おっさん覚醒する
チュンチュン、ピピピ。
可愛らしい鳥の鳴き声がする。
…夢か。
俺が住んでいる部屋に鳥はいない。
せいぜい外から聞こえるカラスの鳴き声だ。
目を開けると、明るい。
…明るい!?
おい遅刻確定じゃないか!!
ビルとビルの隙間のワンルームマンションに日が差すのは、十時すぎてからだぞ!
はあ、と口からため息がもれる。
ぱちり、ぱちり、と瞬きをしてから、体がゆっくりと起き上がる。
急いでんだよ俺は…!
なんでこんなゆっくりなんだよ!
明るい部屋を見渡して、思わず体が硬直した…と思ったら、普通に立ち上がった。
なんだよ動こうと思うと動かなくて、止まったと思ったら動いて…じゃなくて!
なんだよこの部屋は…。
天井の高い、十畳はある部屋。
縦に長い窓から差す、明るい日の光。
シンプルだけどがっしりした机、ぎっしり本の詰まった本棚。
背表紙の文字は…日本語???
いや、読めるけど、日本語じゃない?
体は勝手に歩いて、ドレッサーへと向いた。
ドレッサーには当然のことながら鏡がついていて…、
濃い栗色の豊かに波打つ髪。
淡い茶色の大きな目。
そばかすの散った頬。
ちょっと上向きだけど、形のよい鼻。
濃いピンク色の唇。
俺は、知ってる。
鏡にうつっている少女を。
イザベラを。