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月が昇る。
身を引き込まれてしまいそうな、ぞっとするほどの無限の漆黒。その上に厳かで清廉な光が浮かぶ。その下をいくらかの人々が行く。リュエルとシアンと、騎士たちだった。
戦いの初めにオロフに逃がされた逃れた騎士たちは、ずっと、荒廃した森の中に隠れ、様子を伺いながらリュエルとシアンを待っていてくれたのだ。できるなら加勢したいと思っていたのだと。しかしそれはできるはずがない。もどかしい思いをしながらリュエルが戦う半時あまりを過ごしたのだという。塔が崩れ、元々放たれていた炎とオロフの術の熱によって燃え、灰の山に変わったあとでようやく、半死半生の傷だらけの騎士たちがやっとのこと這うように戻ってきた。
牛を繋げた粗末な荷車ひとつに、僅かな人と荷物を載せて、湖畔を離れ、森を出て、細い道を進んできた。馬車が破壊されてしまったので、畜舎にあった荷車を出したのだ。塔の人々は、それでようやく旅に出ることができた。足が無事な者は歩き、出血がひどい者や歩けない者は荷物とともに荷台に載せた。舵を取るのは唯一無傷のシアンだ。
行く先に当ては無い。率いる者も失った。穏やかに人々を動かしてきた、柔らかな指導者はもういない。つい先ほど、影となって永遠に消えたのだ。
あのあと、リュエルは気を失って倒れてしまっていた。今は荷車に載せられ、怪我をした騎士たちの後ろに転がっている。荷台が狭いからだ。木箱と大きな麻の袋の間に挟まれるようにして、起きているのか眠っているのか判らない虚ろな目がついた頭を、荷車が揺れるのにまかせて同様にする。その頬には、乾いた涙の跡が筋となって残っていた。トゥキが動かない主を見つめて、小首を傾げる。
騎士のうち、重篤な幾人かは森を出てすぐの集落に残してきた。足手まといだという理由からではなく、命の危険があるからだ。申し訳がない、ふがいない、回復した時には必ず合流すると、騎士たちは涙ながらに誓った。
その村をすぐに離れたのは、やむなくとはいえ置き去りにしていく騎士たちへの罪悪感からではなく、マティアスからの追っ手を警戒しての事だった。かつて古木の塔に集結していた百人余りのラクィーズ兵は、シアンとリュエルを含めても、ここで六人となってしまった。不幸な事に、六はラクィーズでは凶数だと言われていた。騎士たちの顔が心なしか、一層暗い。
がたごとと、ただ人々は田舎道を行く。




