第13章 砂漠
第13章 砂漠
パーティルたちは三日間、カシミアの憲兵に取り調べを受けた。荷物や武器は返してもらえたが、その後、トラックの荷台に乗せられた彼らは岩だらけの砂漠の真ん中に降ろされた。
トラックは去っていった。
「どうする、ここで降ろされて」
ロザが言った。
「砂漠を横断しましょう。見てください」
そう言うと、パーテイルは遠くを指さした。
「あそこに川があります。おそらく伸びてる方向からして、西へ向かってるでしょう。川沿いに歩けばこの島の端に出られると思います」
「リマ、お前はどうだ?」
「お姉さんに賛成するよ。それが一番だと思う。俺も大陸から島へ家族で逃げてきた時に通った道が、確かあの川沿いにあったはずだ」
「なら、それでいこう。俺も異存はない」
パーティルたち一行は、川沿いに砂漠を抜けることとなった。
川沿いには一車線の道があった。そこを歩くパーティルたち。
「この島を出るには大陸と繋がるゾニア大橋を渡るしかないんだ。でも、今はカシミア軍が陣取っているだろうな」
そう言うと、リマは腕を組んで考え始めた。
「どうにかして橋を渡らないと大陸には行けない」
「陸路しかないの?」
パーティルが聞いた。
「繋がってるのはゾニア大橋だけなんだ」
「どうにかしないとそこで止まっちゃうわね」
「元々はこの島も大陸の南もメンカ共和国の領土だったんだけど、今はカシミア占領軍の支配下にあるからな」
「ウール皇国との戦争前にカシミア王国が軍事侵攻してきたのよね?」
「そうさ。それで俺は国を追われたんだ。悲惨だったよ。今では国はどうなっているやら」
「心配しないで。戦争が終われば国は復興する。歴史が物語っているわ」
「メンカ人がその前に皆殺しにされてなきゃね」
「あなたのダガー術も継承していかなきゃじゃないの?」
「そうだね・・・。それも大事だ」
「じゃあ、行こう!」
ロザがその場を締めた。
川沿いの道はずっと遠くの地平線まで伸びていた。地平線はジリジリとした熱でゆがんで見えた。砂漠の道を歩くパーティルたち。
「この先はどのくらいの距離で砂漠を抜けられるのかしら?」
パーティルは汗をぬぐいながら言った。
「徒歩だからね。先は長いよ。車でもあればいいのに・・・」
リマが言う。
「お姉さん、ひょっとして温室育ちなのか?」
「そうね、何不自由なくってわけじゃないけれど、苦労知らずなのかもしれない」
「そんな感じに見えるよ。今さらだけどね」
「そう?でも、片親は知らないで育ったわ」
「そうなのか?」
「ええ」
「そうか・・・。でも俺、思うんだけど・・・」
そう言うと、リマは歩いてきた先からカシミア軍のトラック三台が走ってくるのに気付いた。
「何だ、アレ?」
軍のトラック群は、砂埃を上げ、パーティルたちのそばを通り過ぎた。荷台にはたくさんの兵隊を乗せていた。
「チッ、我が物顔でのさばっているカシミアの連中だ。ここは元々メンカ領の島なのに」
リマはしまっているダガーに手を伸ばそうとした。パーティルが手を重ね、止めた。そして首を振る。
「あいつらは俺の仇の一部だ」
「わかってる、でもやめなさい」
「いずれは戦うことになるよ」
「そうね。そう・・・」
「何だい?」
リマはパーティルの顔色をうかがった。深刻に顔を曇らせているパーティル。
「どうしたんだい、お姉さん?」
「いいえ、でもわたしもいずれは戦わなくてはならない時が来るのよね?」
「そう・・・だな。そうかもしれないな」
「わたしだけが戦わなくていいなんて、そんな世の中ではないのよね」
「今までだってそうだったろ?銃だって持ってる。戦場のど真ん中にいたこともある。そうだろ?」
「ええ」
「おっさんもそう思うだろ?」
ロザがニヤリと不敵な笑みを見せた。
「ほら見ろ、アレが戦場を知っている者の顔だよ」
「わたしはあんな顔できない・・・」
「この世界、誰に生まれても戦いの渦中だ。それでもそう言うのかい?」
「そうね」
「でも俺、思うんだけど」
「何?」
「誰がどう生まれるかって大事かもしれない」
「あなたはあなたよ?」
「そうだけど・・・」
「そうね、あなたの言う通りかもしれない」
「ん?」
「わたしは偶然わたしに生まれたけど、あなたの仇として生まれたわけじゃないのは一つの偶然に過ぎないのだと思うわ。メンカ人に生まれたわけでもロザさんのように戦士に生まれたわけでもない。それだけで縁だわ」
「そうだな。でも親を殺されて国を追われたからって、俺は俺の生まれを嘆いたりはしないぜ。これも宿命の一つなんだと思っているよ」
「強いわね。自分の運命を受け入れてるなんて。わたしは戦場を旅してるけれど、心の中では迷ってばかり・・・。あなたたちと出会えて、こうして一緒に旅ができるだけでも良かったと思うわ」
「そりゃどーも」
「でも、これ以上脱ぐのは勘弁願えるわ」
「ハハッ、そりゃ俺もさ」
「そう思うだけでもこの砂漠を凌ぐのにいいわ。自分の世界に入っちゃうと野垂れ死にしてしまう」
「戦いが起きればお姉さんは不利だ。戦闘は俺とロザに任せな」
「でも、わたしもできることなら戦いたい」
「それならそれで、お姉さんが戦えることもあるだろ?」
「銃だけしか持ってないけどね。残りの弾は五発。それだけよ」
「人を殺すには十分だけど、戦争に生き残るには全然足りないな」
「それもそうね」
ロザが立ち止まった。
「リマ、この道はゾニア大橋に続いてるか?」
「ああ、そうだ。二十年ほど前に建てられた橋で、大陸とこの島を結ぶ唯一の橋さ。俺の国がそれを造った」
「歴史はどうでもいい。その橋は今は渡れるか?」
「何だ、感じ悪い・・・。そうだな、今はカシミア軍が占領しているけど、手形の一つでもあれば違うかな」
「それはどこで手に入る?」
「知らない。でもカシミア軍の連中が持ってるんじゃないかな」
「そうか。ではカシミアの奴らを襲おう」
ロザの提案に二人は驚いた。
「襲うって、奴らをか?」
「お前の敵だ。そんなに遠慮してどうする?」
「そうだけどさ、足が付かないか?」
「その前に橋を渡り切ればいい」
「でも、そのあとも連中に追われるぞ。手配が回ったらどうするんだ?」
「これから先は敵陣だ。いや、もうカシミアの占領下に入ってるんだ。今さらだ」
「う~ん」
リマは渋った。
「今後は決断の連続だ。そうなる。だからその前に覚悟が必要だ。橋から先はどんどん物事の即決の嵐だと思え。迷っている隙など無いのだ、いいな?」
「分かった。それで?」
「今度通る軍のトラックを襲うんだ。手順を決めておこう。俺が手持ちキャノンでトラックをパンクさせる内にお前がダガーで荷台に乗り込め。そして皆殺しにしろ。いいな?」
「そんな作戦で大丈夫か?お姉さんは?」
「パーティルには援護に回ってもらう。それでいいか、パーティル?」
「は、はいっ」
「よし、この先はこちらからも打って出る。殺し合いもいとわないと覚悟しておけ」
「わ、わかりました。わたしも銃を撃ちます。必要であれば」
「必要だから撃つんだ。いいか、今度撃つときは容赦なく頭を狙え。確実に相手を殺すんだ」
「覚悟します!」
「そうだ、それでいい。お前が守る者はお前を守る者だ。それを忘れるな」
「はい」
グッと唇を噛みしめるパーティル。
「よし、よく言った」
ロザは地平線に浮かぶ岩場を指さした。
「あの岩場が見えるか?」
「はい」
「あそこで日が暮れるのを待つ。そして待ち伏せる。必ず連中が通るはずだ」
「はい」
夕暮れ時、身を潜めていたパーティルたちは、岩場から顔を出していた。
「来たぞ。トラックが二台」
ロザが指さす方向に、カシミア軍のものと思われるトラックが二台、通り過ぎようとしていた。
「戦闘開始だ」
そう言うと、ロザは手持ちキャノンで先頭のトラックを撃った。
爆発音とともにトラックの車体が浮き上がり、止まった。二台目が先頭のトラックに突っ込み、荷台にいた兵隊たち二十人が弾みで転倒した。
リマがダガーを手に、二台目のトラックの荷台に乗り込んだ。彼女のダガー術で兵隊たちを血祭りにしていく。中には荷台から飛び降りる兵隊もいたが、転がり出る兵をパーティルは銃で狙いをつけて二発ほど撃つと、兵は倒れた。まだ息はあったようだが、ロザが手持ちキャノンでとどめを刺した。
ロザはさらに手持ちキャノンで一台目のトラックを狙い、四発の弾でトラックを攻撃した。ガソリンタンクを撃ち、一台目のトラックは爆発した。
荷台にいる全員を倒したリマは、外に出てロザに合図を送る。
「よし、片付いたようだ」
身を出すロザとパーティル。
「行こう」
「はい」
リマがさっそく兵隊のポケットなどを調べ始めていた。
「どうだ、何か見つかったか?」
「いいや、何も手形みたいなのは持ってないようだ」
「よく探せ」
「やってるよ」
ロザとリマは率先して探した。それでも何も出てこなかった。
「こいつら、通行手形を持ってないようだ」
リマが探すのを諦めた。
「誰も持ってないというのか?」
「おそらく、こいつらは・・・」
パーティルはそばに立っているだけだったが、ハッとして、叫んだ。
「運転手よ!」
「運転手?」
リマが言った。
「そうか、運転席に・・・」
そう言うと、トラックの運転席を見た。先頭のトラックが爆発したせいで、二台目のトラックの運転席もろとも炎に包まれていた。
「しまった。しくじった」
「早くここを去ろう。痕跡だけが残ってしまった。これを奴らに発見されれば足が付くぞ」
「うん、とにかく失敗した。早く逃げよう」
「手形は無いが、橋へ急ぐぞ。何としても橋を渡り切らないと・・・」
「まいったね。これじゃあ意味がない」
「仕方ない。急ごう。行くぞパーティル」
ロザたちは一刻も早く、その場を離れなければならなかった。
リマに手を引かれ、パーティルはその場を後にした。




