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2126年 1月20日 8:47 状態:アドレナリンの分泌を検知

生き残るためのマニュアル


廃墟での敵は足場だけではありません。落下物、溜まったガスなども考えられます。

ガス溜りでは火を発生させないように注意しましょう。特に発砲などです。

発砲の前にガスの有無を確かめましょう。

 ゆっくりと部屋に入ると、沢山のデスクトップパソコンが目に入った。壁掛けのホワイトボードには何かのグラフ。慎重にクリアリングを進めると、奴が居た。クリーチャーだ。

 クリーチャーは俺に背を向けて、悠々と椅子に背を預けていた。まだ気付かれていない。クロスボウをスリングに、腰からトマホークを抜いた。奴が生きていようと死んでいようと関係ない――どちらにせよ、頭に1撃叩き込んでやるつもりだった。


 背後から接近し、トマホークの刃を思い切り叩き付ける。スチール製の刃は頭蓋骨を容易に叩き割り、クリーチャーは一瞬四肢を痙攣させた後、椅子からずり落ちた。


 トマホークに付着した血液を払い、鞘に入れて部屋を通過する。3階へ続く階段は殆ど崩壊していたので、ロッククライミングの様によじ登った。

 驚く事に、3階では雨が降っていた。天井の亀裂から、雨水が絶える事無く降り続いている。この様子では、上の階はもっと酷く損傷しているかもしれない。薄暗い廊下を進むと、大きく開けた部屋に出た。扉横のプレートには会議室と書いてある。見晴らしの良かったであろうガラス張りの窓は殆ど割れ、蛍光灯は天井から落ち、ケーブルだけでぶら下がっていた。


 そして、大きな部屋にはやはりクリーチャーが居る。部屋の中には合計で3体のクリーチャーが何をするわけでも無く、ただ突っ立っていた。背を丸め、両手を力無く前に垂らしたその姿は夢遊病患者にも見える。

 3体を同時に相手取るのは良くない。出来るだけ気付かれずに倒す必要があったが、音を立てずに生物を殺傷できる武器は少ない。クロスボウは連射が効かない上、急所に命中しなければ即死たり得ないし、ナイフで首を切ろうにも、しっかり口を塞がないと激しくのたうち回って気管から喘ぎが漏れる。

 頭の中で何通りかのシミュレートし、その内最も上手く行った物を実行しようとした――その時だった。


 一瞬、周囲を激しい閃光が包み、地の底から轟く様な大音量が木霊した。遅れて突き上げる様な衝撃がビルを突き抜け、建物全体が大きく軋む。蛍光灯の1つがケーブルから離れテーブルに落ち、天井から剥離したコンクリート片がヘルメットに当たった。それなりの衝撃に襲われたが、気にしている暇は無かった。雷のお陰で、クリーチャー共が騒ぎ出したからだ。


 部屋の一番奥にいたクリーチャーが口を大きく開けた。地下鉄と同じタイプの奴だ! この場を静かに切り抜ける方法は最早失われたが、再びヒステリーを聞くのはうんざりだ。俺はクロスボウの狙いを“ヒステリー”に定め、迷わず引き金を絞った。放たれたボルトは大きく開けた口腔に飛び込み、ヒステリーは直立不動で真後ろに倒れた。


 だが、他の2体は俺に気付き、走り出そうとしている。クロスボウをスリングごと投げ置き、右のレッグホルスターからPX4を抜いた。コッキングは済ましている、安全装置(セーフティ)を右親指で外し、俺に近い方のクリーチャーに発砲した。片手での発砲だったが、それでも幾つかの.40S&W弾が命中する。だが止まらない――違う、奴は死んでいて、ただ勢いで進んでいるだけだ。首を失った鶏の様に。


 俺が左にずれると、奴は俺が居た場所に突進し壁に衝突した。しかし、目の前にもう一体が迫っている。PX4の照準を定める猶予は無い。PX4もクロスボウと同様に手から離し、ラグビーのスクラムの要領で迫りくるクリーチャーに組み付いた。

 凄まじい力だ! 押し倒される前にシースナイフを抜き、クリーチャーの腹目がけて何度も何度も突き刺した。流れ出る血液でナイフのグリップが滑るが、それでも離さないよう必死だった。何度目の刺突だったろうか? 漸くクリーチャーが脱力し、死んだ。


 今やビルにはクリーチャーの叫びが響き渡っていた――地下鉄の時の様に。

 クソが、どうしてこう上手く行かないんだ? 俺は苛立ちを込めてAK12のコッキングレバーを引いた。


 



 


 



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