黄金色の少女
エスヒュートを出て三日後、ザミアたち一行は海に面した港町トノスに到着した。
気候は穏やかで、海から吹く南風が心地良い。
「ねえねえ、みんな見て、海よ! 私、海見るの初めてっ」
「僕も!」
「俺らもだな、リスイア」
「ポルカリートは内陸地じゃしのう。儂も海沿いの町に来るのは久方振りじゃわい」
「素晴らしい景色ですね! では、今日はこの町に滞在致しましょうか?」
馬車から覗き、歓喜の声を上げる一同。
港町を視界におきながら手綱を引くレヴィオはザミアに尋ねた。
「そうじゃのう、皆も喜んでおるようじゃしのう。どれ、馬車を預けて宿を探そう」
「承知しました!」
「やったー!!」
一行は馬車を預けて荷物を下ろし、町の宿へと向かった。
「いらっしゃい。ゆっくりしてちょうだいね」
「ありがとうございまーす」
宿の女将さんに挨拶した後、アビイが尋ねる。
「あの、この町の名物ってなんですか?」
「名物かい? そうだねえ…近くの海で獲れた新鮮な魚介類と、風車と、美しい花畑かしらねえ」
「魚介類に風車と花畑か。ありがとう!」
女将さんはニッコリと笑顔を残して部屋を後にした。
「ザミアさん、今日はどうするの?」
リスイアが尋ねる。
「そうじゃのう、今日はまあ特に各自自由にして良いがの、何かあるといかんから、二人以上で行動するのじゃぞ。ああ、夕飯までには戻りなさい」
「はーい」
「分かりました」
ザミアは調べたいことがあると言うことで、宿を出て行った。
「じゃあ、二人と三人に分かれて出かけようか」
「さっきさ、女将さんが言ってた名物を見に行こうよ。海側と内陸側と分かれてさ」
リスイアとアビイの提案により、行きたい方へ挙手することにした。
「んじゃ、俺とアビイとカナンは海だな」
タブルスが嬉しそうに発表する。
「じゃあ、僕とレヴィオは風車と花畑に行って来るよ」
「レヴィオ、お前またリスイアになんかしたら許さないからな!」
「そんなこと二度と致しませんよ。私はこの町に咲く花に興味があるだけです」
「リスイア、なんかあったらすぐに知らせるのよ!」
「わかったよ」
というわけで、タブルス、カナン、アビイ組みと、リスイア、レヴィオ組みの二手に分かれて行動することとなった。
タブルス、カナン、アビイの海側チームは、港に向かって歩いていた。
「海は青いな大きいな〜」
「潮風も気持ちがいいね」
「そうだな。どんな魚がいるか楽しみだぜ!」
カナンは歌いながらスキップし、アビイとタブルスもご機嫌な様子だった。
小さな漁港には、釣り上げたばかりの魚介類が並ぶ市場があった。
「うわー、こんな魚初めて見たよ!」
「これはどうやって食うんだ?」
「活きがいいから刺身にしても美味いし、シンプルに焼くだけでも最高だぞ!」
「へー」
アビイとタブルスは、珍しい魚に夢中で魚屋の店員と興味深げに話していた。
カナンは海沿いを歩きながら、打ち寄せる波を目を細めて見ていた。
「海っていいわねっ。キャッ、冷たい!」
波が足元まで届いた。水は思ったより冷やっとしていて、熱い砂を歩くと気持ち良く感じた。
「やあ、お嬢さん。僕と一緒に散歩しませんか?」
「え? ああ、貴方この町の人なの?」
「はい。良かったら近くに美味しい店があるのでご馳走しますよ?」
「そうね。ありがとう。けど、私もう少し一人で歩いていたいから、また今後ね」
「そうですか…残念ですね」
カナンは男に声を掛けられるのは慣れていた。
また顔の良い男は、いろんな女に同じことを言うことも知っていたのだ。
「まー、私のタイプじゃなかったしね〜」
今度は良く日に焼けた若い男が、魚介類を籠に入れて歩いてくるのが見えた。
「よお、姉ちゃん! 俺と一緒にこいつを食わねえか?」
「あら、何を取ってきたの?」
「この町名物のイトゥースって魚とアコタス海老と、スリデ貝さ」
「へー、凄いわね。だけど私、これから友だちとランチなのよ」
「そうかい。なら、これやるよ! 店で焼いてもらいな!」
その男は取れたての魚介類をカナンに分けてやった。
「えっ? こんなにいいの? ありがとっ」
男は気さくに笑いながら去って行った。
「もう、美人は困るわね」
そんなことを呟きながら満更でもないカナンだった。
リスイアとレヴィオは、町の人に聞き込みしながら、風車と花畑を目指した。
「この町は気候も穏やかで、町の人々も親切ですね」
「うん。こっちの高台の方に風車があるって聞いたんだけどなあ…」
レヴィオと話しながらリスイアは風車を探す。
「もしや、あの羽がついた建物では??」
「そうだ! あれだよ!! 行ってみよう」
二人はその建物を目指して走った。
大きな羽が南風を受け、グルングルンと旋回している。
「すっごいなー」
「なかなか見事なものですね」
その風車の建物の周りには、色取り取りの花が咲き乱れている。
奥側の方には黄色い花が絨毯のように敷き詰められていた。
「この色鮮やかな花は、なんと言うのでしょうか。私の町にはない花だな」
「その花はね、リトゥーパって言うのよ。可愛い花でしょ」
その声に驚いて振り向くと、黄金色の髪を棚引かせた少女が笑顔を見せて立っていた。
「貴方は…」
「私はリオ。この町の者よ。貴方たちは見かけない顔ね」
「僕はリスイア。旅の途中で立ち寄ったんだ。宿の女将さんから風車と花畑が有名だって聞いてね」
「私はレヴィオだ。リスイアや仲間たちと共に旅をしている。エスヒュートの町から来たのだ」
「エスヒュート…ああ、あの雨の多い町ね。私の町にも時々、行商人が魚や花を買いに来るわ」
「なるほど。しかしこの風車は立派なものだな」
「海から吹く風を利用しているの。水を組み上げて花畑に水を送ったり、町の電力として使われているわ」
「へー」
「そうだわ。あっちにも私のお気に入りの花畑があるの。見に行ってみない?」
「ああ。是非お願いしよう。リスイアも行きましょう」
「うん。じゃあ、せっかくだし行ってみようか」
「決まりね。こっちよ」
リスイアとレヴィオは、リオと言う少女の案内で花を愛でながら付いて行った。
「…ほう。そうか。また宜しく頼む」
怪しげな男と会話をしていたザミアは席を立ち、部屋を出た。
(ふむ…これは、のんびりしておられんな)
フードを被って出てきたザミアは、また何処かへと歩き出した。
「ほら! ねえ、見て? 綺麗でしょ?」
「これは、幻想的な…」
「黄色の絨毯のようだね」
リオに連れて来られた場所には、一面、黄色の野草が咲き誇っていた。
「ここはね、私だけの秘密の場所なのよ」
リオはそう言うと、花畑の奥の草むらで大の字になり、空を見ながら倒れ込んだ。
「そうなんだ。だけど、そんな大切な場所に僕たちを呼んで良かったの?」
「いいのよ。私はね、ここで貴方と会えると思って待ってたのよ」
「えっ?」
「それはどういうことですか? リオ殿」
リオはそのままの体制でリスイアとレヴィオの疑問に答えた。
「私ね、時々、変な話なんだけど、こうなるんじゃないかってわかる時があるのよ。今日はここで、燃える陽の色をした子と出会うって見えたから」
「…あのさ、もし良かったらなんだけど、僕たちの仲間と一緒に、この後夕食でもどうかな?」
「いいですね。私もこの町のことや花について、是非とも詳しくお伺いしたい」
「そうね…良いわよ。それじゃあ、ちょっと用事を思い出したから、後で訪ねるわ」
「分かった。じゃあ、僕らは先に宿に行ってるから、また後でね」
「楽しみにしております」
「うん!」
元気に手を振るリオと別れ、リスイアとレヴィオは、少し海沿いを歩きながら宿へと向かって行った。




