空想のやわらかな虹いろの雲/
進み振り返れば来し方が見える。進むとは空想の力。それは理を超える唯一の手段であり、拠り所であり、誓いの代償である。
あらすじより
投稿日
2016年 01月31日 23時35分
胸の中の歯車が回っている
きゃりきゃりと軋む音を立てるそれに
甘い思い出の潤滑油はいらない
それは口に入れるものではないから
なんとか生み出そうとしている
鮮度の良い言葉には不似合いだから
父の
母の
懐かしさの溢れるであろう
ビデオのフィルムを
写真とそのネガを
わたしは捨てた
残したくはない未練からではなくて
出来るだけ痕跡を現実に残さぬため
存在の消えたことを寿ぐために
そして
わたし自身の根源として
受け継いだ存在として自覚するために
奥歯を食い縛り 眦を釣り上げて
それでも 思い出には縋らないことを誓ったのだ
わたしが彼らの子であることは
疑うべきことではないのだから
わたしが生きていることこそが
彼らの生きていた証であるのだから
殊更に思い出を追うべきでない
この欠損を 空白を
このわだかまりを 人間をいうものを
どうしようもない後悔であり続けるということを
一番大切なものとして
後に残るものへ伝えることを
誓ったのだ
そうして
本当のところは
歪んだレンズで見ているような
思いがけない姿で
いつか出会うのかも知れない
わたしの背中に
しがみ付いているのが
目を閉じた孤独な嬰児ではなくて
丈夫な根を生やした
小さな星を宿した樹であって欲しいと
そう思うからでもある
その星では
皆が思索を深め
直観の閃きを追い求め
お互いの顔色など気にも留めない
そうであることを
明るい空色の脳裏に
共感している
今という
永遠に捕らえられることのない盗人は
全てを奪い去り消し去ってしまう
その姿は決して感知することは出来ないから
わたしはタイムワープを試みる
それは予測ではなくて
予感または予知夢として現れる光景
知覚時間限界の堅固な壁をすり抜けて
空想のやわらかな虹いろの雲へ至り
今の刹那を振り返れば
わたしの後ろに連なっている
知らない顔 顔 顔
存在の連続と連鎖は
過去からの鎖
われわれは最も先端の一つの輪だ