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2126年 2月7日 8:29 状態:地震を検知

生き残るためのマニュアル


シェルターには耐震構造が施されていますが、強い地震の後は破損個所がないか確認してください。

また、余震には十分注意し、しばらくの間地表活動には注意してください。

 今日で血清投与から約21時間。最大の効果が発揮されるのは48時間後、つまり大体後1日は待たなければならないのだが、半日でどのくらいの効果が出たのか見ておきたい所だ。

 本来なら地表活動に繰り出している時間だが、今日はシェルターでミュータントの経過を見守る予定だ。一応量を調節した麻酔を継続投与して眠らせてはあるが、いつ目覚めるかなど分かった物じゃない。ミュータントに俺達の常識は通用しないのだ。

 

 グレーゾーンで防護服を着て、全身をエアシャワーで消毒してから実験室の扉を潜った。厚さたった数ミリの薄っぺらい防護服が、ここでは鋼の鎧にも匹敵する価値を持つ。今の所実験室内から有害な、或いは新種の細菌、ウイルスは検知されていないが、防護服には自分に付着したそれらを持ち込まないという意味もある。人間は無害有害問わず、常に多くの細菌などを持っているのだ。

 近づいて安全キャビネット越しに見ると、麻酔が効いている様で、一定のリズムで胸を上下させて眠っていた。よく観察すると、幾らか血色が良くなっているし、ハリも戻っている……気がする。言われて気付く程度だが。

 そもそも、血清を使えばどの程度まで人間に戻るのかを俺は知らない。完全に元の人間に戻るのか、ある程度なのか。それとも中身だけ戻るのか。もし中身だけだとしたら、その後の精神的なケアが必要になるだろう。ミュータントの時の意識があるかは知らないが、人間としての自覚が戻った時に体が全身大やけどの様では少なからずショックを受けるはずだ。


 バイタルも数値上問題無し。今までの記録を取っておこうとしたその時、僅かな揺れを感じ、その後直ぐに大きな揺れに襲われた。

 それなりに強い揺れに恐怖を感じ、両手でテーブルの淵を掴んだ。視線を横に向ければ点滴スタンドに吊り下げられた麻酔が左右に揺れていた。

 始めこそ恐怖したが、少し経てば頭が多少は冷静になって今の状況を考える事が出来た。これは地震だ。そう理解した頃には、もう揺れは収まっていた。直ぐに立ち上がり、周囲を確認。実験室に問題無し。落下物も見当たらない。

 安全キャビネット内のミュータントも変わらず眠ったままだった。

 一安心していると、シェルター内に電子音声が流れた。


『地震を検知、震度4です。この地震による損傷はありません。居住者の皆様は、既定のプロトコルに従って冷静に行動して下さい』


 ここは4枚ものプレートの衝突部の上に位置する大陸。地震大国日本だ。これまで幾度となく地震の被害にあって来た先人たちは耐震構造と呼ばれる構造を生み出した。このシェルターにも最新最高水準の耐震構造が設置されているので、震度4程度の地震なら何でもない。

 だが、外はどうだ?100年間放置され風化した建物は? 強い風で壁が剥離する程だ。俺は急いで地表へ向かった。





 地表へ上がると、俺の視界は濃い土埃に阻まれた。ガスマスクのレンズに付着した微細な塵を拭いながら進むと、足先に大きなコンクリートが触れた。目線を上げると、半ばから折れたビルから太陽が顔を覗かせていた。

 近くの瓦礫の山に登って初めて状況を理解した……辺りの高層ビルの大半が崩壊していたのだ。完全に崩壊しておらず、一部が崩落した建物も多かったが、高い建物は軒並み無くなっていた。

 周りの高層ビルに思い入れは無かったが、1つ気掛かりがあったので少し歩くと、崩壊したビルを発見した――自動で無線を流していたビルだ。これで、再び何処かにまた無線機械を設置しなくてはいけなくなった訳だ。





 余震を警戒してベットの周りから物を退かし、今日はもう寝る事にする。無線装置が壊れたのも道が瓦礫だらけなのも面倒だが、仕方が無い。自然には勝てないのだから。

 病院に血清を取りに行ってて良かった。きっともう病院は無くなっている筈だ。瓦礫の山からアタッシュケースを探すのは御免だ。


 明日には血清の効果が出ている事を期待して目を閉じた――その時、再びシェルターを強い衝撃が襲った。

 

 

 


  



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