夢物語
私は、今日も変凡な1日を過ごしていた。
一人自分の部屋でベットに寝転がり、お気に入りの漫画を読んでいた。
するとその時、父が私の部屋に入ってきた。その手には鋭く尖った果物ナイフが固く握られていた。父は俯きながらずかずかと私に歩み寄った。
顔の表情は灰色の何かで塗りつぶされているかの様で、分からなかった。
すぐに父に気づき、漫画を横に起き、よいしょと起き上がる。大体父の様子から察することができた。
殺そうとしてるんだ。私を。
急いでドアの方へ走り、逃れようとした。が、私は何故か身体が縮んでおり、見た目は恐らく中学生ほど。すれ違う時に腕を掴まれ、私の頭上からナイフが振り下ろされた。
間一髪で避け、腕を掴まれた父の大きな手を強引に振り払い、母のいる部屋へ走り出した。
部屋へ勢いよく入ると、母もタブレットの様な物を弄りながらベットに寝転がっていた。父が今、どのような状態なのかを知らないみたいだ。
「お、お母さん! お父さんが私を殺そうとしてきた! お母さんも危ない!」
そう訴えても、母は「ふーん」と応えるだけで、タブレットをいじる手は止まらなかった。私は父が怖くてたまらなくて、必死に母を揺り動かし、一緒に逃げようとしつこく言った。
だが、母の応えは変わらなかった。
「殺されるんだよ私達!! 死んでもいいの!?」
「そんな訳ないでしょ。悪い夢を見たんだよ」
母は呆れた顔でこちらを一瞥し、面倒臭そうにして返事を返した。どうして……? 私がこんなに訴えているのに。どうして信じてくれないの? もう私の目には涙が溜まっていた。
その時、ふと背後に気配を感じ、咄嗟に振り向いた。そこには、父の姿があった。手には先程と同じく、果物ナイフが。
父は母の元へゆっくりと歩み寄り、口を動かした。
「……か」
何を言っていたのかはよく聞こえなかった。母はタブレットを忙しなく動かし、父の方を1度も見ずにそれに応えた。
「ええ、そうよ」
するといきなり父が母を馬乗りにし、果物ナイフで刺し始めた。母はタブレットを落とし、目を大きく見開いた。私は恐怖でそれに目を背ける事が出来なかった。まるで見ろとばかりに首が固定され、動かない。
何回も刺したにも関わらず、血はさほど出ていなかった。にじむ程度だ。父が今度は私にゆっくりと歩み寄ってきた。顔の表情は分からないまま。
逃げようとするも、金縛りにあったかのように身体がいうことをきかない。逃げたくて堪らないのに、私の心と体が別々の生き物みたいだ。
父は片手で私の首を掴むと、持ち上げて首を絞めた。息が出来ない。蹴りを入れたりするも、びくともしない。だんだん意識が遠くなっていく。ここで死ぬのかな。私。
最期の力を振り絞り、父の顔面に強烈なパンチを放った。父は痛そうに顔を抑え、私の首を絞める片手が緩んだ。なんとかして首の手を振りほどき、軽く咳き込んだ後走って入ってきた扉へ向かった。
そこは、謎に包まれた異空間だった。階段が無数に並んでおり、その先にはそれぞれ白く光る出口がある。私は迷わずに真っ直ぐ伸びている階段を駆け上がった。いち早く父から逃れたかったからだ。
出口がだんだん近くなる。1段上がるごとに強烈な眠気が襲う。出口まであと数段という所で、立ってはいられない程眠くなっていた。だんだん視界がぼやけていき、私は眠るように意識を失った。
「……きて。起きて」
誰かの呼びかけでゆっくりを目を開け、起き上がる。そこには見ず知らずの4人の女の子達。私の様子を伺うかのように顔を覗き込んでいた。
「んもー。スナイパーに見つかったらどうするのよ」
スナイパー? よく分からないけど。
「ほら、こっち」
そういって私の腕を引っ掴むと半ば強引に壁に寄せた。
「いい? スナイパーはどこで待ち構えているのか分からないから慎重にいくよ」
この女の子達も命を狙われているのか……。私は背中を壁に張りつけて、辺りを見回した。誰もいなさそうに見えるけど、スナイパーが私達を狙っている。
移動しながら周囲を警戒していると、草木に紛れて人が見えた。その人は、私と目が合うとすぐに場所を移動した。スナイパーだ。
真っ直ぐに進むと階段が見え、私達はそれを登った。そこは全てが灰色の所だった。所々に部屋みたいなものがある。しばらく部屋に入り、休憩することになった。一人がその部屋へ向かって歩き出した。
その時、いきなりその子が倒れた。何が起きたのか分からない。
他の3人が慌てて傍に駆け寄るも、次々と倒れていった。女の子達からは、血が滲んでいた。
スナイパー……? ここにもいるのか!
辺りを見回すが、その姿はどこにもない。一体どこから……?
一人の女の子はまだ意識があるらしく、うっすらと目を開け静かに話した。
「右の道に押入れがあるでしょ。そこに……」
彼女が言い終わる前に、私の身体に強い衝撃を感じた。みるみる胸の辺りが赤くなる。呼吸が一気に苦しくなる。心臓の近くを撃たれた。傷口を抑えないとまともに息が出来ない。
膝から崩れ落ち、歯を食いしばって痛みに耐える。この感じだと貫通はしていないようだった。私は何故かこの後、どう体内に残った弾を取り出そうか考えていた。
すると、壁にもたれかかり、ぐったりしている一人の女の子が私に緑茶を差し出した。話せなくても、目で飲めとばかりに訴えてきた。
私は片手でそれを受け取ると、彼女はゆっくりと目を閉じ、動かなくなった。そのお茶を飲んでみると、何故か少しだけ痛みが引いたような気がした。これなら歩ける。
なんとか壁に手を付き、立ち上がる。早くここから出ないと。出口を探していると、私は一気に白い光に包まて、気を失った。
ここは……? 目覚めたのはどこかの博物館のような所。高校生くらいの女の子達で賑わっていた。
「さあ! 皆帰るわよ!」
手を叩いてそう呼びかけるのは全身黒いスーツを身につけた若い女性。先生なのだろうか。
「アスカ! あたしとどっちが先にバスの所へ行けるか競走しよーよ!」
私の事をアスカと呼ぶ一人の女の子は親しげに話しかけてきた。勿論、私の名前はアスカではない。
戸惑っていると、彼女は首を傾げた。
「アスカ。競走は嫌? じゃあ二人で行こっか!」
いきなり私の腕をわしずかみすると、自動ドアへ向かった。もう何が起きているのかさっぱり分からない。
出口へ向かっていると、背後から甲高い悲鳴が上がった。
何事かと思い後ろを振り返ると、熊が女の子を襲っていた。熊の周りは真っ赤で、到底凝視出来るものではない。
隣にいた女の子はすぐに走り出したが、私はしなかった。
ううん。動けなかったのだ。まるで金縛りにあったかのように。あの時のように。
熊が今度は私の所へ突進してきた。もう何もかも受け入れようと、大きく息を吸いこみ目を閉じた。
この物語には続きがあるのですが、これを書いていたらまた悪夢を見始めたのでここで切ることにしました。
申し訳ありません。