新たな仲間
旅立ちの日の朝、一行は宿の前で出立の準備をしていた。
「カナンさん、やっぱり来ないのかな」
「彼女にも彼女なりの人生があるからのう。どうするか決めるのはカナン次第じゃ」
「僕、カナンさんともう一度会いたかったなあ」
アビイもタブルスも期待と不安を持ちつつ、彼女を待っていた。
リスイアにとっても彼女は、元気や明るさを与えてくれる初めて会った女性なので、一緒に旅を出来たら楽しいだろうなと考えていた。
「さて、そろそろ行くかの」
しばらく期待を込めて待っていたが、現れない様子を見て重い腰を上げながら、ザミアは他の者たちと一緒に歩き出した。
「ちょっとー!! 待ってよー!!」
聞き覚えのある女性の声がした。
皆が振り返ると、こちらに向かって駆け寄ってくるカナンがいた。
「ハアハア…ちょっと、準備に手間取っちゃってさあ。もう、なんで置いてくのよ!」
「カナンさん!」
「もしかして、一緒に行ってくれるの??」
タブルスとアビイも駆け寄り、尋ねる。
「あんた達が誘ったんでしょ? 責任取ってよね!」
「ホントに?!」
「やったー!!」
「ホッホ。それでは、皆の者、出発じゃ!」
「オオー!!!」
燦燦と照り輝く太陽の光に祝福されるかのように、一行はその光を纏うような明るい女性を仲間に加え、賑わいを見せながら旅立つのだった。
仲間が増えたことで荷物も多くなり、ザミアは一頭の白い馬を用意していた。
「これで、少しは快適な旅になるじゃろう」
「可愛い! ねえ、なんて名前にしようか」
「名前かー、そうだな…」
「儂と同じ白髪じゃからのう、ザミア二号でどうじゃ?」
「うーん…」
「なんかいい案ねえかな、リスイア?」
「そうだねえ…」
リスイアはこの前買った本をパラパラと開いてみる。
「…ロフィスか。ねえ、ロフィスなんてどうかな? 友だちって意味らしいよ」
「お、いいんじゃね?」
「なんか、カッコいいじゃない」
「君はロフィスだって。ん? 気に入ったかい?」
「ヒヒーン!!」
アビイが撫でながら野菜をあげると、機嫌良さそうに鳴いた。
「じゃあ、決まりだな!」
「とほほ。儂のザミア二号は…まあ、気に入ったのなら仕方ないのう」
「よーし! ロフィス、これからヨロシクね!」
肩を落としているザミア以外、ロフィスと皆は上機嫌で新たな町を目指したのだった。
「ところでさ、次はどこ行くつもりなの?」
ポルカリートを出た日の夜、野営していた火を囲み、食事の準備をしながらカナンがザミアに尋ねた。
「ここから遥か南西の地に、小さな町があるらしい」
「へー。どんなところだろうな」
「僕は、緑が多いところの方が落ち着くんだけどなー」
「なんでも、雨が多くて美しい町だそうじゃ」
カナンが作った鍋料理を器に盛りながら、ザミアはみんなに向かって答える。
「さあ、出来ましたよっ! いっぱい作ったから、召し上がれ!」
「いただきまーす」
みんなは一斉に口に運んだ。
カナンが料理は得意だと自慢するので、早速作ってもらったのだが…。
「辛っ!」
「苦ッ!」
「○△×▽★×!!」
「むう。これも修行じゃ…」
それぞれの思ったことを口走った。
「ちょっとー!! みんな、なんなのよ、もう! 私のスペシャル料理にケチつける気?」
「…てか、これさ、なに入ってるの?」
リスイアが苦しそうに尋ねる。
「えーとね、私の好きなもの全部だよ? お野菜とお肉と果物と香辛料とお菓子でしょー? あっ、あとハチミツも!」
「そ、そう…」
どうりで激甘と激辛が混ざっているわけだ…。
「カナン殿。儂はもう少し長く生きたいでのう。カナン殿は料理の修行もせねばな」
「そんなに不味くはないはずなんだけどなあ…うっ! もう、わかったわよ!」
カナンはそんなはずはないという顔をしていたが、一口食べて降参したようだった。
味覚は正常だと分かり、みんなホッとしていた。
人数が増えてカナンも旅慣れていない為、休憩を取りながら数日歩いていた頃、急に雲が多くなってきた。
「なんだか暗くなってきたわね」
「これは、一雨きそうじゃな」
「少し急ごうか」
天候が荒れるのを気にしながら、一行は急ぎ足で進んだ。
そして案の定、ポツリポツリと雨が落ちてきて、次第に強まってきた。
なんとか木陰を見つけて雨宿りする。
「もうそろそろ見えてくる頃じゃろうと思うのじゃがのう。雨が落ち着いたら出発しよう」
「はい」
雨が少しの間止まると、一行はこの隙にと再び歩み始めた。
それから間も無く、また雨が降り出しそうになってきた。
「ねえ、もしかして、あれ町じゃない?」
ロフィスに荷物を積んで跨がっていたアビイが指を指した。
「ホント! やっと見つけたー」
「おい、また降ってきそうだから急ごうぜ」
町に辿り着く頃、タブルスが言った通りに再び雨が降り出した。
昼間なのにどんよりとした雲に覆われ、雨に濡れる町。
一行は宿を見つけ、ロフィスと荷物を預けて一息つくことにした。