2126年 2月3日 6:13 状態:ストレスを検知
生き残るためのマニュアル
高放射線下で放射線防護服を着用して活動する場合、自分の周りに細心の注意を払ってください。
鋭利な物は大変危険です。
また、防護服を着ていたとしても、長時間の活動は危険です。
最低の目覚めだ。むしろ寝る前より疲れている気がする。
あのクソ野郎め……人の眠りを妨げやがって。今度何処かで会ったらぶちのめしてやる。
ベッドの傍らのエンドテーブルから水のペットボトルを取って、口に流し込むと幾らか気分が落ち着いた気がした。
今日は病院を探索する日だ。余りダラダラとしてはいられないだろう。今は時間が惜しい、さっさと朝食を食べて、シェルターを出る事にしよう。
本日は晴れ。幾つかの雲が見て取れるが、天候が荒れる兆候はなさそうだ。
必要の無い荷物……要するに放射線防護服と武器と最低限の食料以外はシェルターに置いてきたため、昨日よりは身軽に動くことが出来そうだ。もし病院内にクリーチャーがいて――十中八九いるだろうが――そいつから防護服を引っ掻かれでもしたら大変だ。そんな考えただけでもぞっとするような事態を避けるためには、出来るだけ身軽でいる事が望ましい。
この調子で歩けば昼までには病院に着けているだろう。到着は早ければ早いほど良い。その分病院を調べる時間が増える。
病院に続く所々崩落した橋を歩いていると、突然橋の下から水が跳ねる音が聞こえた。反射的にスリングのAK12を掴み、橋の下を流れる川に銃口を向けた。
ACOGサイト越しに小柄なミュータントが見える。そいつは川に両手を突っ込み、身じろぎ一つせずにじっとしていた。そして機敏な動きで腕を引き上げると、そこには大きな魚が掴まれていた。
異様な光景に引き金を引けずにいると、そいつは俺に気付き、慌てて立ち上がった。そのクリーチャーは襲ってくるでも、逃げるでも無く、ただ俺を見つめていた――瞳に深い恐怖を湛えて。
暫くお互いに動けない状態が続き、先にクリーチャーが静寂を破った。すぐ横の大きな下水道口に逃げ込んだのだ。何なんだ? 今のは。
クリーチャーが逃げるなんて信じられなかったが、今見た物は間違いなく現実で、事実だ。病院までの道で理由を考えながら歩いたが、理由はさっぱり思い当たらなかった。
ようやく辿り着いた病院は見た目上、思いの外崩れていなかった。それもそうか、何せ戦後の科学者達が研究に使えてたぐらいなんだから。
バックパックを下ろし、中から折りたたんだ放射線防護服を取り出す。装備していたタクティカルベストを外して、着込んだ放射線防護服の上から再び装備。最後に背中に酸素ボンベを背負って準備は完了だ。
病院の中に入れば、この防護服だけが俺を放射線から守ってくれる唯一の壁になる。数mm隔てた先は生物が生存できない、存在を許されない世界だ。
クリーチャーに防護服を破られたら終わりだ……俺はモスバーグM500をコッキングして病院に踏み込んだ。




