エピソード6 盗賊団④
つまり、僕がマウゼン卿と練った作戦はこうだ。
敵の統率の取れた動き、罠を張る戦術家としての性質から、盗賊頭は戦場経験がある可能性が高い。
その割には戦術的に全く無意味な一騎打ちに興じ、まるで「信念」や「誇り」をバカにするような態度、いや、それを「信じていない」あるいは「信じたくない」ような態度を取っていた。
これらの点から、盗賊頭は、よくあるパターンとして「信念を貫けなかった騎士くずれの盗賊」ではないかと仮定できる。
そこでわざと騎士っぽく振舞い、盗賊頭を怒らせる作戦に出ることにした。
「刺突剣」はおとりだ。激昂した盗賊頭がいつもの方法で罠にはめようとするのを誘発するため、あえて型にはまった「勇者式」の技を使用したのだ。
案の定盗賊頭はいつもの方法でバトルアックスを大げさに振り、こちらが避けて懐に入ってきたところをナイフで刺そうと誘導してきた。
そこで、懐に入る直前にバックステップで「刺突剣」をキャンセルし、罠にはめようと無防備になっていた盗賊頭に向けて一刀両断を放ったのだ。
正直、うまくいくかは五分五分だったけど、なんとかなったようだ。
――「てめぇ、よくも兄貴を!!」
激昂する子分たちが僕に襲い掛かろうとする。
「……待て」
盗賊頭がそれを制する。
「一騎打ちでケリをつけるといったろ。俺に恥かかせんな」
「女は返してやれ」
小屋の裏手の倉庫。
イリナは縛られ、そこに捕らわれていた。
「リュート! リュート!! うわぁぁん」
イリナは解放された安ど感からか、先ほどから僕にすがりつき泣きじゃくっている。
「もう大丈夫だよ。よく頑張ったね」
僕はそういって、イリナをやさしく抱きしめ、そっと頭をなでる。
本当に良かった。
策を授けてくれたマウゼン卿にも、改めて感謝をしなければいけない。
――結局、僕たちの読み通り、盗賊たちはもと護衛騎士団の団員だったようだ。
「ある事情」により、騎士団を追放されたらしい。
食うに食えず、やむなく盗賊に身をやつしていたといったところだ。
さて、どうしたものか。
同情すべき余地があるとはいえ、彼らが行っていたのは立派な犯罪行為だ。
思案していたところへ、なんとイリナがとんでもない提案をしてきた。
ミナス村の南の森で採れる薬草で、生計をたてないかというのだ。
「ミナス村の南の森は、自然の薬箱といわれるくらい、たくさんの薬草が採れるんですけど、最近は魔物が活性化していて、すごく危険なんです」
「でも皆さんは元騎士なので、その点は大丈夫だと思います」
「まぁ確かに。ミナス村程度の魔物なら俺たちにゃ楽勝だ。だが、俺らは薬草の知識なんかねーぜ」
盗賊団員の一人がそう答える。
「任せてください」
イリナはえっへんと張り切ると、薬草図鑑とお手製のレシピノートを取り出した。
「こちらの薬草図鑑で、どの植物が薬になるか調べることができます」
「あと、私が作った薬草の調合レシピがここにありますから、使えそうなものをいくつかお渡ししますね♪」
確かに、もしかしたら本当にいいアイデアかもしれない。
戦争で物資が不足しているから、医薬品のニーズは高いだろう。
特にこの辺りは田舎だから、慢性的な供給不足に陥っている。
採取した薬草を医薬品として加工し、ミナス村=ベルカ間を中心に交易ルートを確保して供給すれば、あんがい良い稼ぎになるかもしれない。
僕がそう指摘すると、イリナは嬉しそうに、えへへと笑った。
「なるほど! なんだかいけそうな気がするぜ!!」
「すげぇ! そんなこと思いつきもしなかった!!」
「さすがだぜ、女! いや、イリナ! いやさ、イリナの姉御!!」
盗賊団員たちが口々に賞賛する。
イリナも褒められて「えへへへへ」とまんざらではなさそうな様子だ。
その様子を眺めていた盗賊頭が、観念したといった様子で口を開く。
「やれやれ、バカには勝てねぇな。好きにしやがれ」
こうして、この盗賊団の一件は、無事に決着がついた。
「リュートの兄貴! イリナの姉御! ありがとうございやした!!」
帰り際、来た時とは打って変わって、盗賊団から感謝の言葉をかけられながら、その場をあとにすることとなった。
盗賊団のアジトがあった森の出口まで来たところで、僕たちを待ち構える人物がいた。
巨大なバトルアックスを背に担ぎ、木にもたれかかりながら、腕組みをして僕たちを待っていたのは、あの盗賊頭だ。
「な、なんの用だ」
僕は思わず警戒する。
「そう警戒すんな。別にとって食おうってわけじゃねーよ」
「どこまで旅する気かしらねーが、おまえらの甘ちゃんっぶりじゃ、すぐ野垂れ死ぬのが関の山だ」
盗賊頭は、そこまでいって、にやりと笑った。
「部下たちが世話になった。お前らの旅の護衛、この俺が引き受けてやるぜ」
えぇ!!
なんと、盗賊頭は僕たちについてくるつもりらしい。
「俺はガイツ。ガイツ=バルデロだ。よろしくな、リュート!」