第10章 海上
第10章 海上
戦艦バレクシアは二隻の駆逐艦とともに港を出た。
艦長の話だと、二日あればクルア港に着くそうだ。
ロザとリマは船室でカードで遊んでいた。
「なぁ」
リマが言う。
「さっきの刺客、こんなところまでカシミアの連中が来てるなんてなぁ」
「ああ、しかしバレクシアの艦長が、実は連合艦長だとはな」
「ああ。ウール皇国もトライス城に刺客を送り込めばいいのに。何なら俺が行ってもいいんだ。俺なら怪しまれないかもな」
「馬鹿、ダガーを持ってトライス城へ入城出来るとでもいうのか?速攻で捕まるさ。諦めろ!」
「なんでだよ。俺みたいな女ならダガー無しでもルリアに近づければいつでも殺せるさ」
「トライス城は迷路だ。内部の地図でもないと玉座にまではたどり着けまい。それに、話によれば王女はほとんど玉座には座らないそうだ。普段はどこにいるのか側近ぐらいしか知らないらしい。そんなんで王女を見つけて殺せるか?まず無理だろう」
「ルリアはカードにおけるジョーカーじゃない。クイーンでもない。キングだ。キングを潰せば戦争は終わる。そして俺の復讐も」
「お前の相手はルリアじゃなく、敵の司令官ゴーガッド・ラスだ」
「誰だそれ?」
ロザは険しい顔でリマを見た。
「カシミア王国の軍司令官で、戦地におけるキングだ。お前とお前の家族が乗った船を沈没させたのも奴の仕業だろう」
「なんだと?」
「話では奴はゾニア大橋を守っていて、そこで指揮をしているらしい。かなりのやり手の将校らしいぞ」
「そいつがあちこちに命令してるってのか?」
「ああ。奴は残忍な男だ。ルリアも暴君だと噂されているが、ゴーガッドは鬼だよ」
「ちくしょう!」
「お前の直接的な敵はゴーガッド・ラスだ。覚えておけ」
「ゴーガッド・ラス・・・。俺の敵・・・」
「言っておくが、パーティルを巻き込むなよ」
「わかってるよ。でもお姉さんは自分から首を突っ込みそうだ。じゃないか?」
「そうだな・・・」
ロザがため息をついている間、リマがカードを置く。
「俺の勝ちだぜ」
得意げな顔をするリマ。
二日目の午前中。
パーティルは自分の船室で着替えていた。厚手の服を脱ぎ、少し薄い白のワンピースを鞄から出すと、ブラを取って、新しいのに付け替えようとしていた。その時、ドアが開く。鍵をかけていなかった。
ロザが入ってくる。
「あ・・・」
パンティだけ穿いた状態のパーティルはロザと顔を合わせる。ピンクの乳首がロザの目に入ってしまった。そして白い肌、さらに純白のパンティも。
パーティルは硬直する。
すぐにロザは、あわてて部屋を出ていった。
「すまん」
壁越しに声をかけてくるロザ。
「いいえ、わたしが悪いんです」
「ノックもしなかった俺が悪い」
「鍵をかけ忘れたわたしが悪いんです」
「まあいい。着たか、服は?」
パーテイルはすぐに白いブラを付けて、ワンピースを着た。
「もう大丈夫ですよ」
「そうか・・・、スマン」
「いえ・・・」
ロザは船室に入る。
「ロゴット艦長が、あと四時間ほどで到着だと」
「そうですか。わたし、艦長の所にちょっと行ってきますね」
「ああ」
少しお辞儀をしてからパーティルはロザの前を恥ずかしそうな顔で通り、船室を出た。
「おい、待て」
「はい?」
パーテイルは振り向く。
「鞄を忘れてるぞ」
そう言うと、ロザは船室内にあったパーテイルの鞄を掴み、投げて渡した。
それを受け取るパーテイル。
「ありがとうございます」
パーテイルは笑顔でその場を去った。
ロザは今度はリマの船室を訪ねた。船室のドアを開けると、リマが素っ裸で着替えていた。ロザはリマという女の子の体を上から下まで全部見てしまった。
「うわーっ!」
リマは叫んだ。
ロザはすぐに船室のドアを閉める。
「なんでお前らは鍵をかけないで着替えをするんだ?」
ロザは頭を掻く。
「ば、ばか・・・なんでノックしねーんだよっ!」
「スマン・・・」
ロザは壁越しに言う。それでもリマは船室内で慌てた。
「俺の、はだっ・・裸を・・・見やがって。全部見やがって!」
「服着たか?」
「着てねーよ!下着もまだだよ。馬鹿野郎!」
「早く着ろよ。スマンと言っている」
「あ、謝ればいいってもんじゃないよ。くそっ、見やがって・・・俺の、俺の裸を・・・」
「もう記憶から消した」
「ウソ言うなよ!絶対思い出したりするだろ?俺の裸を見ちまったんだから、絶対に!」
「ガキが。誰がお前の裸なんか」
「な、なっ、何だと~?ふざけるな!俺の裸だぞ。俺の裸見て、お前っ、何様だよ?」
「うるさい奴だな。男女が」
「誰が男女だ!俺は女だぞ!見ただろ?ちくしょう!」
「そんなに怒るなんて、恥じらいはあるんだな、お前」
「あ、当たり前だろ?もう!もうっ!」
「あと四時間足らずでクルアの港に着くんだぞ。それだけ言いに来た」
「ばかっ。たったそれだけ伝えるだけで裸見るなよっ!ふんっ」
「まったく・・・・」
「何がまったくだよ。本当にもう・・・。信じられねー。もう行ってくれよ。顔も見たくない!」
「わかったわかった」
ロザは船室を去っていく。
リマは肌着と頭からかぶって着ると、パンティを穿き、服を着て髪を結んだ。
顔を赤くし、うずくまる。
「はーっ、もう!」
パーテイルは、戦艦の艦橋の階段を上って、指令室のある一番上まで来た。そこに戦艦バレクシアの艦長、ロゴットが他の船員とともにいた。
「ロゴット艦長」
「ああ、パーテイル・エバンス。昨日は大変でしたな」
「ええ、でもわたしの仲間と艦長の部下の方たちが尽力してくださったおかげで、こうして無傷でいることができました」
「いや、本来はわたしが狙われていたんだ。わたしは連合司令官のみでもあるからな。でも、あなたにもしものことが無くて本当に良かったと思っています」
「わたしの拳銃はお守りでもあるのです。きっと拳銃がわたしを守ってくれたんだと思います」
「そうですか。それならお互いに良かったということで」
「ええ」
パーテイルは窓の外を見た。
「大海原ですね」
「トカレ海峡の真ん中ですよ。もうすぐザリア島が見えてきます。そこから南へ行くと、もうミンガリア島のクルア港に出ますよ」
二十分もしないうちに、小島が進行方向に見えてきた。ザリア島だ。あそこは島民二十人ほどの村がある。
戦艦バレクシアは航路を左に向けた。南下する。
「もうすぐですよ。あと三時間半ほどで・・・」
艦長がそう言っていると、パーテイルは水平線の向こうにいる船五隻を確認した。
「艦長、双眼鏡を貸してください!」
「どうしました?」
「わたしに双眼鏡を!」
ロゴット艦長は双眼鏡をパーテイルに渡す。
パーテイルは双眼鏡で船を見た。
「あれは、カシミア王国の軍艦・・・。艦隊です!」
「何?」
パーテイルは双眼鏡をロゴットに渡した。
「あれは・・・、敵戦艦五隻だ!」
「どうします?」
「戦闘用意だ!」
カシミアの戦艦五隻は、ぐるりと戦艦バレクシアを囲もうと寄って来た。
「連中、何をする気だ?」
「わかりません」
「砲撃しろ!」
司令官が伝令管に向かって叫んだ。
「砲撃用意!」
戦艦バレクシアの砲門が開く。
「撃て!」
ズドンという音が数回聞こえ、大砲が発射される。
敵戦艦の近くで水柱が立った。
「外した」
「敵は距離を取っています。何か策があるようですね」
「ああ。回り込んではいるが、攻撃の気配がない。どうしようというのだ?」
「撃ってくる気があるのでしょうか?」
「パーテイル・エバンス、あなたは伏せてなさい」
「でも・・・」
その時、敵の艦隊の真ん中から海の中で何かの影が映るのをパーティルは見逃さなかった。
「艦長、アレを見てください!」
「何?」
「艦隊じゃありません。海の中です」
「海の中だと?」
海中に何かの影が映っていて、それが少しずつ近づいてくる。
「あれは、カシミアの海軍の最新兵器、潜水艦だ!」
「潜水艦?」
パーティルはリマが船を沈められたのが潜水艦によるものだったと言っていた。
あれが?
カシミア王国海軍の潜水艦は、魚雷を発射した。一本の筋が海中に走る。
戦艦バレクシアの装甲は、魚雷を食らって突き破られた。爆発が左舷に起こる。
「被弾した!」
艦長は叫ぶ。
「被害を報告しろ!」
さらにもう一発、魚雷が発射された。
もう一本の魚雷を戦艦は食らう。
大きく戦艦バレクシアは揺れた。戦艦内の全員が振動を感じ、中には立っていられなくて倒れる者もいた。
戦艦は海水を飲み、その重さで大きく傾いた。
艦内から甲板に出ていたところをロザは、海に投げ出された。近くに手持ちキャノンがボチャンと落ちる。
リマは迷路のような艦内をあちこち回り、出口を探す。光が見えた。その方向にリマは急ぐ。艦内から脱出し、海に飛び込んだ。
戦艦は激しく傾く。その勢いで、艦橋が海面に着くくらいに大きく傾き、水面に激しく叩きつけられるように倒れ、止まった。パーティルは窓から海に叩きつけられる。水柱が立った。
「パーティル!」
ロザが泳いで駆け寄る。
「大丈夫か?」
気絶しているようだった。
「仕方ない」
ロザはパーティルを背中に乗せて、泳ぐ。
水兵たちもたくさん投げ出された。
「船から離れろ!」
「沈むぞ!」
次の瞬間、戦艦バレクシアの船体は大爆発を起こした。
ドオオオオオンというけたたましい轟音とともに、オレンジ色の炎の塊が戦艦から吹き出し、艦の破片がたくさん飛び散る。
「泳げ!」
「早くしろ!」
戦艦バレクシアの船体はものすごい速さで海底に沈んでいく。大渦ができて、巻き込まれていく水兵たちもいた。
「リマ!」
ロザが叫ぶ。
「ああ、大丈夫だ!ここにいる」
海面を泳ぐリマ。
「平気か?」
「無傷だ。お姉さんは?」
「気絶してるが大丈夫のようだ。彼女の鞄を持ってくれ。重い」
ロザはパーティルの鞄をリマに渡した。
「泳ぐぞ」
「どこに?瓦礫につかまった方がいいだろ?」
「あっちに小島があった。あそこまで泳げるか?」
そう言うと、ロザは指さす。
「ああ、ザリア島だな。大丈夫だ。泳ごう」
海に投げ出された多くの水兵たちとともに、ロザたちはザリア島目指して泳いでいく。




