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エピソード1 出会い

 ここはどこだろう?

 リュートは目を覚まし、自分が見覚えのない海岸に倒れていることを認識し、困惑する。


 ズキン、右腕に激痛が走り、同時に初出撃の記憶を思い出す。

「そうだ、戦闘は! 先輩は、伍長は、隊長は無事か!」


 慌てて起き上がろうとするが、体が重くて動かない。

 どうやら、着ていたバトルアーマーのエナジーが切れて重力調整が効かないらしい。


「仕方ない。一旦パージするしかないか」


 僕はアーマーを緊急パージし、下に来ていた防護服姿になってアーマーの残骸から這い出した。


 改めて、自分がどんな状態か認識する。


 右手の激痛の正体は大やけどだった。防護服が溶けて張り付いて、その中がどうなっているのか想像もしたくない。


 服と肌が焼ける不快なにおいが、つんと鼻につく。


 右足もぐにゃりと変な方向に曲がり焼け焦げ、ほとんど感覚がなく、鈍い痛みのようなものしか感じない。


「まずいな、すぐに医療センターで治療を受けないと……」


 そういって近くに転がっていた木の棒を松葉づえ代わりにし、ふらふらと立ち上がる。


「そうだ、一応何か武器を」

 バトルアーマーの残骸を振り返る。


 バトルアーマーは、全身に着用するタイプの戦闘用ジャケットだ。


 アーマーの重力・電子制御システムにより、数トンはあるレーザーブレードや対空ランチャーを軽々と担いだり、振り回したりできる。


 ただし、エナジーが切れては、常人ではこれらの装備を持ち上げることすらできない。


「これなら」


 中からショックガンを拾い上げる。

 小さなハンドガンだが、最大出力で撃てば、自動車でも木っ端みじんにできる代物だ。


「ここはどこだろう」


 さっきから無線は雑音ばかりで全く通じない。手元のマップデータも―No DATA-の文字が浮かび上がるだけで、なんの情報も示さない。


「とにかく、人のいる場所に」

 そういって改めて周りを見渡すと、海岸から森に通じる道が見える。


 他に道らしきものはない。

 覚悟を決め、森に踏み込んだ。




 森に入ってどれぐらい時間が経っただろう。


 とにかく暑い、いや、熱いか?


 気密性の高い防護服のせいか、それとも傷が熱を持ったせいか。

 刺すような熱と痛みで、意識がもうろうとしてくる。


「こんなところで倒れたら、バーナード大将や、ジルに合わせる顔がない」

 歯を食いしばって前に進む。


 その時

「――ったー」


 どこかで女の子の声が聞こえた気がする。

 周りを見渡すと、木立の向こうに女の子が尻もちをついた格好で転んでいるのが見える。


 よかった。何とか人に会えた。


「あの……」

 声をかけようとした途端、ただ事でない事態に気づく。


 女の子の後ろから、どう見てもパワータイプと思われる、大きな魔獣が迫っている。

 女の子もそれに気づいたようだが、金縛りにあったように目を見開いたまま動かない。


「――ッ!」


 とっさに、ショックガンを取り出し、最大出力で魔獣を撃つ。


――反動が強すぎるから、生身で最大出力は絶対に使うな。――


 一瞬、ケイマン隊長の教えが頭をよぎったが、ためらわなかった。


 次の瞬間、反動で体ごと吹き飛び、何かで頭を強烈に打った。

 意識が沈んでいくのがわかる。


 ぼんやりと、女の子が駆け寄ってくるのが見える。

 よかった。無事だったみたいだ。


 そこで僕は意識を失った。



――目を覚ますと、木製の天井と、柔らかなランプの光が見える。


 ズキズキと、頭が痛む。

 思わず右手で額を抑える。


 右手!?

 慌てて右手を見る。やけどどころか、傷一つない。痛みも完全になくなっている。


「足は!」

 そういって起き上がろうとするが、ズキンと頭が痛み、体が思うように動かない。


「あっ、目が覚めましたか。良かったです。まだ起き上がらない方がいいですよ」

 聞き覚えのある女の子の声がして、僕は顔だけをそちらに向ける。


 美しく、柔らかそうな栗毛色の髪がふんわりとカーブし、肩の先まで伸びている。

 深く吸い込まれそうな青い青い瞳。


 白地に青を基調としたローブを身にまとい、まだ少しだけ幼さを残しつつも、可愛らしい顔をした女の子がそこに立っていた。


「先ほどは本当にありがとうございました。私はイリナ。イリナ=ランスバーンです」

 そういって、女の子はぺこりと頭を下げた。


「いえ、とんでもない。こちらこそ。おかげで助かりました。僕はリュート。リュート=グッドホープです」


 体が動かないので、ベッドに横になったまま、会釈のような形であいさつする。


「リュートさん。いいお名前ですね」


 イリナと名乗った少女はそう言って僕の額に貼られた湿布を取り換える。

 ひんやりとした湿布と、温かい手の感触が心地よい。


「あの、イリナさん」


「イリナって呼んでください。リュートさん。どうされました?」

 イリナはそういって首をかしげる。


「あの、イリナ。ここはどこだい? デルタポリスかベインズ行政特区の近くの海岸かな?」


「でるた……ぽり?」

 イリナはきょとんと不思議そうな顔をする。


「ここはウォーレンベルク領のミナス村っていうところですよ」

 こんどはこっちが面食らってしまう。


(ウォーレンベルクリョ? 聞いたことないな。大陸南部の地方艦隊管轄地区の都市かな? そんな遠くまで流されてきたんだろうか?)


「あの、リュートさん」

 今度はイリナが何事か聞きたそうな顔でこちらを見つめている。


「ああ、ごめん。そうだ、僕のことも、リュートって呼んでくれると嬉しいかな」

 そういうと、イリナがぱっと嬉しそうな顔をする。


「ありがとうございます。リュートさん。じゃなかった、リュート」

「リュートはその、すごい魔法が使えるんですね。オークを一瞬でやっつけるなんて!」


(丁寧口調はそのままなんだ)

 少しほほえましく思いながら、僕は応答しようとする。


「いや、あれはもちろん、ショックガン……」

 そこまで言いかけて、ぎょっとする。嫌な汗が、全身から吹き出てくるのがわかる。


(まさか、ここって……)

 僕はがばっとベッドから起き上がり、かすれそうな声でイリナに質問する。


「イリナ……、ここはその、バームガルド皇国の、ミナス村かい?」


 イリナは僕が突然起き上がったことに驚いたのか、目をパチクリさせながら答えた。

「は、ハイ。そうですけど……」


 なんてことだ。


 どうやら僕は、「クロスゲート」の反対側、つまり敵国である神聖バームガルド皇国側に流れ着いてしまったらしい。


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