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2126年 1月20日 10:01 状態:危険

生き残るためのマニュアル


炎は殆どの生物に有効です。しかし、炎を武器にする場合、自身にも大きな危険が付きまとう事を忘れないで下さい。

 変異種ほどの巨体が体に落下すればどうなるかは明白だった。俺は歯磨き粉のチューブを想像し、慌てて左に転がった。

 俺が避けた直後に変異種は着地し、床を崩落とはいかないまでも陥没させた。奴が床に刺さった足を抜こうとしている隙に距離を取り、体勢を整えた。呼吸は苦しかったが、デバイスから無針注射されたモルヒネが痛みを和らげていた。俺はAK12の銃口を変異種に定めた。奴も足を引き抜き、戦闘態勢を整えていた。


 変異種が爆発的加速で迫ってくる。迎え撃つようにAK12の引き金を引き絞った。フルオートで放たれる

5.45x39mm弾が次々と命中し、体内でタンブリングを起こすが変異種はその勢いを緩めない。30メートルあった彼我の距離は直ぐに縮まり、変異種が肥大化した右腕を後ろに引いた。

 俺は叩きつけを予想したが、それは薙ぎ払いだった。右に飛ぼうとしていた身体を無理矢理リセットし、体勢を低くする。鞭の様にしなる右腕が空気の唸りと共に頭上を通過し、コンクリートの柱を粉砕した。


 その隙に再び距離を取り、フルオートで弾倉が空になるまで射撃した。今度は右腕を狙っての射撃だ。しかし肥大化した右腕は硬質化した何かで覆われており、その悉くが弾かれた。変異種は怨嗟の唸りを上げ、ひしゃげた弾頭を踏み潰し突進してくる。

 廊下まで後退しつつ、膝を狙って指切り射撃を行う。構造上な弱点である膝関節目がけての射撃だ。しかし、高速で走る変異種の膝を狙うのは容易では無かった。殆どは命中せず、唯一の命中弾は何発かが掠っただけだった。


 突進を部屋に逃げ込む事で躱す。変異種は減速できずに進み、反対側の壁にぶつかった事がビルを襲った衝撃で窺い知れた。どうも奴は知能は低いらしい。俺を探しているのか、大きな唸り声と凄まじい破壊音が聞こえてくる。辺り構わず破壊して俺を見つけ出そうとしているのだろう。


 AK12で変異種を倒すのは困難だ。奴の体は生物学的に有り得ないほど堅牢で、強力な回復能力も備えている様に見える。しかし、変異種を殺し切る武器が無いわけでは無い。だが、その武器を使うには至近距離まで接近する必要があった。敵は変異種だけでは無く、自身の恐怖心にも打ち勝たなければいけない。


 深く深呼吸。呼吸を整えて、覚悟を決め、廊下に躍り出る。AK12をスリングに、トマホークを右手に叫んだ。


「おいクソ野郎! 俺はここだ!」


 変異種が俺を見つけ、正対する。お互いに睨みあう時間が続き、向こうが先に走り出した。勝負は最初の一撃に掛かっている。奴の拳を喰らえば一撃でお終いだ。集中し、その時を迎える。

 変異種は勢いを利用した右ストレートを放って来た。一撃必殺の威力を十分に秘めた拳。だがここで竦んではいけない、自分に喝を入れ、拳に突進する。


 限界まで引き付け、ギリギリで身体を右に逸らし、右ストレートを屈む様に躱す。この瞬間、奴に隙が生まれた。屈んだ姿勢を戻し、そのまま奴の顎関節にトマホークを叩き付けた。半ばまで刃を埋めたトマホークから手を離し、腰のポーチから切り札を出す。


 TH3焼夷手榴弾――サーメートだ。左手で変異種の口を開き、右手で安全ピンを抜いたTH3焼夷手榴弾を突っ込んだ。手を離し、急いで距離を取る。

 変異種が体勢を整え、再び突進しようとしたその時。TH3焼夷手榴弾が爆ぜた。変異種の口内から眩い光が漏れ、あっと言う間に炎が燃え広がる。温度にして約2200度、テルミットを主成分とした、充填剤のサーメートがテルミット反応を起こしたのだ。


 燃焼時間僅か3秒。しかし、その3秒間で変異種の上半身は燃え落ちていた。顎に刺さっていたトマホークすら溶解している。砂が溶ける程の温度に、生物が耐えられる訳も無かった。





 その後、屋上に上った時には雨は上がっていた。雲の隙間から日光が差し込んでいる。天使の梯子だ。

 俺は無線機で放送を行い、フレアガンからフレアを発射した。フレアは高く上がり、青い煙を広げた。煙が消えるまで屋上に居たが、結局街から反応は帰って来なかった。

 

 だが俺は諦めてはいない、まだフレアは沢山ある。フレアが尽きるまで、この屋上から放送と打ち上げを続けるつもりだ。


 




俺の名は――これから毎日この――放送――十分な食料と設――場所は――俺は生きて――

――2126年1月20日10:39 無線電波にて受信

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