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才能の芽

翌朝、リスイアが目覚めると、すでにザミアが起きて身支度を整えていた。

「ザミアさん、おはようございます」

「おう。おはよう。さすが、リスイアは優秀じゃのう。今起こそうと思っておったところじゃわい」

いつもより早いが、今日から稽古ということで、早めに起きることができて幸いした。

「これ、お主らも起きんか! 寝坊助どもめっ!」

ザミアが気持ち良さそうに寝ているタブルスとアビイを、手荒く叩き起こした。

「なんだ、地震か?!」

「火事??」

「アホどもめっ! 今日から稽古すると言うたじゃろう!」

「えー、こんな朝から?」

「まず一つ目! 早寝早起きじゃ! 健康第一! ほれ、顔を洗って着替えて来い!」

「ふあーい」

「ん? まだ起きとらんのか? 儂が目覚めの一発をブチかまさんといかんかのう」

「! はいっ!!」

タブルスとアビイは飛び起きて、リスイアも含めて走って顔を洗いに行った。


急いで準備し、外に集合すると、ザミアがニッコリと微笑んで待っていた。

「ようし、揃ったの。では、まずは朝の散歩からじゃ」

「散歩かー。よかったな、初日から厳しくなくて」

タブルスが二人に小声で言うと、ザミアにも聞こえたのか振り返ってニヤリと笑った。

「あー、ただの散歩じゃないぞよ? 時々儂が攻撃を仕掛けるからの。ぼんやりしてると怪我するぞ?」

「え…」

「ほれ、今日も良い天気じゃのう」

三人は天気とは裏腹に、不安が過ぎった。


朝食前、ボロボロになった三人組が宿の前に倒れている。

「ホッホッホ。まあ、今日はこのくらいにしておいてやるかの。さて、朝飯じゃ〜」

「なに、この爺さん…鬼の生まれ変わり?」

「手加減するって言ってなかったっけ…」

「もう立てない…」


なんとか朝飯に辿り着き、一息ついた頃、お茶を啜っていたザミアが話し出した。

「カナンとやらが来るまで時間が出来たからのう。おお、そうじゃ! お主らに宿題を出そう」

「宿題??」

「うむ。これから自分自身を鍛える為に、基礎体力作りと自身の能力を見つけて伸ばす訓練じゃ」

「それで、具体的には何をすればいいの?」

アビイが尋ねる。

「それは各自で探すのじゃ。もし、自身の能力を発見したら儂に伝えておくれ」

「分かりました」


三人は外に出て、集まって話していた。

「体力作りは各自でやるとして…自分の能力って言ってもなあ」

「アビイは生き物と話せるからそれじゃない?」

「リスイアも出来てたでしょ?」

「あれはアビイのように出来たらなあって思って、たまたまだよ」

「うーん…」

タブルスは見当もつかないようだった。

「タブルスはさ、食事食べるのと、逃げるのと、寝るの早いよね」

「それは、俺がお子様だって言いたいのか? リスイア」

「違うって! 早いって言うのも一つの能力じゃない?」

「え? そんなんで良いのか??」

「分からないけど、それも一つの特徴でしょ? だけど、そうやって一つ一つ、人より出来ることを見つけていくしかないんじゃないかな?」

「そうだね。それもタブルスのいいところだよ!」

「そっかー。そうだな。とりあえず、今日は各自、自由行動して探してみるか」

「うん!」

「じゃあ、また夕方会おう!」


三人はそれぞれで自分の能力について探ってみることにした。

そうはいっても、長所や短所、人より優れていることなどは自分自身ではなかなか見えにくものだ。

他人のことなら分かるのにと、リスイアは考え事をしながら歩いていると、通り道に座っている怪しげな人に声をかけられた。

「ちょいと、そこのお若い方」

リスイアは辺りを見回すが、他に人はいなかった。

「あの、僕のことでしょうか?」

「ええ。お若い方。貴方、何かお悩みではありませんか?」

「んーまあ」

「実はここに、なんでも願いが叶うブレスレットがあるのですが、いかがですかな?」

リスイアは、この胡散臭い人に高値で売りつけられるのかと(いぶか)しがった。

「もうこれは最後の一個なのですよ。これが売れたら店仕舞いするので、もう手に入らないかもしれません」

「それで、それいくらするんですか? ホントになんでも願いが叶うの??」

「最後ですからお安くしておきますよ。ほら、是非お手に取って」

怪しい物売りは、無理矢理リスイアの手に身に付けさせた。

「ほら、思った通り。貴方様に大変お似合いです」

「そ、そう? じゃあ、買おうかな?」

「ありがとうございます。神のご加護があるようにと念が込められておりますので。ただし、効果は一つの願いのみ有効ですので、良く考えてお使いくださいませ」

「そっか。ありがと」


リスイアはキラキラと光る宝石が散りばめられた腕輪を身に付け、何を願おうか考えながら歩いていた。

何を願おうかなー。

やっぱり、『俺の才能を教えてくれ』かな? うーむ…。

なんでもと言われると、他のことにしようかとか不埒なことを考えてしまう。

どこかの世界の魔王には、世界の半分をお前にやろう、と持ちかけられたとか。

それなら、この世界を救って欲しい、も可能な気がするのだが。

記憶を取り戻したい気持ちも勿論あるが、嫌な記憶だったらそのまま忘れたほうが幸せかもしれないし…。


「…よし、決めた!!」

リスイアは、心の中で腕輪に願った。

…。しかし特に反応はなかった。

これ、どうなの? あれ、もう叶ったの?? まあ、安もんだし、いいか。

叶う叶わないどっちにしろ、自分で見つければいいのだから。

リスイアは自分の一番の願いが、過去の記憶を取り戻すことより、これからの生き方について知りたいんだということに気付けたのでよかったと思った。

それならば、自分自身の力や仲間たちの助けによって叶う可能性が大きいのだから。

そういえば、他の二人は大丈夫だろうか。


夕方、リスイアが宿に帰るとみんな集まっていた。

「おー、リスイアも戻ってきたか。さて、お主ら今日の成果はどうだったのじゃ?」

タブルスが何故かニヤニヤしている。

「フッフッフ。ザミアさんよう、俺は遂に自分の能力に目覚めてしまったぜ」

「ほう。して、どんな能力なのじゃ?」

「それは…これから分かるはずだ。この腕輪があればな!」

タブルスは高々と腕を伸ばした。

「えっ! その腕輪…僕も持ってるよ」

リスイアが告げると、今度はアビイも腕を見せてきた。

「僕も、ほら」

「え…」

三人は硬直した。

その中でザミアだけが面白そうに笑うのを堪えている。

「…フフ。フッハッハッハ! もうダメじゃー。お主ら見事に騙されてしまったのう」

「???」

三人はまだ状況が理解できないでいる。

「え…これって、どういうこと?? 僕は確か、最後の一個だからって」

「俺も」

「僕もですよ」

更に分からなくなった。

「いいか、お主ら。その腕輪売りというのは、こういう格好じゃなかったかの?」

ザミアがあの時に見た怪しい売り子とそっくりの格好をした。

「あー、それそれ! …て、なんでザミアさんが知ってんの?」

「もしかして…ザミアさんが??」

三人はやっと理解した。

「当たりじゃ、儂じゃよ。やれやれ、やっと分かったのか。しかし、三人揃ってこうも簡単に騙されるとはのう」

「じゃあ…この腕輪の効果も嘘??」

「そうじゃのう。タブルス、お主は何を願ったのじゃ?」

「え? 何って…。『俺の能力を解放し、世界に俺の名を轟かせろ!』って」

「おお! 大きく出たのう。アビイは?」

「僕は『世界中に存在する全てのモノと仲良く話したい』って」

「ほう。なるほどのう。さて、リスイアはどうじゃ?」

リスイアは少し考えて答えた。

「僕は『僕の能力を目覚めさせよ!』と」

「…そうか。失われた記憶は取り戻したくはないのかね?」

タブルスはこちらをじっと見つめ、アビイは何のことかわからないようだった。

「…それも考えましたが、僕は過去のことよりも、今は歩き出したこれからのことを大事にしていきたいんです」

「ふむ。そうか…」

ザミアは少し黙ってから、椅子に深く腰かけた。


「この腕輪はの、街の行商人から買った、ただの装飾品じゃ」

「なんだ、やっぱりな。怪しいと思ったぜ」

タブルスが実は信じていなかったかのように言った。

「しかしじゃな、願いが叶うかどうかは、お主ら次第というところじゃの」

「どういうこと??」

「先ほどお主らが願ったこと、それは誰かに頼っていては叶えられんことじゃが、自分の力でやる気になれば叶わないこともないと言うておるのじゃよ」

「なるほど…」

「まあ、努力しないものには例え神がいたとしても、手を差し伸べぬじゃろうということじゃな」

「そっか。そうだな。うん」

タブルスも理解できたのか自分に言い聞かせるように返事をした。

「ま、いずれにせよ、自己を見つめ直して、自らにできることを見極めよ。日々修練じゃよ」

「はい!」

色々あった一日だったが、自分の本当の気持ちに少し触れたような気がした。

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