷みたいだしそのうちでね」
「そっか。あ、この辺でいいわ。もうすぐそこだし。今日はありがとね」
「ううん。こちらこそありがとう。僕たちもう少しこの町にいるから、いつでも遊びに来てね」
「わかったわ。じゃあ、お休みなさい」
「おやすみー」
リスイアとリオは、手を振って別れた。
あの夢はもしかしたら…と思ったが、リオには口に出せなかった。




