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時が鳴りて  作者: オオクマ ケン
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第7章 雪山

  第7章  雪山



 二千メートル級のホロホ山は、雪原地帯から続くシャンドル鉄道がまたぐ雪山だった。そのトンネルをようやく通り抜け、山頂にたどり着いたパーティルとロザは、そこで休憩をした。もう日が暮れる。

「ここまでようやく登り切りましたね。疲れました」

「大丈夫か?」

「雪がすごいですね」

山頂に積もる雪。

「夜になると吹雪くかもな。のんびりはしてられないぞ」

線路の脇に腰掛けるパーティル。進行方向に向かって右側は地形が盛り上がっていて、反対側は崖になっていた。少し雪が吹いてきた。

「寒いですね」

「のんびりしてると凍ってしまうぞ」

「そうですね」

十分ほど座っていると、何か音がした。

「今の何でしょう?」

「分からん。盛り上がってる方からだ」

見ると、二、三本の矢が飛んできて、雪に刺さった。

パーティルは体をのけぞった。

「何?」

ワーッという雄叫びが聞こえると、男たち五十人ほどが手斧を持ってパーティルとロザを囲んだ。

 ロザは手持ちキャノンを構える。

「なんだ、山賊か?」

「こんな雪山に・・・」

山賊たちは言う。

「身ぐるみは全部そこに置いてけ。殺されたくなかったらな」

ロザは動じずに口元をニヤリとさせ、辺りを見回した。

「お前ら、ウール皇国人か?」

「そうだ。飢えた狼たちさ。この雪山には砦がある。そこに住み、お前らのような旅人を襲うのさ」

「気でも違ったのか?」

「この戦時下に綺麗事は言うまいさ」

「そうだな、俺も同じだ。俺たちは同類だな」

「殺し合うか?多勢に無勢だぞ。我々は五十人からいる。お前らは立った二人だけ。しかも一人は女だ。ただの女だな。ということは戦えるのはお前一人。それに武器はその手持ちキャノンだけだと見る。それで俺たちを全員殺せるか?」

「どうかな?しかし、ここで身ぐるみを剥がされれば、当然寒さと雪で死ぬ。だったら差し違えるまでだ」

「いい覚悟だ」

「お互いにな・・・」

ロザがそう言ったとき、背後から悲鳴が聞こえた。五人の男が血を流して倒れていた。

「何っ?」

 そこに立っていたのは、ダガーを両手に持っていた目つきのきつい少女だった。後ろ髪を結んだ、まだ十五歳くらいの女の子が、まるで獣のような姿で立っている。

「誰だお前は?」

「俺か?俺はメンカ共和国の女剣士、リマ・クイスキル」

「殺れ!」

山賊の男たちは一斉にリマにかかっていった。リマは両手に持っていたダガーで山賊たちを素早く切り裂いていく。血しぶきが雪の上に飛ぶ。

リマの激しい攻撃によって、崖から落ちる山賊たちもいる。彼女のダガーさばきはものすごかった。立ち回りによってどんどん数が減っていく山賊たち。

リマは姿が消えたと思ったら、素早い動きで敵を切り裂き、また現れた。山賊たちは手斧を落としていく。そして腹や胸や足を切り裂かれていった。

 五十人を皆殺しにするのに十分とかからなかっただろう。敵を全滅させてしまった。

死屍累々の真ん中に立つリマ。

「ふうっ」

ロザとパーティルはそれを見ているだけだった。

「すごいな。お前、メンカ共和国の者なのか?」

「そうだ」

リマは返事する。

「なぜこんなところに?」

「あんたたちこそ」

「俺たちは旅の者だ。列車がダメになってしまってな。線路伝いにこの山の山頂までやって来たのだ」

「そうか。俺はカシミア王国に占領された西の国、メンカ共和国から逃げてきた。父と母はカシミア王国軍に殺されてしまってな。奴らは許せない」

「そうか。俺たちはそのカシミア王国へ向かっている」

「何?」

「まぁ、実際に目的があるのはこっちのパーティルの方だけどな」

そう言うと、ロザは腰を抜かしていたパーティルを指さす。

「あ、そうです。わたしがカシミア王国に行く旅をしている者です」

「なぜカシミア王国へ?」

「それは、まだ言えないのですが・・・」

「どうして?」

「それは・・・」

ロザが間に入った。

「まあ、待て。彼女がこう言ってるんだ。これ以上は聞かなくてもいいだろ」

リマは少し黙った。そしてダガーをしまう。

「あんたたちは危険じゃなさそうだな。まあいい」

「理解してくれると助かる」

「俺はいつか、カシミア王国に復讐する。父と母の敵を討つんだ」

「そうか」

「あんたらがカシミア王国へはどう行くのかは知らないが」

「メンカ共和国を通る。そして北へ向かい、カシミア王国へ入るつもりだ」

「そうか。ならメンカ共和国を案内してもいい。俺がアンタらについていくってのはどうだ?」

「いいのか?」

「ああ。カシミア王国へ行くんだろ?」

「だが、お前はメンカ共和国からウール皇国へ逃亡してきたんだろ」

「一緒に戻るさ。そして俺もカシミア王国へ入る。俺の復讐のためにな」

「なら仲間だな」

「そうだな」

「交渉成立だ。よろしくな」

「ああ」

「俺は誇り高きスリラ族の戦士、ロザ・ガーウィンだ。この手持ちキャノンを武器とする」

「俺は女剣士、ダガーの使い手、リマ・クイスキルだ。メンカ共和国の剣士だ」

「この飛び道具の時代に、よくダガー二つで生き延びられたな」

「局地戦ではこのダガーも使い勝手がいいんだぞ。試してみるか?」

「いや、いい。お互い戦いを主としている者だ」

「それで、そっちのお姉さんは?」

 パーティルは恐る恐るリマに近づいていった。

「わたしはパーティル・エバンスです。よろしく」

「あんたの方が生き残れそうにないナリだな」

「わたしは戦いは出来ないので・・・」

「武器は?」

「あ、拳銃を一丁。でも弾は残り六発です」

「それだけか?」

「ええ、そうです」

「それでよくカシミア王国へ旅しようとしてたな」

「すみません・・・」

「本当に戦える者が必要だな。仕方がない。一緒に行こう。カシミア王国へ!」

「ええ、ありがとう」

ロザはリマのそばに寄る。

「さて、どうするか。せっかく山賊どもをやっつけてくれたのはありがたいが、このままではもう、ここで日が暮れる。

見ると、太陽が沈みかけていて、辺りが暗くなろうとしている。

「こんな雪山で夜を迎えるのはな。俺は構わんが」

「俺も構わないよ」

リマは言う。

二人はパーティルの方を見る。

「あのお姉さんはダメそうだな」

「ああ、同感だ」

パーティルはバツの悪そうな顔をする。

「あの、わたしですか?」

「ああ」

ロザはため息をついた。

リマは盛り上がった地形の先を指さした。

「あっちに砦があった。山賊のアジトだろう。さっき訪ねたんだが、見張りに襲われてな。殺っちまったんだ。だから、その砦で一夜を過ごすってのはどうだ?今なら手薄なはず・・・」

「お前、手回しがいいな」

「別に・・・。もののついでだよ」

「なら、そこに行こう。いいな、パーティル?」

「え、は、はい」

「砦に行こう」


 砦に行くと、武器を持った女たちが待っていた。

「あいつらも殺すか?」

リマはロザに聞く。

「武器さえ持ってれば戦闘員か?」

「そうだなぁ・・・。そしたらお姉さんも拳銃持ってるから非戦闘員じゃなくなるな。でも、綺麗ごとは嫌いだろ?」

「ああ、そうだ。よくわかってるじゃないか、リマ」

「なら、殺るぞ?」

 パーティルが口を挟む。

「待って!彼女らは女性ですよ。女の人を殺すの?」

「あんただって銃で武装してるだろ、パーティル」

「でも、ダメですよ。山賊の女たちでも・・・」

「もう、彼女らの夫は帰ってこないんだぞ。リマがみんな殺してしまった」

「だったら、トンネルに戻りましょう。あそこなら、一夜過ごせます。だから・・・」

「パーティル・・・」

ロザとリマはふうっとため息をついた。

「しょうがない、戻るか」

「そうだな。どうせ一夜越せば、あとは山を下りればいいんだ。山を下りればパーラの街がある。そこまで行けば、宿も取れるしな」

「それでいいか、リマ?」

「ああ、いいさ」

「なら、戻ろう。トンネルへ」

三人は来た道を戻っていった。


 トンネル内は雪が入ってこなくて少しばかり寒さはしのげた。

「さて、リマよ。メンカ共和国は今、どんな感じだ?」

「ああ、ひどいもんさ。カシミア王国の女王ルリアのやつ、突然ある日、俺の国に軍隊を送り、首都を占領したんだ。そして、学校や公共施設を収容所の代わりとして多くのメンカ人たちを押し込めた。もちろん逃げた者もいた。でも、多くは捕まって殺された。一週間で百万近い人が殺されたんだ。俺と家族はゾニア大橋を通ってカルアキア島へ逃げた。そのあと東へ逃げてリーガ港から船でミンガリア島へ渡る途中で敵の最新兵器、潜水艦の攻撃に遭い、船は真っ二つになって、一時間後に沈んだ。その時、父さんも母さんも一緒に沈んだよ。俺は一人、ウール皇国の軍艦に助けられて生き延びたんだ」

「そうだったのか」

「許せない・・・。カシミア王国も、王女も」

歯ぎしりをするリマ。

「お前の気持ち、よくわかるよ」

「ふっ、そうでなくっちゃ。一緒に戦ってくれるんだろ?」

「ああ、そうだな」

二人の会話を黙って聞いていたパーティルだった。そして座ったままうずくまり鞄を抱きかかえ、声も出さなかった。



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