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闘牛士

本屋から出たリスイアは、表通りを歩いていると、タブルスとアビイの姿を見かけた。

「おーい、タブルス! どこ行くんだ?」

「ん? ああ、リスイアか。これから闘技場に行くんだ」

「闘技場??」

「恐ろしい猛獣と人の一騎討ちだってさ。リスイアも行ってみない?」

アビイも楽しそうに話す。

「もしかしたらその中に、俺らの仲間がいるかもしれねーしよ。面白そうだろ?」

「そうだね。じゃあ行ってみようか」


街の南側にある円形の大きな建造物に、たくさんの人が押し寄せていた。

中に入ると、段差があるすり鉢状の観客席、そして最下段の中央には闘いの舞台が準備されているところだった。

人の並みを掻き分けて空いてる席に座ると、地響きのような観客の声援が響いた。

「うおおおー! いいぞー、サンタウルス!」

「さすが闘牛王!」

「キャー!! 素敵よ、サンタウルス様~」

闘牛場でヒラリと華麗な身のこなしを披露しているのは、つばつきの黒い帽子の闘牛士で、声援に応えるように手を上げた。

「なんだ?! すげえ人気だな」

「そりゃそうさ! なんてったってこのポルカリートで一番の闘牛士、サンタウルス様だからな。どんなに獰猛な猛獣にでも臆することなく立ち向かう勇気。ありゃー、男でもしびれちまうねぇ」

「うわー、スレスレで避けたよ!」

観客の男が話している間、アビイも隣で興奮している。

「そうそう。初心者向けの小型牛で体験できるイベントもあるらしいからよ、お前さんたちもやってみちゃどうよ?」

「おお! そんなのがあるのか? おい、リスイア。ちょっとやってみようぜ」

「あんなの、絶対無理だよ!」

「初心者用は小さいやつだから、きっと大丈夫だって」

「でもなー…」

「とりあえず、どんなもんか近くで見てみようぜ?」


三人は闘技場の裏口から練習場に入っていった。

ここの牛たちは餌を食べたり歩き回ったり出番待ちをしているようだ。

その近くには小さめな子牛もいた。

近くにいた係りの人にタブルスが話しかける。

「すいません。ここで初心者でも挑戦できるって聞いたんだけど、それ用の牛ってこいつですか?」

子牛を指差してタブルスが尋ねる。

「ああ、そうだよ。普段はこんなに可愛い子なんだ。けど、子牛っていっても、結構力あるからね。もし対戦するなら気合い入れてやらないと怪我するよ?」

「どうだよリスイア? 俺はやってやるぜ!」

「僕はいいよ」

「なんだよ、つれないなー。そんなんじゃこの先、危ない目にあっても仲間を守れないぜ」

「うーん、しょうがないなー。わかったよ。やるよ」

「おー、良く言った! それでこそ我が友だ!」

「ホントに大丈夫なの? リスイア」

「ん…たぶんね」

「リスイア、ちょっと待ってて」

アビイはそう言うと、子牛に向かって何か小声で呟いた。

「お手柔らかにねって伝えといたよ」

「アビイ、ありがとう。まぁ、頑張ってみるよ」

「じゃあ、僕は観客席で二人を応援してるからね!」

「おう! カッコいいとこ見せてやるぜ!」

タブルスがガッツポーズを見せた後、アビイは手を振って観客席へと戻っていった。


「さぁ、間もなく、闘牛士に憧れる勇気ある若者たちの挑戦が始まります!」

アナウンスの後、タブルスが闘技場に立った。

その後、あの子牛がやってきたのだが、先ほどみたときより鼻息荒く、イラついているようだった。

「いよいよ、最初の挑戦者タブルス君です」

拍手と共に観客の歓声が響く。

「頑張れよ、坊主!」

「チビるんじゃねえぞ! ワッハハハハ!」

タブルスは、少し緊張した面持ちで、子牛を睨み付けていた。


「それでは、始め!」

審判をしている男が旗を振り下ろすと、子牛が片足をかき鳴らして、タブルス目掛けて突進した。

「うわっ! こっちくんな!!」

深紅の布を持つタブルスの手は震えていた。

なんとか子牛の突進を回避し、タブルスは距離を取った。

「頑張れー! タブルス!」

リスイアも力が入り、側で見ていて心が熱くなった。

「こいつ、さっきと目の色が違うぞ!」

タブルスは危険を感じながら、子牛と対峙する。

子牛は体制を整えて、足をかいて興奮を高めているようだった。

「ようし、来い!!」

タブルスが覚悟を決めて布をヒラヒラさせる。

揺らめくその深紅の色に子牛の目が光り、全速力でタブルスに突撃した。

「うぉぉぉおりゃー!!」

タブルスは必死に布を回転させ、安全地帯へと逃げ込んだ。

「おおおおおー!!!」

歓声が最高潮に達する。

なんとか無事に終わったようだ。

タブルスも満足そうな顔で歓声に応えた。


「やったね、タブルス!」

タブルスとリスイアはハイタッチを交わした。

「おうよ! 次はお前の番だぜ!」

「うん! 頑張るよ!」

肩を抱き合わせてエールを送ると、タブルスは控え室に戻り、リスイアは闘技場へと向かった。


「次の挑戦者は、リスイア君です!」

先ほどと同じように、リスイアは観客から温かい拍手と声援で迎えられた。

あの子牛は、練習場で見た時よりも強く大きく見えた。

タブルスと闘ったせいか少し呼吸が乱れている。

「それでは、始め!」

スタートの合図があると、子牛はじわじわと様子を見ながら、タイミングを見計らっていた。

子牛も大変だよな、見せ物のためにこんな対決させられて…。

恐怖心よりなんだか急に、子牛が気の毒に思えた。

それでも子牛は狂ったようにリスイアに向かって突進してくる。

リスイアは難なくそれを回避した。

観客の歓声が響く。


「さぁリスイア君、華麗に子牛を避けました!」

子牛は疲れをにじませつつも、こちらを睨み付けて構えている。

もう止めようよ。僕は君と闘いたくないんだ。

そう心で伝えたが、子牛は体制を崩さなかった。

やはり猛獣には気持ちが伝わらないのか。

そう残念に思っていると、子牛がまた突進してきた。

リスイアは布を巻いて交わしてから放り投げた。

「おおっと、リスイア君。どうしたのでしょうか? 赤い布を放り投げました!」

子牛は息を整えながら、リスイアを見つめている。

「ようし、良い子だ。もう闘わなくていいんだよ」

少しずつリスイアは子牛に近づく。

「おい! 危ないぞ、君!」

子牛は赤い布を持たないリスイアを見て、興奮はしているが黙って動かない。

リスイアは手の届きそうな距離まで子牛の前に来た。

係りの人たちは子牛を取り押さえようと、背後から近づいている。

「ほら、僕は何も持っていないよ?」

リスイアは両手を上げて見せた。

興奮していた子牛は、何故か少しずつ平常心を取り戻しているようだった。

リスイアはゆっくりと子牛の横に周り、子牛に触れた。

「ようし、もう大丈夫だよ。お母さんのとこに帰ろう」

子牛から闘争心が消えた。

すぐに係りの人たちが捕まえて、闘技場から出していった。

「すげぇ…あの子、あの暴れ牛の子を手懐けやがったぜ」

観客たちは唖然としていた。

「なんということでしょうか? 荒れ狂う闘牛を従えてしまったー!」

アナウンスの後、どよめきと歓声が沸き上がった。

リスイアは照れ笑いを浮かべながら退場していった。

「…まったく、目立たぬようにと言っといたのにのう…」

観客席にいたザミアはそう呟いた。


控え室に戻ると、タブルスとアビイが待っていた。

「お疲れ、リスイア! すげぇな! あの怒り狂った子牛を押さえ付けるなんてさ」

「二人共、凄くカッコ良かったよ! だけど、どうしてリスイアはあの子牛に向かって行ったの?」

アビイが心配そうに尋ねた。

「なんだか見世物にされているあの子が可愛そうに思えてさ。あの子牛はね、ただお母さんと離されて怒っていたんだよ」

「なるほどねー」

「リスイア、お前よくそんなこと分かったな。アビイの真似なら危険だったぞ?」

「なんとなくだよ」

「あんま無茶するなよなー」

タブルスとアビイとリスイアは無事に終わり、笑いあった。

すると、コンコンとノックする音が聞こえた。

「はい」

控え室の扉が開くと、最初に見た闘牛士のサンタウルスがやってきた。

「お疲れさま。いやー、君たち凄かったね。なかなか勇気のある若者たちだ」

「うわー、本物の闘牛士だ! ありがとうございます!」

興奮したタブルスはサンタウルスと握手した。

「君も見てたよ。子牛とはいえ、あのやんちゃ牛をなだめるなんて。初めてみたよ。ハッハッハッハ」

「そうですか? ありがとうございます」

「君たちどうだい? 本格的に闘牛士を目指してみないかい?」

タブルスとアビイ、リスイアは顔を見合わせた。

「いやー、そんな、プロの闘牛士様に誘われるなんてなー」

「ちょっとタブルス!」

調子に乗ったタブルスをリスイアが制した。

「若き勇者はいつでも歓迎するよ! じゃあ、またね」

サンタウルスは、爽やかな笑顔を残して去って行った。

「おい、闘牛士だってー!」

「ちょっと、タブルス! 本来の目的忘れてない?」

「はっ! すっかり忘れてた!」

「やっぱり…」

「リスイアもあんなに目立っちゃって、大丈夫なの?」

「うっ…」

そういえば仲間探し、忘れてた…。

「今日は日も落ちてきたしな、明日頑張ろうぜ!」

「…このことはザミアさんには内緒ね」

「僕が見たところ、観客の中には見かけなかったし、もう戻ろうよ」

「そうだね…」

はしゃぎ過ぎたお兄さん二人は、弟に連れられて宿に戻ることになったのだった…。

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