乙女ゲームに物申したいおっさん
「これはクソゲーだろ…」
「黒崎さんから見たらうちのゲーム全部クソゲーですよね。
乙女ゲームなんて、くっつくまでが全てですよ、す・べ・て!」
俺より年下で後輩だが、このゲームの開発主任をまかされている今井が実も蓋もないことを言っている。
「俺はゲームのディティールが気になるんだよ!」
「黒崎さんの時代考証のお蔭で、『中世のリアリティ溢れる』とか評価されてありがたい限りです」
「何が中世のリアリティだ!女性が共学の学校に通うとかありえない!しかも逆ハーレムエンドがあるとかありえないだろうが!」
似非中世ヨーロッパ風の世界観で、学校に男女が身分関係なく通うとかもう世界観どころか世界崩壊レベルだ。
青や紫や緑の髪はもうあきらめた。
金色や赤色や紫色の目もあきらめた。
だってそうでもしないとキャラかぶりするもんな。
一作くらいは実際にありうる目や髪の色でキャラを作ることができたとしても。
何作も作ってたら他の作品とごっちゃになっちまう。
「『ジュエル・ソーサリー~恋の魔法にかけられて~』はうちではまあまあのヒット作なんですから。次回作の話もきてますし」
「あの話の続きなんかどうするんだよ…くっついた相手に捨てられるとこから始まるのか?」
「なんでそんな悲惨な始まり方なんですか。設定そのまま、新たな主人公、前作のキャラをチラ見せしつつ新たなイケメン登場でいいじゃないですか」
「新たな主人公とやらはせめて是非貴族の娘にしてくれ…」
「そんな共感を得にくいキャラを主人公にしてどうするんですか?平民の娘に決まってるでしょう?」
「新たな被害者作成ゲームの開発とか何の地獄…」
「幸せいっぱいのエンディングしかほぼ用意しない予定ですよ?」
「じゃあイケメンどもをみんな平民にしろ」
「平民の相手役は一人で十分。身分違いだからこその燃える恋!ですよ。身分違いの恋愛なんてうまくいかないって黒崎さんは言いたいんでしょう?けど、これ、ゲームですよ?」
「…確かに」
確かにそうなんだが。
主人公のイザベラのキャラメイクに少々手を貸してしまったせいか、つい感情移入してしまう。
しかも俺がこっそり仕込んだあるエンディングが、まったく攻略サイトに追加されない。
どうしてせっかくの魔法スキルを生かす冒険者エンドが報告されないんだ。
発売からまだ一週間だが、前作は3日で全てのエンディングが出揃ったっつーのに。
「やっぱりクソゲーだろこれは…」
いつの間にか今井は新しいゲームの仕様書を俺のデスクに置いて姿を消していた。
仕方なく仕事を再開すべく、パソコンに向き直った。