美しい花
昼を過ぎて、ザミアたち一行はそれぞれ宿に戻って来ていた。
しかし、リスイアは連絡も無く、まだ戻って来ていなかった。
「集合時間に戻って来ないなんて、珍しいな」
「まー、そのうち戻ってくるでしょ」
「では、先に報告を聞いておくかの。アビイはどうであった?」
「町の人に聞いたけど、みんな知らないって。後、蛙たちがこの町で見かけたらしいんだけど、詳しくはよく分からなくてさー」
「そうか…タブルスはどうじゃった?」
「俺の方は細身で中性的な奴を見かけたって言う情報だけだったな」
「ほうほう。ではカナンはどうじゃった?」
「私は特に、情報を掴めなかったわ」
「うーむ…となると、リスイアの様子が気になるところじゃが…」
「まー、夜までには戻ってくるだろうよ」
「お昼食べたら、また聞き込みしながらリスイアも探してみようよ」
「そうね!」
「ふむ。では、そうしよう」
昼飯の後、各自で聞き込みとリスイア探しが行われた。
この時間になっても雨は降り止まず、捜索は難航していた。
一方、リスイアはレヴィオに連れられて、広い庭付きの邸宅に訪れていた。
リスイアは庭が見えるテラスに通され、席についた。
「いい紅茶があるんだ。少しここで待っていてくれ」
「うん。ありがとう」
テラスから庭園を眺める。
旬の花々だろうか。青や紫、薄い桃色など雨の雫を垂らしながら、しっとりと咲いている。
大きな葉には渦巻きの殻を背負ったカタツムリがゆっくりと這っていた。
庭には小さめの池もあって、なかなか趣深い。
「さあ、紅茶が入ったよ。どうだい? 美しい庭だろう」
「そうだね。風情があって落ち着くよ」
「この紅茶も私のオススメなんだ。どうぞ」
「ありがとう」
リスイアは、ゆっくりと一口含む。花の香りとフルーティーな味わいが口の中で広がった。
「とても良い香りで大変美味しいです」
「そうだろう? 私のお気に入りさ。…そういえば、君はどこから来たんだい?」
「僕は…ここから北東のアダルナピスにいました。今は仲間たちと出会って旅の途中なんです」
「アダルナピスか…あの穢らわしい工業都市だね」
「まあ、そうですね。ある事情があってあの街にいて…生まれ故郷はたぶん別の場所です」
「たぶん?」
「はい。僕、記憶がないんです。気付いたら、あの街の裏通りで倒れていたみたいで…」
「そうか…大変だったんだね」
「まあ、でも今は幼馴染の子や仲間たちと出会えたし、そんなに気にしてないですよ」
「そうか…」
レヴィオも少し冷めた紅茶を啜った。
「ところで…君の髪、素敵な色をしているね」
「僕はよく分からないのですが、珍しいみたいですね」
「イディアペリスって聞いたことはあるかい? 実はほら、私もその一人さ」
薄紫色に光る美しい長髪を、レヴィオは斜めに揺らして見せた。
「レヴィオさんの髪も、美しく光輝いてますね」
「そうだろう? 私の美しさは凡人たちを凌駕してしまうらしくてね。皆に持て囃されるのも困るんで、この美しい庭園でひっそりと暮らす毎日さ」
「なるほど。レヴィオさんのご家族もいるんですか?」
「父上は花を売りに出ているよ。母上は数年前に亡くなられてね。この庭は母の形見みたいなものさ」
「そうだったんですか…すみません、余計なことを」
「いや、気にしないさ。この素敵な庭を見に来てくれて、母上もお喜びであろう。ああ、そうだ。母上が一番大切にしていた花はこれだよ」
そう言うとレヴィオは立ち上がり、庭に咲いてあった一つの花を指差した。
リスイアもその後について行く。
「これがこの町でしか咲かない貴重な花、フィラゼスサンだよ」
「これは…凄く甘い香りが漂う、可憐で綺麗な花ですね」
話している最中にリスイアは突然、足がガクッと落ちて意識を失った。
それを支えて抱えたレヴィオは、リスイアの顔を見つめながら呟いた。
「そうだろう…まるで君のように、ね」
夕暮れ時、捜索していたザミアたちは再び情報交換の為に集まった。
「タブルス、どうじゃった??」
「いねえな。しかし、旅の者らしき姿を見かけた人は何人かいたぞ」
カナンがこちらに向かって急いで走ってくる。
「ねえ! リスイアらしき人、見かけたって! 背の高い若者と一緒にいたらしいんだけど…」
「背の高い若者? そいつがリスイアを連れて行ったのか?!」
「どこに行ったかまでは分からないってさー」
「ふむ…」
「おーい、みんなー!!」
最後にアビイが手を振って走りながら現れた。
「はあはあ…いたよ、リスイア」
「ホントか?!」
「うん! 背の高い人と屋敷に入って行ったって」
「やはり、その者と何か関係があるようじゃのう…。場所は?」
「東の外れの邸宅だって」
「よし! 行こうぜ、みんな!!」
「おー!!」