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天高く濃緑の長い葉がしなり、強い透明の光が、その隙間からきらきらと突き抜けた。
学者だという男と腐沼で別れ、東に歩き続けてあれから一週間。リュエルと、その旅の伴侶である小さな獣は、豊かなオアシスの街に辿り着いていた。雑然と泥壁の家々が立ち並び、行き交う人々の喧騒が乾いた熱い空気に満ちている。
「……さあ、どこから探しましょうか……」
すっかりとあの薄汚れた粗末な外套を捨てたリュエルの姿に、人々が立ち止まって眺めたり、通り過ぎたのが振り返ったりというのも珍しくは無かった。ここには白い肌の者より、濃い色の肌の者が多いという珍しさもその理由のひとつではある。肩に乗せた小さな獣が珍しいという理由もある。ただ、リュエルを見るその大半が男だというのには、やはり何かの意味があるのだろう。
当人はそれを気にするでもなく、ただ普段通りに肩に乗ったイタチに似た獣の顎を指先で優しく撫でた。
地面の照り返しが、衣服を挟んでもその凄まじい熱を体に伝える。けれど湿気が無い為、気温の高さの割には負担がなかった。汗もすぐに乾く。やっかいなのは気温よりも、空気が砂塵交じりだということだった。
腐沼ではそうしないのに、薄布を鞄から取り出して口に当てると、リュエルは、ぼんやりと陽炎立つ街の中心部を見つめた。色とりどりの日よけ布を通りに張り出す幾つもの露店が、砂埃と数多の人影に霞む向うの方まで並んでいた。
ここは砂漠の街、ヴァイヤール。森や荒原を横切りながら東西に大陸を貫く街道の、東の終着地点。ここらを旅する者たちが必ずと言っていいほど立ち寄るところだ。
気候的に厳しい土地に位置し、本来農産物に乏しいが、それを補うように工芸が盛んで、優れた金細工や織物を求めて、年中、沢山の商人たちが隊を成して訪れる。その護衛、さらにはそれを相手に商う者たちなどが連鎖的に集い、砂漠の中にあるとは思えないほどの大都市を形成していた。
豊かな資材を駆使して今では常時収穫できるようになった色鮮やかな果物を扱う店の隣には、よく磨がれた刃が並べられる店がある。そしてその隣には、掘り出したばかりの宝石の原石を売る店、家畜を紐で繋いで売る店もある。行き交う人々も多様で、褐色肌、赤銅肌、黄色肌、リュエルのように白い肌の者も少ないがいる。それに体つきも筋肉質で大柄なのもいれば、細身で小柄なのもいる。大陸各地からやって来た物も人も、ここでは全てごちゃまぜにされている。
「島大陸の西端から始めた旅も、ここで行き止まりです。ここにはマティアスの手がかりはあるでしょうか……」
リュエルの伴獣が、くんくんと乾いた空気に鼻を鳴らす。そうして、鼻先を市に向けた。進め、と促すように。主は小さく頷く。
「そうですね。立ち止まっていても仕方ありません。きっと、いつものように不慣れな顔して歩いていれば、誰かが近づいて来てくれて、程よい人物にまで辿り着くでしょう」
リュエルは意味深げに微笑むと、獣を反対の肩に回らせ、眼前の雑踏の中へと入り込んで行った。