番外編 其の二 ザミアの修行 〜水を得たタブルス〜
自分の能力、好きなこと、得意なことは…と、タブルスは考えていた。
ザミアは年の功があり、時々説教臭いことを言うが、なんだかんだ勉強になることばかりだ。
自分は若くて力もなく、誰かを守ることも出来ない。
そんな自分が情けなくて頑張ろうとするが、いつも空回りばかりしていた。
「まったく、なんで俺は出来ないんだろ…」
ザミアとの修行中、何度やってもザミアに勝てない自分に苛立ち、弱音を吐いた。
「お主は何故、他人の土俵で勝負しようとするのじゃ。なんでも力任せでどうにかなると思うでないわ。ないものばかり数えておらんで、お主の中にあるものを数えてみよ」
タブルスはその時は悔しさで頭が一杯で、その言葉の意味を飲み込めなかった。
俺の中にあるものは…。
リスイアの火のオーラを抑え込んだ水のオーラ。
…そうか!
タブルスはガバッと起き上がり、天幕から抜け出した。
星が瞬く夜、周りは静けさに満ちている。
タブルスは川に行って水を汲んできた。
「よーし! この辺でいいかな」
水を汲んだ桶に向かって立ったタブルスは、その水に集中して力を込めた。
(集中、集中…)
平らだった水面に、ほんの少し波が立った。
(いいぞ)
段々と波が大きくなり、遂には水が大きく爆発して飛び散った。
「…で、出来た!」
飛び散った水でびしょ濡れになりながら、タブルスは小さく喜びを噛み締めた。
「ほほう」
タブルスの様子をこっそり窺っていたザミアは、嬉しそうに微笑んでいた。
次の日は朝から移動し、昼過ぎに川に近い場所で休むこととなった。
「はあ、やっと休憩ね」
「今日も暑いねー」
など、それぞれ休息を取っていた。
近くに流れる川には、魚たちも元気に泳いでいる。
長旅が続くと困るのは、やはり食材調達だろう。
保存食や調味料などの日持ちするものは準備してあるが、積み込める荷物も限られるため、肉や魚などの鮮度が大事な食材は現地調達となるのだ。
「ねえ、ザミアさんは、一人で旅している時は食材とかどうしてたの?」
リスイアが休憩していたザミアにそれとなく聞いた。
「儂一人ならなんとでもなるわい。料理も得意じゃしのう」
「なるほど…。僕はどっちも未熟ですね」
「今の時代は男も料理の一つや二つ出来んとモテんぞ」
「そうよ! 料理できる男って魅力的よねー」
「勿論、女子もじゃがな」
「な、何よー! 私だってやれば出来る子だもん!」
「ホッホッホ。まあ、期待しておるぞよ」
リスイアとザミアの会話に、カナンも混じってそんな話をしている。
その横に座るタブルスは、自分のことで一杯一杯だった。
(俺はまず、水のオーラを扱えるようにならないと…)
タブルスは川岸に立ち、川の流れを止めようと力を込めていた。
(んー…止まれ!!)
川の流れが一瞬止まったようにタブルスには見えたが、瞬きするくらいの時間だった。
「もう一度だ」
再びタブルスは集中力を高める。
…止まれ!! と心の中で叫ぼうとした時、ザミアに脇腹を擽られた。
「ちょっ! やめっ、ブワッハハハハー!!!」
「まだまだ集中が足らんようじゃのう」
「じゃ、邪魔しないでくださいよー。アハハハハッ」
「なにやってるのー? 僕も遊びたーい」
アビイが楽しげな様子を嗅ぎつけてついてきた。
「遊んでるわけじゃねーんだって」
「えー、今楽しそうに笑ってたじゃん!」
「じゃあ、アビイにもやってやるぜー! コショコショ…」
「アハッハッ! やめてー!!」
アビイとタブルスはそのまま戯れて遊んでいた。
「精神面が課題じゃのう…」
ザミアがポツリと呟いた。
それからまた少し移動し、夕方頃に野営の準備を始めた。
食材は今朝の残りと、その辺で取った野草とキノコだ。
「これは…笑笑草じゃ」
「これ、食べられるの?」
「食べられぬこともないが、半日は笑い続けることになるぞよ」
「ザミアさんは何でも知っているんだねー」
「儂の知っていることなど、この世界のほんの一部に過ぎぬ」
アビイとザミアは食事の支度をしながら、話していた。
「いただきまーす」
「ホッホ。遠慮して食うんじゃぞ」
「そこ、遠慮せずにじゃないの??」
カナンがザミアに突っ込みを入れる。
「お主らが食えぬほどに食材を取ってきたらのう。ああ、そうだ、タブルスよ。明日の朝、ちょいとそこの川で魚でも取ってきてくれんかの。朝飯の食材が無くて困っておるのじゃ」
「僕も行きますよ」
リスイアが手を上げる。
「いや、明日リスイアは火おこしを手伝って欲しいのじゃ」
「分かりました」
「じゃあ、頼んだぞ、タブルス」
「ん、ああ…」
ザミアはニッコリと微笑みながらタブルスに頼んだ。
夜が明ける頃、タブルスは一人で起き出して川へと向かった。
最近は、朝の修行のおかげか早起きもそれほど苦手ではなくなっていた。
薄っすらと霧がかかっているが、このくらいの方が丁度良い。
天候は曇り。湿度、気温、共に十分なコンディションだ。
「よおし、今日こそは、大漁確定だぜ!」
気合いも十分整った。
タブルスは釣竿を垂らさず、目を瞑って気を集中していた。
川のせせらぎが聞こえる。水の流れに沿って魚が泳いでくる様子を感じた。
来た。
水流を操るように気を練る。魚が水面へと浮かび、飛び跳ねようとした。
今だ!!
魚が飛び跳ねる勢いを利用し、水流を押し上げてその魚を岸辺に打ち上げた。
「や…やったー!!」
タブルスはコツを掴み、次々と魚をゲットした。
陽の光が昇ってきた頃、ザミアとリスイアは朝の食事の準備をしていた。
「おはよー」
「おう、やっと起きたかの」
「もう、朝??」
他の人たちも起き出してきた。
「顔洗ってこようかしら…あれ? タブルス??」
カナンが川に向かおうとすると、タブルスが籠を持って現れた。
「おはよー、タブルス。えっ!! どうしたの、これ!?」
ザミアとリスイアも集まってきた。
「へっへーん! どうだ、凄いだろっ」
籠の中には大量の魚がウヨウヨ泳いでいた。
「凄いね、タブルス!!」
「そうだろっ」
「ほう。よくやったのう。ほれ、早く顔を洗ってこい。飯にするぞよ」
「はーい」
タブルスは得意げに、満足した表情だった。
皆が起き出して朝食を囲んだ。
「俺が釣った魚だ。みんな、遠慮なく食ってくれ!」
「ありがとー、タブルス」
「美味しいよ」
「そうだろっ。フフッ」
(やれやれ。ちっとは成長したかの)
嬉しそうに焼き魚を頬張るタブルスの姿を、ザミアは微笑ましく見つめていた。




