恋占い
細波が砂浜に押し寄せ、海面を夕陽に染める頃、ザミアやタブルスたちも宿へと戻ってきた。
宿の食事処は、砂浜が見える外にある席で、タブルスたちが持ってきた活き活きとした魚介類で溢れていた。
「凄いね、これ。どうしたの??」
「港の市場に寄ってさ、買ってきたんだ。それと、この小さい蟹は岩場でアビイと一緒に釣った」
「ほら、見て! まだ生きてるんだよ!」
リスイアが尋ねると、タブルスとアビイは蟹を持ち上げながら説明する。
「私なんかねー、海の男たちにナンパされちゃってさー。なんかたくさんプレゼント貰っちゃった」
「ホッホ。それは得したのう。レヴィオとリスイアたちはどうじゃったんじゃ?」
「私たちは、高台の見事な風車と美しい花畑を満喫してきました」
「そうなんだ。そういえばそこでね、黄金色の髪の少女と出会ってさ…」
「こんばんはー!!」
リスイアが説明していると、噂の少女リオがやってきた。
夕暮れに光るその髪は、風で揺らめく度に光を放っていた。
「おお! もう見つけたんか!!」
「アンタ、凄いわね!」
「僕が見つけようとして出会ったわけじゃないんだけどね」
「初めまして、皆さん。この町に住んでいるリオと申します。今日はリスイアさんのご紹介でお招き頂きました」
アビイとタブルスは何故だか固まっていた。
「ん? アビイとタブルスはどうしたんじゃ?」
「これはお近付きの印に持ってきましたー。どうぞっ」
持ってきた花束を、リオはタブルスとアビイに笑顔で渡した。
「…あ、ありがとな」
「天使さんだ…」
「ちょっと! ここにも可憐な美少女がいるでしょうが!! なんなのよ、その態度の差は」
「ホッホ。まあまあ、美しいお嬢さんなら大歓迎じゃわい。ささ、座って。今夜は宴じゃ!」
男性陣に大歓迎されたリオは、嬉しそうに参加してみんなで乾杯した。
刺身や焼き料理にされた魚介類も、口の中で踊るような美味しさだった。
「これ旨いですよ、リオさんっ」
「僕が取り分けますねー」
「おい、アビイ! 俺がやるって!」
「タブルスは盛り付けセンスないんだから、僕の方が良いよ」
「なんだとコラ!」
「ウフフッ。もう、喧嘩しちゃダメよ」
「はいっ」
タブルスとアビイが喧嘩するのは珍しいが、可愛い子にはみんな弱いのだろう。
隣にいる自称美少女には目もくれず…。
「皆さん、賑やかで楽しいですね」
「まあ、いつもこんなもんじゃよ」
「ところでアンタさ、なんでリスイアに会えるって分かったの?」
カナンが、ふて腐れてヤケ酒を飲みながらリオに絡む。
「信じてもらえないかも知れませんが、私、これから起こることがちょっとだけ分かるんです」
「むう。それは、予知という能力かもしれんのう」
「予知?」
「儂らイディアペリスらは、それぞれ不思議な力を秘めておるのだ。それを上手く扱えるようになるためには、修行して精神を鍛えて制御できねばならんがのう」
「そうですね。私は幼い頃から貴方たちに出会う日まで、自分の力を蓄えておりました」
「そうか…ならば、儂らの目的も分かっておるのかね?」
「ええ。来たる日までに力を付けておかなければ…」
「え? ちょっとなんのことなの、それ??」
「時が来たら皆に話す。今は力を蓄え、結集しておかねば」
「ふーん…」
カナンはよく分からない話に更に苛ついてしまった。
「カナンさん。そういえば私、もう一つ特技があるんです」
「えっ? なによー。これでも私、今日海の男にナンパされたんですからねー」
「どの男性がカナンさんの理想の男性か知りたくないですか? 私、恋占いできますよ」
「え〜〜!!! こ、恋占い!?」
一同はリオに注目した。みんな興味があるようだ。
「はい! 運命の相手、占いまーす」
「ハイハイ、ハーイ!! 私が一番よ! やってー!! お願いっ!!」
「俺も!!」
「僕も!」
「儂も」
「では私も…」
リスイア以外はみんな挙手した。
「それじゃあ、誰から占いましょうか?」
「私だって!!」
「俺が先だ!!」
「あー、喧嘩するならやりませんからねー。ここは公平にクジ引きで…」
占い希望者は、箸に書いた番号順で占いをお願いすることになった。
「やったねー!!」
「そんな…二番だわ」
アビイが一番で、カナンが二番、ザミア、レヴィオ、最後にタブルスとなった。
「俺が最後か〜…リスイアはいいのか?」
「うん」
「ではー、始めますよー」
どこから取り出したのか分からない水晶玉がテーブルに用意され、フードを被ったリオは、最初にアビイを占い始めた。
アビイは緊張した面持ちでじっと座っている。
「…ケーテュトロークシスケラポアストロ…」
リオは意識を集中して水晶玉に念を送りながら、なにやら呪文を呟いている。
すると、乳白色だった水晶玉の霧が晴れたように透明になり、何かが浮かび上がってきたようだ。
みんなも真剣な表情で覗き込む。
「見えてきたわ。そうね…これは…森の中の、動物たちかしら?」
「動物??」
みんな声を揃えて言う。
「運命の相手って言ってもね、必ずしも人間の異性とは限らないってことよ?」
「わーい! 動物たちに囲まれて暮らすの夢だったんだー!」
「おい…それでいいのかよ、アビイ」
「はい、次の人〜」
「ハイ! さあ、いい男、出してちょうだ〜い」
「もう、おみくじじゃないんだってば!」
ちょっと不機嫌になりつつも気を取り直し、リオは再び呪文を唱え始めた。
また水晶に何か浮かんできたようだ。
「これは…なんか、予想通りなんだけど。一人…じゃないわね」
「ちょっと、どういうことなの??」
「運命の人って言うけどね、ご縁がある人は、実は一人じゃない場合がほとんどなの。だから、貴女がピンと来た人の中から選べるってことかしらねー」
「そっかー。魅力的過ぎる私には、いい男がたくさん集まっちゃうのね。まあ、罪な女だわ」
「…さて、次は〜」
リオは軽くスルーして、残りの占いを続けた。
ザミアには若い夫婦と子供の姿が、レヴィオには年上の女性と年下の少年が、最後にタブルスにはなぜかリスイアの姿が映っていた。
「な、なんでだよ…」
「縁や結び付きって言うのはね、男女の愛情だけではなくて、友だち同士もそうだし、親子もそうなんだけど、実は前世やその前の生のどこかで繋がりがあったのかもしれないのよ。例えば、前世で恋人同士だったけど事情があり結ばれなくて、現世で再び出会ったりね」
「なるほど…」
「前世の記憶なんて、生まれる時にだいたい忘れちゃうんだけどね。前世で男女として出会っても、現世では同性同士ってことも、また逆のパターンもあるわ」
「なんか、よく分かんねーけど、リスイアとはどこかで、きっと会っているんだろうな」
「そうかもしれないわね」
「なあ、リオ。リスイアもさ、占ってやってよ」
「僕はいいって」
「まあ、ついでだからよ。お前の運命の相手ってやつも気になるしさ」
「いいわよ。じゃあ、リスイア、ここに座って」
「うん…」
だいぶ疲れているようだったが、最後に集中力を高めてリオは水晶玉に念を送った。
少しづつ影が見えてくる。
その影がはっきりと映し出された時、ザミアの顔色が変わった。
「こ、こやつが何故…」
「ザミアさん、知ってるの? この…人??」
リスイアがザミアに尋ねようとした時、リオが気を失って倒れた。
「おい! リオ、大丈夫か!!」
「占いし過ぎて疲れちゃったんじゃない? とりあえず、うちの寝室へ運びましょ!」
「わかった」
タブルスとレヴィオが協力してリオを抱え、カナンの部屋に運んで行った。
ザミアは呆然と立ち尽くしたままだった。
水晶玉に浮かび上がったのは、人間のように見えたが、どこか不思議な雰囲気が漂う者だった。
そしてリスイアは、どこかで会ったような気もしていたが思い出せなかった。




