エピソード1.5 出会い(イリナ視点)
エピソード2 出会い
女の子がリュートに出会うまでの回想編です。
コンコンコン。
扉をたたく音が聞こえる。
「イリナや、イリナはおるか?」
「はい、司教様」
私は玄関の扉を開ける。
「おはよう、イリナ。すまんが薬の調合を頼みたくてね」
「はい、司教様、何が必要ですか?」
私はイリナ。イリナ=ランスバーン。
神聖バームガルド皇国、ウォーレンベルク領、ミナス村のお薬屋さんです。
「わかりました。クリアシロップですね」
「うむ、孤児院のカイ君がお腹をこわしていてね」
「それは大変! すぐに準備しますね」
私は早速調合の準備にかかったけど、すぐに材料のロートハーブを切らしていたことに気づく。
うーん、そういえばこないだ行商人さんが来た時に買っておかなかったんだ。
「なんと、それは困ったのう。行商人が次に村に来るのは2週間後じゃ」
そうだ! 南の森なら、今の季節はベルベリーの実が採れるはず。
ロートハーブの代わりに使えるかも。
「むぅ、確かに。さすがに薬草に詳しいのぉ」
「えへへ」
「じゃが女の子一人で行くには危険じゃ。どうも最近、魔物が活性化しておるようじゃ」
「大丈夫です。護身用の杖も持っていきますし、いざとなったら魔法でやっつけちゃいますから」
「お前さんは治癒魔法しか使えんじゃろがい。それに魔法を使えることがもし誰かに知られたら……」
確かにそれはまずい。でも、お腹をこわして苦しんでいる子どもを放ってはおけない。
「うーむ、そこまで言うなら。じゃが本当に気をつけるんじゃよ」
「ハーイ。行ってきます」
そういって私は愛用の杖とポーチと、薬草図鑑と調合セットをもって家を飛び出した。
最近は各地で魔物が活性化し、あちこちの村や町で被害が出ているみたいです。
あと、北の果てでは、「れんぽう」との戦争が激しくなっていて、どこの町もなかなかモノが入ってこないみたいです。
こんな時こそ、お薬屋さんとして頑張らなくちゃ。
私はそう気合を入れて、南の森に続く街道に向かった。
街道を道なりに30分も行くと、すぐに目的の南の森が見えてきました。
道中、魔物どころか、人っ子一人見当たりません。
「よかった。もう、司教様も脅かして」
森に入ってすぐ、少し開けた日当たりのいい場所に、ベルベリーの実がたくさん生っているのが見つかりました。
「やったね! なんちゃって……」
自分で言って少し恥ずかしくなりながら、ベルベリーの実を摘んでいると、
「あっ、ズイカの花がもう咲いてる。そういえばタイルンおじさんが、関節が痛いって言ってたっけ。飲み薬の材料に摘んでこう」
「あっちにあるのはジャノ草だ。咳止めにはこれが一番♪」
夢中になって材料を集めていたら、気が付くと随分と森の奥に来ていました。
「いけない、そろそろ戻らないと」
はっと我に返り、来た道を戻ろうとすると、バキバキッ、ミシッと木が折れる音が聞こえてきます。
急に怖くなって、慌てて帰ろうとすると、足をすべらせて転んでしまいました。
「いったー……」
立ち上がろうと思ったそのとき、
「フゴッ、フゴッ」
聴きなれない鳴き声が耳元で聞こえました。
ハッと振り返るとそこには、身の丈3メートルはありそうな巨大なオークが、獲物を見つけたと舌なめずりをしていました。
エピソード2、リュートがショックガンを構えるシーンへ。