第12章 飛行船
第12章 飛行船
飛行船は大きかった。
「わぁ、これに乗るのか!」
リマがはしゃぐ。
「リマ、まだよ。チケット買ってから」
「買ってくれるのか?」
「ええ、ロザさんと待ってて」
そう言うと、パーティルはチケット売り場まで足を運んだ。
ロザが辺りを見回す。
「カシミア王国の者が多いようだな」
「そうか?」
「ああ。もうこの島もカシミア人に占領されてるんだろうな」
「ふん。本来この島もメンカ共和国領なんだ。奴らの好きにさせてたまるかってんだ」
「そういきり立つな。お前が暴れると困る」
「お姉さんのためならそんなことはしないさ。大丈夫だ。あんたこそスリラ族は戦闘民族だろ?」
「俺たちスリラ族が戦うのは大義のためだけだ。誇り高い民族だからな」
「あんたらはウール皇国の土地に住んでるんだろ?もしカシミアの連中がウール皇国の領土を占領したら、あんたらだって収容所送りだぜ」
「もちろんその時は俺たちは武器を持って戦う。俺たちを滅ぼそうとするやつらは殺す」
「あんたは戦士だもんな」
「そういうお前は、女だてらに剣士だろ」
「〝女だてら〟は余計だ」
「お前は女を捨ててるんだったな」
「そうさ」
「本当にメンカ共和国を取り戻せると思ってるのか?」
「信じてるさ」
「そうか・・・」
「じゃなきゃ、俺たちメンカ人は終わりだ」
「そうだな」
パーティルが三人分の飛行船のチケットを手に戻って来た。
「さぁ、乗船しましょう」
「すまん」
「ありがとな、お姉さん」
ロザとリマはチケットを受け取った。
飛行船は定刻通りに出発した。
行き先は西のカルアキア島のリーガ港。
リマが家族と最後に乗った船の港だ。
広い食堂へ行くパーティルたちは、空いているテーブルに座った。
「リマ、何食べたい?」
「ここはコースが決まってんだろ?」
「えっ、そうなの?」
ロザがテーブルを見回す。
「そうだな。メニューらしきものは置いてないようだ」
「し、失礼しました・・・」
恥ずかしそうにするパーティル。
「お姉さん、実はちょっと抜けてるだろ?」
「そっ、そんなことは・・・」
「そそっかしいよ。ロザもそう思うだろ?」
ロザは腕を組み、椅子の背もたれに体重をかける。
「ま、パーティルもまだ十七の小娘だ。頼りないところもあるだろう」
「ロザさん!」
パーティルの頬が赤くなった。
「お姉さん、いい歳だね。旅もいいけど、色恋の話の一つもないのか?」
「えっ、ないわよ」
「しけてんなー」
「何を言ってるの?おませさんね」
「俺はもう十五だぞ」
「まだ十五でしょ?」
「戦争が終わったら、誰かいい人見つけて結婚でもしろよ」
「フフッ。わたしにそんな気ないわ」
「なぜ?」
「わたしは自分のやるべきことをやるだけ」
「ふ~ん。戦争が終わったらどうなるのかな?」
「新しい世の中が来るわよ」
「新しい世の中・・・」
ロザが顎で向こうを指した。
「料理が来たぞ」
三十分後、パーティルたちが食事を終えた直後だった。
銃火器を持った七人の男たちが船内にいた乗客や乗務員たちを、突然脅してきた。
「な、何?どうしたの?」
パーティルは慌てる。
男たちのリーダーが言った。
「この飛行船は、我々が占拠した。全員抵抗するな。大人しくしていれば危害は加えない!」
男は銃を乱射した。乗客たちがテーブルや椅子の下に隠れるように伏せる。
「我々はメンカ共和国人だ。この飛行船はカシミア王国の出身の者が多い。あんたたちを人質にこの戦争を終わらせる!」
レジスタンスたちは飛行船のあちこちに散らばった。
操縦席に行くリーダー。
「このままカシミア王国へ行け!」
「無理です。燃料が持たない」
「では予定通り、リーガの街に降りろ」
「は、はい」
人質たちは全員、広間に集められた。
「男性は右へ、女性は左へ行け」
皆、言われた通りにした。
ロザは広間の右の方へ、パーティルとリマは左へ寄った。
「女の人質に命令する。服を全部脱いで簡単には逃げられないようにするからな。言う通りにしろ。さあ、女たちは裸になれ!」
女性客は三十人はいたが、全員がレジスタンスの命令通り、服や下着を脱いだ。銃を突きつけられては従うしかなかった。パーティルやリマも従って、裸になった。
「これで逃げられんだろう」
レジスタンスのメンバー二人が、女性客の見張りを、五十人以上いた男性客たちの見張りに三人が就いた。
深夜。ミンガリア島を出た飛行船はドナの港を通過し、海に出た。
「さ、寒い・・・」
裸で自分の服で体を隠すリマはパーティルの肌にすがった。
「お姉さんは寒くないの?」
「大丈夫よ」
「今は夜中過ぎだね。気温が低い」
「ええ、しかも海の上だわ。余計に冷える」
「このままカルアキア島へ向かうのかな?」
「そうね」
「くそっ、この真下だよ。俺や俺の両親が乗った船がカシミア海軍の潜水艦に沈められた海は。この下に俺の両親は沈んでいるんだ」
涙目になるリマ。そっとパーティルはリマの頭を自分の方に寄せる。
「悲しかったわね」
「ああ。突然だった。爆発が起きて、船首からだんだんと沈んでいって、それがだんだん早くなっていって、すぐに船体が折れたんだ。それからしばらく浮かんでいたんだけど、徐々に沈み始めて、それから父親も母親も渦の中に見えなくなって、俺は船体にしがみついていたんだけど、いつの間にか海に落ちてた。とても冷たい海だった」
そう言うとリマは震えた。
「氷に落とされたようだった。そして気絶していた。でも少しして、俺は通りかかったロゴット艦長の乗った戦艦バレクシアのボートに引き上げられて助かったんだ。まるで奇跡だよ」
「そうだったのね」
「ああ。ここにいるレジスタンスたちもメンカ人だ。俺のようにカシミアの連中に土地を追われ、友を亡くし、家族を亡くした連中だろう。こいつらの気持ちも俺にはわかる」
「でも、今はわたしたちは人質よ」
「そうだな」
「大丈夫。わたしの服も使う?わたしは裸でも平気よ。雪国育ちだし」
「いいよ。お姉さんに体調壊されると俺も困る」
「フフッ、ありがと」
「こちらこそ!」
飛行船は西のカルアキア島へと真っすぐ飛んで行った。
早朝、飛行船はカルアキア島のリーガの街に到着した。飛行場に着陸する飛行船。
そこにはカシミア王国軍が武装して待っていた。
「メンカ共和国人のレジスタンスの諸君に告げる。早く人質を解放するんだ。そうすれば処刑だけは免れるぞ」
カシミア王国軍の少佐がマイクで話した。
「カシミア王国はメンカ共和国から撤退しろ!これがこちらの要求だ。飲まなければ人質は解放しない」
レジスタンスのリーダーもスピーカーで話す。
「人質の半分は解放しろ!全員は必要ないだろう。こちらの言い分を飲めば、直接王女に話をする権限をやろう」
「わかった。女性客を解放してやる。それでいいか?」
「乗客の半分だ。女性客だけでは半分に満たない。男性客も少し解放しろ!」
「わかった、半分だな。それで王女ルリアと話せるならいいだろう」
数十分後、ようやく服を着せてもらえた女性客たちが飛行船を降ろされた。パーティルやリマも飛行船のタラップを降りる。
その後、ロザを含む、メンカ人や、カシミア王国人でない乗客や乗務員たちが降ろされた。
人質たちが半分降ろされてすぐだった。突然カシミアの精鋭部隊が飛行船に突入していった。解放された人質たちはその精鋭部隊がタラップを上って飛行船の中に飛び込んでいくのを見る。武装していた銃で発砲する音が外まで聞こえた。さらに武装した軍の兵たちが飛行船を外から銃で撃つ。
銃声がこだまする。
そして飛行船の中で壮絶な銃撃戦の音が聞こえ、悲鳴も聞こえた。
次の瞬間、飛行船のあちこちで爆発が起こり火災が発生した。
その光景を見るパーティルたち。
「な、なぜまだ人質の半分が残ってるのに攻撃したの?」
「お姉さん、よく見ておくんだな。あれがカシミアのやり方だよ。人質が同族でも同胞でも、レジスタンス相手ならお構いなしさ。奴ら、ああやって殺すんだよ。たかが数十人の人質と引き換えに軍が撤退するはずがないだろう?ちょっとした交渉で人質の半分は解放させて、油断したところをああやって突入させて制圧する。それがあいつらの、カシミア軍のやり方だ。恐ろしい国家だよ。それもこれも敵の指揮官のゴーガッド・ラスや女王ルリアの命令さ」
「なんてこと・・・」
「とんでもない連中を相手に俺たちはこの戦争を終わらせようとしているということを忘れない方がいい。解放された人質の中にロザがいてくれたことも良かったと思った方がいい」
そばに寄るロザ。
「俺がなんだって?」
「あんたが解放されて良かったって話だよ」
リマが言う。
「ああ、それは乗っ取り犯どもに、お前たちの事を家族だから一緒に開放してほしいと言ったんだよ」
「家族?」
「ああ。パーティルが女房で、リマが娘だと言ってな」
「なんて奴だよ。妻子持ちが!」
「ああ、俺は実際妻子持ちだからな。上手くだませたよ。おかげで生き延びた」
「まったく・・・」
「俺が助かって良かったんじゃないのか?」
「そりゃそうだけどよ」
リマがそう言っていると、飛行船の中からカシミアの精鋭部隊が出てきた。
大けがを負った人質の生き残りが出てくる。
レジスタンスたちは全員射殺されたろう。
パーティルは、燃える飛行船の姿を見ながら呆然となった。




