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エピソード4 盗賊団②

 僕は一旦深呼吸し、状況を確認する。


 まず、護衛騎士3名は、背から矢を受け、全員が落馬、重傷を負っている。


 続いて馬車左側

 歩兵3名は、茂みから奇襲をかけた盗賊2騎により蹴散らされ、こちらも戦闘不能。


 最後に馬車右側

 こちら側の歩兵3名は裏切った、いや、手際の良さから考えて、最初から盗賊団の一員だったのだ。こいつらに今、剣で脅され、イリナを人質に取られている。


 状況は絶望的だ。


「武器を捨て、全員馬車を降りろ」


 裏切った歩兵、もとい盗賊団員がそう命令する。

 ここは従った方がよさそうだ。


「兄貴、だいたい片が付きやしたぜ」

 全員が馬車から降ろされたところで、盗賊団員が、合流した盗賊の1人にそう報告する。


「ぬるいもんだな」

 そういって一騎、僕らに近づいてくる盗賊がいる。


 短く刈り込んだ赤髪を後ろに流し、ヘッドギアを装着している。

 顔や腕には無数の傷跡があり、男が歴戦の戦士であることをうかがわせる。

 筋骨隆々、身の丈2メートルはあろうかという大男が、騎馬の上から僕らを睨みつける。


 他の団員とは違う、圧倒的なオーラから、この男が盗賊団のボスであることが容易に想像できる。


「さて、見ての通り俺たちは盗賊だ。そして見ての通り金目の物が欲しい。おとなしく言うことを聞けば、無一文だが無事に帰れる。抵抗すればあの世行きだ。どうするね?」


 盗賊頭はそう問いかける。


 各方面に展開していた盗賊団は全員馬車のまわりに集まってきている。

 その数全部で10人。


 一方こちらは、戦えるのは僕一人。しかも武器は取られ、おまけにイリナを人質にとられている。


 仕方ない。ここは一旦連中の要求をのみ、これからのことは無事に解放されてから考えよう。


「よーしよし。素直な奴は俺は嫌いじゃないぜ。てめぇら、さっさと金品を回収しちまいな」


 盗賊頭は満足そうに指示をだす。


「兄貴、この女どうしやす? すげぇ上玉ですぜ。」

 イリナに剣を突き付けている盗賊が、そう問いかける。


「どれどれ……。ほぅ、確かにまだガキだが上玉だ。変態趣味の貴族どもに売れば、いい金になりそうだ」


 なにやら不穏な流れになってきた。

 イリナは恐怖で真っ青になり、目に涙を浮かべながら、無言で僕に助けを求めている。


 イリナを売るなんて冗談じゃない! とっさに声を張り上げる。

「待て!」


「あぁ?」

 盗賊頭はドスの聞いた声で、僕を脅す。


「約束が違うじゃないか。イリナを開放しろ!」

 ひるまずに、盗賊頭を睨み返す。


「オイオイ、この状況で何言ってんだテメェは」

 盗賊の子分がへらへらと笑いながら、僕に近づいてくる。


「いぎぃ!?」

 子分が射程距離に入ったところで、僕は一瞬で子分の腕をつかみ、関節を決める。


 これでも訓練を受けた軍人だ。武器がなくても、この程度のチンピラなら敵ではない。


「てめぇ!?」

 他の盗賊たちが武器を構え、僕に一斉に襲い掛かろうとする。


「待て」

 盗賊頭がそれを制する。


「いいじゃねーか。男だねぇ、惚れた女のために無謀にも悪に立ち向かう。俺はそういうの嫌いじゃねーぜ」


 そう言いつつも、明らかにバカにしたような笑みをうかべつつ、盗賊頭は続ける。


「お前さんの心意気に感動したよ俺は。やっぱり男はそうでなくちゃ。そこで兄ちゃんに提案だ。どうだ? 俺と一騎打ちでケリをつけねーか?」


 一騎打ち? 本気で言っているのか?


 自信があるのだろう。当然だ。僕より二回り以上でかい大男だ。

 だが、もしかしたらこれはチャンスかもしれない。


「いいだろう。その勝負受けて立つ」


「そうこなくっちゃ。オイ、この兄ちゃんに武器を返してやれ」

 盗賊頭は、にやりと笑い、そう指示する。


 ギャラリーがぐるりとまわりを囲む中で、僕は盗賊頭に対峙する。

 イリナが不安そうな顔で僕を見ている。


「さーて、覚悟はいいかい、兄ちゃんよ」

 盗賊頭は巨大なバトルアックスを軽々と振り回している。風切り音がここまで聞こえる。


 とんでもないでかさだ。連邦のレーザーブレードと同じぐらいの大きさのものを、重力制御なしで平然と持ち上げている。


 やはりこの男、とんでもない怪力の持ち主だ。

 あんなもので斬られたら……。思わず恐怖に身がすくむ。


 だが、逆の見方をすれば、こんなわかりやすい相手もいない。


 相手はどこからどう見てもパワータイプ。武器の形状からして、攻撃の軌道や射程も容易に予測できる。


 あとは恐怖心に打ち勝ち、冷静に戦えば、決して絶望的な勝負ではない。


「おらぁ! 行くぞ!!」

 盗賊頭は大きな掛け声とともにバトルアックスを後ろ手に振りかぶり、全力で振り下ろす。


 凄まじい威力だが、避けるのはたやすい。


 僕は初撃をさっとかわす。


 的を失ったバトルアックスが、大きな音を立てて地面にめり込む。

 でかい分、小回りが利かない。今のうちに懐に入り込めば、僕の勝ちだ。


 僕は勝機を感じ取り、一気に距離をつめる。


 いける……!


 そう思って距離をつめた瞬間、腹部に激痛を感じた。


 いつの間にか、腹にナイフが突き刺さっている。

 何が起こったのか、全くわからない。


「オイオイ、戦闘中によそ見してんじゃねーぞ!」


 言われて気づく。しまった、敵の懐で無防備に……。


 次の瞬間、盗賊頭の全力の右ストレートを顔面に浴びてしまった。

 天地がひっくり返り、強烈な衝撃とともに、地面に崩れ落ちる。


 ギャラリーが大爆笑しているのが聞こえる。


「ぶはははは! さ、最高だ!! ここまできれいに決まるとか、もはやギャグだろ」

「やべぇ、腹がよじれる。コイツ俺たちを笑い殺す気か」


 何が起きたのかは全くわからなかったが、どうやら、「はめられた」らしい。


「残念だったなぁ」


「あわれ勇者様は勇敢に巨大な悪に立ち向かうも、結局一太刀も浴びせられずに無様にはいつくばってしまいましたとさ。女は守れず、勇者様の冒険はここで終わってしまうのでした」


 盗賊頭は、僕を見下しながら、芝居がかった調子でそうバカにする。

「さて、気が済んだか。撤収だ」


「リュート! リュート!!」

 イリナの悲鳴が聞こえる。


……くそ、冗談じゃない。絶対にイリナを渡さない。

「待て」


 僕は地面に倒れたまま、盗賊頭の足首をつかみ、声を絞り出した。

「まだ終わっちゃいないぞ」


 盗賊頭は、先ほどまでの小バカにした様子とは打って変わり、心底ウザいといった様子で、無言で僕の手を振りほどく。


「逃げるのか……」

 もう一度、今度は反対側の手で足首をつかむ。


 次の瞬間、盗賊頭の強烈な蹴りが腹に炸裂する。先ほどナイフで刺された傷もあり、腹部に再び激痛が走る。


「いくぞ、白けた」

 盗賊頭が、その場を離れようとする。


「イリナを、離せ……」

 もう一度、盗賊頭に追いすがろうとする。


 立ち去ろうとしていた盗賊頭は、くるりと踵を返し、僕に近づくと、ものすごい形相で何発も蹴りを入れてきた。


「ムカつくんだよ! てめぇみてぇな甘ちゃん野郎をみてるとな!」

「何も守れねぇくせに! 勇者気取りやがって!!」


「あ、兄貴?」

 先ほどまで僕をバカにして笑っていた子分たちも、盗賊頭の豹変ぶりに言葉を失っているようだ。


「やべぇ! 救難信号が上がってやがる。誰かが駆けつけてくるかもしれねぇ!!」

 その時、子分の一人が何かに気づいた様子で、そう叫ぶ。


「あぁ?」

 肩で息をしながら、幾分か冷静さを取り戻したと見える盗賊頭が、子分の指さす方向を見る。


 空に赤い魔法陣が見える。

 場所は、ちょうど護衛騎士が戦っていたあたりの上空だ。


 救難要請を意味する魔法陣だ。


 少なくとも神聖バームガルド皇国に住むものなら、誰かが助けを求めていることがすぐにわかる。


「チッ、あの隊長の仕業だ」


「少々遊びすぎた。てめぇら、すぐに引き上げるぞ。商人どもの身ぐるみを剥いでる時間はねぇ。馬車の積み荷と、女だけさらって撤収だ」


 盗賊頭の命令で、盗賊団があわただしく撤収の準備に取り掛かる。


「リュート、リュ……」

 イリナは何かで口をふさがれたのか、その続きを聞くことはできない。


「待て……」


 もう一度声を振り絞る。


 盗賊頭は騎乗すると、去り際にもう一度だけ僕に近づいてきて、地面に這いつくばる僕に一言つぶやく。


「夢見てんじゃねーよ。現実はそんなに甘くねぇんだ」


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