第16章 戦場
第16章 戦場
カシミア軍の一団は西から村に入って来た。完全武装の兵士七十人がトラックから降りてくる。三人一組で村中に散っていった。
ロザは畑に隠れて、塔の上の人員に合図を送った。
塔の鐘楼にいた女性が狙撃用ライフルでプロパンガスのタンクを狙って撃った。突然兵士たちのど真ん中で大爆発が起きる。オレンジ色の炎の塊が噴き出して、兵士たちを飲み込んだ。それを機に、村じゅうに配置していた女性たちが発砲を始めた。兵隊たちを銃弾の雨で血祭りに上げていく。
敵の兵士たちはどこから発砲しているのか分からず、応戦できない状況だった。兵士たちは戦車の後ろに身を隠す。他の兵士たちは村じゅうにバラバラに散っていった。
待ち伏せていた女性たちが近づいてくる兵士たちを銃撃した。自動火器の音が村じゅうにこだまする。
敵の戦車の大砲が火を噴いた。民家が一軒、爆発により吹き飛んだ。石の破片が散らばった。
リマが戦車に隠れている兵士たちに、ダガーで切りかかった。近接格闘でダガーに勝るものはなかった。リマは十五人の敵兵をあっという間に片づけた。そして自分が他の敵に撃たれる前に石壁の陰に隠れた。銃弾がリマを追った。
反対側にいたロザが敵兵の背中に手持ちキャノンを撃ち込む。カシミアの兵士たちが倒れていく。
銃撃戦はどんどん激しくなった。村に散った兵士たちが発砲を始めた。撃ち合いになる敵兵と村民たち。
爆発もあちこちで起こった。
爆風をかわしたリマはダガーを手に下がり始めた。雨あられと降る銃弾の嵐にダガーだけでは対応できなくなった。
他の女性たちも銃を手にはしてるものの、敵兵の発砲に下がり始める。
戦車が村の中心部に向かって前進し始めた。キュルキュルキュルというキャタピラ音がはっきりと聞こえてくる。
ロザは戦車のキャタピラを狙って、手持ちキャノンで攻撃した。パーンという音とともにキャタピラがちぎれる。戦車は減速し、止まった。
銃撃戦は絶えることなく続いた。戦車からの砲撃もやまなかった。爆発音がこだまする。
リマは近づいてくる兵士たちを一人づつダガーで倒していった。ダガーが血にまみれ、切れ味が悪くなっていく。それでも立ち回りは続いた。
リマはひと通り敵を倒すと、ロザと合流した。
「ロザ、もう持ちこたえられそうもないよ。どうする?」
「慌ててもしょうがない。だが、まずいことに・・・」
「なんだよ?」
「俺の手持ちキャノンの残りの弾は二発になった」
「なんだよそれ?大丈夫なのか?」
「敵の銃を取って来てくれ。それで応戦する」
「それなら村じゅうにごろごろ転がってるんじゃないかな」
「自動火器がいい。取ってきてくれ」
「わかったよ。でも、敵の戦車はどうにかしないとな」
「どうせもうすぐ砲弾も尽きるだろう」
「じゃ、行ってくる」
そう言うと、リマは民家の陰に隠れながら、落ちている銃を探し始めた。
そんな中でも敵兵の銃撃はやまなかった。戦車の大砲の弾がリマのすぐそばで爆発した。爆風に吹き飛ばされるリマ。間一髪で受け身を取ったため、石畳に叩きつけられることはなかったが、ダガーを一本落とした。右手にあるダガーだけが残った。
そばに寄る敵兵の一人をダガーで刺すリマ。
「死んでろ!」
もう一突きしてとどめを刺した。銃火器を奪うと、走って戻っていった。
足元に銃弾が降る。それをかわしながら戻るリマ。
「取って来たぞ。これでいいかい、ロザ?」
「でかした。上出来だ」
銃を受け取るロザ。
「もう敵は残り少ない。一気にやるぞ!」
「わかったよ。行くぞ!」
「今だ!」
ロザが自動火器で敵をなぎ倒していく。
敵兵も機銃掃射をしてくるが、ロザに銃弾は当たらなかった。
「リマ、殺れ!」
リマがダガーで敵の集団に切り込んだ。
悲鳴を上げて倒れる敵兵たち。
ふと、リマを狙うカシミア兵がいた。撃たれるのかと思いきや、教会から顔を出して様子を見たパーティルが、銃を手に、カシミア兵を撃った。頭から血を噴き出し、倒れ込むカシミア兵。
リマはパーティルに気が付く。
「お姉さん!」
「大丈夫、リマ?」
「大丈夫だよ。危ないから教会の中に隠れてるんだ」
「あなたが心配だったのよ」
「自分の身は自分で守るよ」
「分かったわ。気を付けるのよ?」
「ああ」
リマとロザは残りの敵兵を倒していった。
村じゅうの敵兵が銃撃により倒れていき、他の敵兵は敗走を始める。
「逃がすなよ。一人残らず皆殺しにするんだ。一人でも残せばこのことを報告される。時間を稼ぐためにも全員殺すんだ」
ロザが叫んだ。
リマが逃げる敵兵を追っていった。
遠くの方でカシミア兵の悲鳴が聞こえる。残ったカシミア兵は塔の鐘楼にいる女性たちによって狙撃されていった。
最後の一人を撃ち殺すと、辺りは静かになった。
戦車も沈黙した。
「勝ったぞ・・・」
ロザが言った。
戦場となったエンデル村は、死者二名と家屋半壊が七軒出た。それでもカシミア軍の一個兵団全滅と比べれば、圧勝だった。
戦闘は終わった。
ロザが敵の生き残りがいないか調べていた。
「もう大丈夫だ」
リマが落ちていたダガーを拾う。
「戦車の中の連中はどうするんだよ?」
「降伏してるらしい。まぁ、そいつらは捕虜としてこの村に残そう。俺たちにはまだこれから旅に出なくてはならないからな。ここを離れなければいけない。時間稼ぎにはなるさ」
「もう旅に出るのかよ?」
「ああ」
「お姉さんが賛成するかな?」
「あいつの旅だが、俺たちは用心棒であいつをトライス城に連れて行かなければならない」
「あんたの手持ちキャノンは?」
「残り二発。カシミア王国まで持つかな?」
「北へ向かえばバニディス国境だ。そこからカシミア王国へ入ればいい。国境の先にはカシミア王国のレンソル飛行場があるんだ。そこから飛行機で一気にトライス城へ行けばすぐだよ」
「さすがに地元民は詳しいな」
「ここは俺の国だし、カシミア王国は陸続きの隣国だ。独裁者のルリアさえいなければ、カシミア王国もメンカ共和国も親睦があったんだ。この戦争を終わらせる。俺も命懸けでお姉さんをトライス城に連れて行く!」
「敵の本陣だぞ」
「分かってる。俺のダガー術はこのためにあったんだと今はそう思うよ」
「ああ。お前が必要だ」
「ふん、その通りさ」
カシミア王国・トライス城 会議室内
ルリアはクチカットに尋ねた。
「クチカット、例の指名手配犯たちはどうなったの?」
「ルリア様、その連中はゾニア大橋から行方がぱったりと消えました。山に入ったと思われます」
「山って言うと、北の方?」
「おそらく・・・」
「北ってことは、このカシミア王国へ向かってるってこと?」
「それは分かりませんが・・・、しかし山へ向かったと言っても、険しい道ですからね。あちらにはエンデル谷もありますし、誰かの道案内が無いととても抜けられませんよ」
「きっとここへ向かってるわ。そんな予感がするのよ。きっと運命だわ。その連中は必ずトライス城に向かっている。もうすぐ来る予感がするのよ」
「どういう事です?」
「何か惹かれるものを感じるのよ」
「一介の連中ですぞ?」
「旅というものはその者の運命や宿命を決めるものよ」
「はぁ・・・」
「それも闇雲に動くものでないのならば、必ずゴールがあるってことよ。それが旅の終わりを示す。そのポイントがはっきりしていればいるほど、その運命を人は背負っているものよ。それが旅人」
「では・・・」
「ええ。この戦争を終わらせようとしている者がいる」
「そんなことが・・・?」
「出来ると思っているのよ。いえ、出来るんだわ!」
「ならば・・・」
「わたしたちにとって脅威の存在よ」
「ウール皇国の者でしょうか?」
「分からないわ。でも・・・」
「でも?」
「この戦争が終わるにはどうすればいいと思う?」
「それは・・・」
「そう、このわたしの命を絶つこと」
「それだけで戦争が終わるとは・・・」
「いえ、この戦争はわたしが始めたこと。わたしはカシミア王国の王女にして最高権力者。この侵略戦争はわたしの意思によるもの。だから、戦争自体わたしそのもの。だからわたしを殺そうとする者なのよ。それに値する旅をしているんだわ。だからこそ、こちらは待ち受けなければならない」
「なるほど」
「そちらが来るなら、門を開けて待つわ。その者の顔が見てみたい。呼び寄せて。その連中が、旅がうまくいってると思わせて、このトライス城に呼び込むのよ。相手になってやるわ。面白いじゃない?このわたしを狙う者は数多くいるけれど、わざわざ遠くからそれを目的に旅をしてくる者がいるとは驚きじゃない?その連中の相手はわたし自身よ」
「でも、王女・・・」
「わたしを誰だと思ってるの?カシミア王国国女、ルリア・カシミアよ」
「分かりました。王女の言う通りにします」
「ふふっ。これこそが戦争の醍醐味よ」
ルリアは自分の剣を身に着けると、不敵な笑みを浮かべた。




